96 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 21:00:03


一、唐突に唱えたくなった! Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah'nagl fhtagn!

ああ、汝、死して横たわりながら夢見るものよ、
汝の僕が呼びかけるのを聞きたまえ。
ああ、強壮なるクトゥルーよ、わが声を聞きたまえ。
夢の主よ、わが声を聞きたまえ。
ルルイエの塔に汝は封じこめられしも、
ダゴンが汝の呪わしい縛めを破り、
汝の王国が再び浮上するであろう。
深きものどもは汝の秘密の御名を知り、
ヒュドラは汝の埋葬所を知れり。
われに汝の印をあたえたまえ、
汝がいずれ地上にあらわれることを知りたいがため。
死が死するとき、汝のときは訪れ、
汝はもはや眠ることはなし。
われに波浪を鎮める力をあたえたまえ、
汝の呼び声を聞きたいがため。

ルルイエの館に死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり、
されどクトゥルー甦り、その王国が地球を支配せん



 そうして、―――狂った神話が、降臨した。



 地球が恐怖に鳴動した。大空がどす黒く腐っていく。海原は恐々と自ら割れて道を開け、津波の讃歌を斉唱する。哀れ、島々は無力に泣き崩れた。絶望という言葉すら生温い。雲は次々と崩壊し、神々が我先にと自害した。世界が世界である事をやめていく。終わりですらない。終末すら許されない。終焉の終焉。王国の始まり。

 全ての原因はただひとつ、夢の主が目を開けただけ。

 おぞましすぎるその姿は、巨大すぎるイカか、タコか。無数の触腕が無気味に蠢き、手足には鉤爪、背には翼。ありえない。存在だけで吐き気がする。目が合っただけで狂死しそうだ。ああ、いっそそうなりたい。その死に方すら、生きてこいつと相対す事と比べたら、極楽のように思えるのだ。

 恐怖に心を縛られてから、自殺できなかった事を後悔した。狂ってしまえば楽だった。山よりも巨大。あまりにも巨大で邪悪な存在。息ができず声がだせず心臓が動かない。体と心がかき混ぜられる。耳の中で爆音が止まない。脳漿を口から吐きたくなった。たすけてくれ。誰でもいいから温もりが欲しい。正気の慈母の腕に抱かれて、自分が生きてる事に安心したい。

 遠坂は言葉すら思い出せず。
 桜は狂った笑顔で泣いていて。
 イリヤは冷たく凍っていて。
 ルヴィアは自分を殺そうと懸命で。

 守りたかった人たちを守れずに。頼りたかった人たちに頼れずに。あの日見た理想は見失い。なあセイバー。俺は、ここまでの男だったのかな。呆然と邪神を見上げるしかない、そんな奴が正義の味方なんてお笑いだ。自分を嘲って笑おうとして、なぜか泣いてる事に気がついた。

 ごめん、セイバー。ごめん、親父。衛宮士郎は、最後の最後まで大馬鹿者です。

 無駄とは知ってる。無意味だと分かってる。それでも―――。

 右手の人さし指を折って正気を得た。撃鉄を片っ端から叩き落とし、回路にマグマを流し込む。ギヤを回せ。ちっぽけなギヤを。たとえ、あの化け物に傷一つ負わせられなくても、みんなを逃がしてやれればそれでいい。奥歯を噛み締め、絶望を蛮勇で上塗りしろ。脳裏にはあの至高の聖剣。最愛の女性が振るった黄金の剣。二度と魔術が使えなくなってもいい。燃え尽きて体が壊れてもいい。だから、だからお願いだセイバー。俺に力を貸してくれ!

 創造の理念を鑑定し―――!
 基本となる骨子を想定し―――!
 構成された材質を複製し―――!
 製作に及ぶ技術を模倣し―――!
 成長に至る経験に共感し―――!
 蓄積された年月を再現する―――!



