285 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/06/25(月) 04:36:50
「その前に商店街にでも寄って行きませんか? 少しくらい足りない物もあるでしょう?」
そんなことをヴェルナー氏に提案する。
考えてみればイリヤは昨日今日と家にいたわけだし、もう一人の上位者であるあの人自身はどう考えるか知らないが、一人でも顔を知っている人が居たらパニックになるだろう。
知名度は近代という事もあって最大級。
そっくりさんとか、そう言うレベルではない事だし。
「ふむ……確かに、ウチの主はここ数日間部屋に籠もり何事か書いているな……恐らく『嘘と臆病、愚かさに対する四年半』の改訂ないし新作だとは思うが……英霊の身でまこと大した物さね」
「……ああ、『我が闘争<<Mein Kampf>>』のことですか」
そちらのタイトルは恐ろしくマイナーだと思う。
以前ライダーの部屋にあったので読んだことはあったが日本語版を流し読みしただけで頭の中が痒くなってとてもじゃないが読めなかった記憶がある。
ライダーも似たり寄ったりだったようで、最初の数ページに栞が挟まれたまま埃を被っていたのを覚えている。
「では商店街へ、紙束やペン、インク、それにタイプライター、ついでに野菜があれば文句はない」
流石に今の時代にタイプライターはないかと思います。
「おや……?」
商店街の一角、古びた文房具店に向かう途中、何やら大声が聞こえる。
この距離からでは内容は理解できないが、発音からして日本語に慣れていない人物のようだった。
「罵声、よね?」
どちらかというと罵る、というよりも怒声と言った方が良いかもしれないが、とにかくそう言った類の声だ。
「何やらもめ事のようだな」
「なんでしょうね?」
角を曲がると、どうやらもめ事の大本は目的地である文房具店らしい。
市内の地図を持った男性が片言の日本語で何やら喋っている。
声は大きく、この距離なら十分に内容が……
「高いヨー! コノ地図高いヨー!」
……値切り交渉?
「そうは言ってもねぇ、それが定価だからねー」
店長が頭を掻きながら対応しているが、いかにも面倒そうである。
「どうしたんですか?」
とりあえず店長に声をかける。
「ああ、衛宮の所の……いやね、この外国の人が市内の地図が高い高いって言って聞かないんだよ」
「……それはまた」
迷惑な客である。
「ボーイ、ミドルイーストじゃ値引きはトーゼンなんだぜ?」
矛先がこっちに向いた。
「日本じゃそんな習慣はないってのを教えても納得してくれないんだよねー……」
確かに、露天商、または賞味期限切れ寸前の食品とかならばともかく、文房具の値引きなんて聞いたことがない。
「ふむ……イリヤ嬢に衛宮君、紙束やインクの類を探しておいて頂けますかな?」
「良いけど、どうしたの?」
イリヤが少し首を傾げる。
「騒がしいのはどうにも嫌いでしてね、きちりと説明してあげれば彼も納得してくれるでしょう?」
「してくれるかしら? 相当頭に血が上っているように見えるけど?」
会話の間も男はヒートアップは止まらない。
「その時はその時、さっさと買ってこの場を離れることにしましょう」
「分かったわ、それじゃ行きましょ? シロウ」
286 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/06/25(月) 04:37:39
「良いのかな? なんか話してるけど」
少し離れていると言うことが理由ではないのだが会話の内容が全然分からない。
何しろ会話が日本語でも英語でもない……だが幾つか分かる単語がある、あれは……
「ドイツ語か?」
自信はあまりないが。
「ドイツ語ね……シロウ、何話してるか知りたい?」
見てみると男性の勢いが削がれているのが見て取れ、イリヤはイリヤでうんざりした表情をしている。
「ちょっと興味があるが……やめておくよ、あんなに勢いが削がれて意気消沈するような内容の話は好きこのんで聞きたくないね」
正面を見据えて睨み付けるようだった視線は弱々しくなり、頭も俯き加減になってしまっている。
「そうね、あんな丁寧な罵倒、私も話したくないわね……シロウがそっち方面に目覚めるのも嫌だし……あ、でもシロウがそういうの好きならやってあげるわよ」
なんか凄いことを言われた。
「言っておくけど俺はその類の趣味はないからな……それよりもイリヤ、ペンはどういうのが良いんだ?」
紙束と、下書き用の原稿用紙と鉛筆を手にとってイリヤに聞く。
「物書いたりって経験無いからちょっと分からないかなー……」
「それじゃ適当に何本か、太さとかが違うのを買っておこう、イリヤは何か欲しい物ってあるか?」
「んー……特に無いかな? 本があれば良いけど、邪魔になるかもしれないし」
「それじゃ、欲しい本があったら言ってくれるか?」
「うん、わかった」
「ああ、申し訳ない、荷物を持ちましょう」