 これは、人々の願いを星が鍛えた―――
 ―――愛する少女の願いが込められた



     約束された、勝利の剣。



「勝っ、た……?」

 信じられないけど、勝ったんだ。光は化け物の中心を貫き、その大部分を消し飛ばした。膝が笑っている。声を出す気力もない。右腕は多分砕けてるし、魔力だってすっからかんだ。いま、自力で立っている事自体奇跡だった。いや、奇跡ならそれ以上のものがある。本当に、信じられないけど、俺はやったんだ。ほら、残骸もゆっくりと崩れ落ちて―――。

 瞬く間に再生した。

97 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 21:00:53

「あ……? え……」

 思考が追い付かない。なんでだ。倒したはずじゃないか。再生? おかしい。どんな生命力をしているんだ。冗談。冗談に決まってる。そうじゃないと、俺は、みんなは……。冗談? いや、そもそも。

 勝ったという思い込み自体が冗談だったのか。

「みんな、逃げてくれ……」

 無駄だと分かっていても呟いた。不様だ。こんなになっても正義の味方という理想に縋り付いてる。無力なのに。諦めきれずに。ああ、笑ってくれ、セイバー……。

「いえ、それは違います。あなたの活躍は素晴らしかった。やはり士郎は私の誇るべきマスターだ」

 いま、どこからか。決して聞こえるはずのない声がした。

「ですがここから先は私の領域です。命令を、マスター。我が祖国の為。我が人民の為。そして何より、愛する一人の男性の為。これよりあの不様なタコを見事屠ってみせまよう」

 無意識のうちに頷いていて、そのまま闇の中に落ちていった。安心したから。信じてから。俺の愛する最高の剣士。彼女ならきっと、どんな強敵でも打ち破ってくれるって。



       ,r‐-、
.      ,!         _
.      i, _,r‐''''ヾ,_`、_
    ,r'ブ、        `.、`フ
  ,r' .,f'´ ,r f  .i 、 , i  i`ト、
    ,f  ,f ,'´i  ,'`、 ;`、ヽ,! .! Yi、
    i  i i, ' ' ヽ;  ヾ,'`ヽi__ i、!``ー‐┐
    ` i'i ̄ ̄    ̄ ̄ ! .! ,ト、`ヾ;┘ もっきゅ、もっきゅ、……ごくん。
.     ! ┿━━   ━━┿ .!'  `ー′  …………タコ(゚Д゚)ウマー。
.     i ,ト、      , ,  i ,!
      i ! ` 、__________,,/i,`′
      ヽ,!  .f  /人;!/  i,
          ヽ,r`i___iヽ,/___!
.         ,r`.、,!:.:.:レ':.:.:.:.:>-、
        ,r:i;.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.':,ゞ-ゝ
         `ー--´`ー--‐´



 目覚めるとセイバーはいなかった。ただ、遠坂が泣いていて、桜が泣いていて、イリヤが泣いていて、ルヴィアが泣いていて。ベッドから起きようとしたら縋り付いてとめられて。無茶をするなと泣いて怒られた。

 ……あれは、ただの幻だったのだろうか。

 魔術で治してもらったはずの腕が痛んだ。セイバーのせいだ。彼女の思い出が輝かしすぎるから、今だに全く忘れられない。俺のせいだ。魅力的な女性達に囲まれてるのに、セイバー一人を忘れられない。

 窓の外には見事な夕焼け。そこに怪物の姿はなく、名状しがたい狂気もない。浜辺を眺めたとき、大量の焼き蛸を大喜びで食べてるネコアルクとセイバー、なんて微笑ましくもありえない幻覚が見えて、少しだけ気分が楽になった。
98 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 21:01:49
 気を取り直してキッチンに行き、夕食の仕度を手伝う事にした。当番だった遠坂はじめ、みんなには止められてしまったけど、大丈夫だって笑ってみせる。

「大丈夫。無理はしないさ。それに、俺から家事を奪ったりすると、手持ち無沙汰でかえって治りが遅くなるぞ」

 冗談めかしてそういうと、しぶしぶ、簡単な仕事だけならと了解してくれた。手を洗ってエプロンをつけると気合いが入る。やっぱり料理はいい。自然と心が安定する。



ん? なんか床板がガタガタいってるぞ?
一、遠坂、宝石を貸してくれ。
二、桜、おっぱいを貸してくれ。
三、イリヤ、今履いてるパンツを貸してくれ。
四、ルヴィア、ドリルを貸してくれ。

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最終更新:2006年09月04日 17:10