イリヤ曰く『丁寧な罵倒』で男を追い払ったヴェルナー氏の顔は実に晴れやかだ。
「あ、いいですよ、俺が持ちますから……それよりも、紙やらペンはこれで大丈夫ですか?」
中身を出して見せる。
イリヤのお気に召すような本は無く、結局紙束やインク、ペンの類だけの買い物になった。
「ええ、これだけあれば問題はないでしょう、問題があるようなら後日回に来れば良いでしょうし、ね」
それだけ言うとさっと歩き出す。
「それでは行きましょうか」
次に複数の野菜をまとめて買い込み、それはヴェルナー氏が持つ事となった。
イリヤも持つと行ったがそれは二人して反対した。
287 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/06/25(月) 04:38:39
「ふむ、ではこの辺りでお別れと言うところかな?」
森の入り口で、そんなことを言われた。
「城まではまだかなりあるはずですが……?」
あの時以来、城には行っていないが、ここからさらに歩かなければ城には辿り着けないのは忘れようもない。
「なに、ここからなら丁度日も落ちる頃だろうし気にすることはない、森の中にはルントシュテットの師団も存在しているし、我々を護
衛していた者達も忘れたわけでは無かろう?」
そう言うと同時に数人が実体化し、荷物を渡せと言うように手を伸ばしてくる。
ここでごねてもどうにもならないので黙って手渡すが、軍服に買い物袋というのはどうしようもなく違和感がある。
「この二日間、イリヤ嬢は退屈せずに済んだようだ……ありがとう」
ふっと声の方に振り向くとヴェルナー氏が深々と頭を下げていた。
「君の家に留まらせた方が、嬢には良いのかもしれないが、私だけの意思ではそうはできなくてな」
「いえ、気にしないでください、むしろイリヤをこんなに家に留めてしまって貴方の職務に支障を来してしまったと思っていますし」
しかもその場合恐らく『彼』も家に来るだろうが……多分そうなると一般人、主に氷室女史だろう——にも分かってしまうよね、正体と
か。
そうなると色々と問題がありそうだ。
「シロウ……私からもありがとう、この二日間、凄く楽しかったわ」
にこりと笑って手を振っている。
その笑顔の前では何も言えはしないし、思考も全て失せていく。
同じように手を振る。
名残惜しいが、今日はここで帰らざるを得ないだろう。
「ああ、待ちたまえ」
頭を上げたヴェルナー氏に呼び止められる。
「……なんです?」
「昨日に続いて今夜も戦うのかね?」
「避けられるならば避けますが、恐らくは」
新都に潜むという魔術師、その存在が危険なものであるならば、絶対に排除しなければならない。
逆に巻き込まれた人間が逃げ込んだというのならば、守らねばならない。
だが、仮に昨日起こったという行方不明事件の犯人がその魔術師の所行だとしたなら、己の罪の深さを思い知らさねばなるまい。
「……そうか、立場上加勢することは出来ないが、無事を祈っているよ、イリヤ嬢の為にも、生き残ってくれたまえ」
「ヴェルナー、一言余計よ……言わなくったってシロウは大丈夫だもん」
頬を赤らませながら膨らませて、イリヤがそっぽを向き、ちらりと視線を向けてくる。
声には信頼と言うよりも願望の割合が高いように思えた。
「ああ、気をつける、応援しててくれよ?」
イリヤに笑みを向け、親指をぐっと立ててみせる。
「……うん、応援してる」
「それじゃ、また今度」
「ああ、とりあえず、無駄かもしれないがこれを持って行くと良い……場合によっては役に立つはずだ、少しはな」
ホルスターから抜き出して手渡される。
続いてホルスターを外し、それも手渡してくる。
「これは……ワルサーPPK?」
007シリーズでジェームズ・ボンドが使っていた記憶がある。
「その通り、7.65mmのACPがフル装填されている……扱い方は分かるかね?」
「えっと、映画の通りなら大丈夫です」
いつぞや飲まされたフィンランディアと言い、ボンドに縁があるね最近は。
ホルスターに数個の予備弾倉が取り付けられているのを確認し、セーフティーを解除し、再びロックする。
軽くトリガに力を込めてみれば、完全にロックされている。
作動不良の心配は無さそうだ。
「それじゃ、今度こそこれで、また今度な、イリヤ」
一度手を振り、返答を待たずに走り出す。
歩いていると、いつまでも未練が残りそうだとおもったから、全速だった。
「うん、また今度ねー!」
イリヤの言葉を背中に受け、振り返らずに手を振った。
家まで全速で走り抜けると——
出迎える笑顔:「先輩、おかえりなさい」桜に出迎えられた
格闘訓練:「ん?」道場の方から声が聞こえた
地獄のチェーンソーロボ VS 宇宙カンフー・マスター:「な、なんであんなものが?」思わず声を漏らした
ザ・激務ダイエットinアフリカ:「なんでさ」思わず声を漏らした
What do firemen put in their soup?:「なんでさ」思わず声を漏らした
最終更新:2007年11月24日 14:07