354 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/06/29(金) 04:35:20

「先輩、おかえりなさい」
全速力で帰宅すると、桜に出迎えられた。
「ああ……ただいま」
ここまでの全力疾走でかなり息が切れているがそれなりに滑らかに話せるのは我ながら驚きである。
多分、桜の顔があまりに嬉しそうだったから、顔を見て安心してくれたから、少しくらい格好つけたかった、なんて理由かもしれないが。
「どうしたんですか、そんなに息切らせて、何か忘れ物とかですか?」
「いや、そう言う事じゃなかったんだけど……なんとなく、かな? ほら、日も暮れるしさ」
走っている間は別に気にならなかったが既に太陽は家々の陰に隠れ、地平線からも半分以上沈んでいる。
「そうですね、日が暮れると危ないですから……」
そういえば、イリヤを送る直前のあのことを聞いておかなければ。
「それよりも桜、何か話があったんじゃないのか?」
「あ……わかってたんですね」
桜の笑顔が曇る。
「そりゃ家族だからな……何か悪い知らせか?」
多分そうだろうという予測はついていた。
桜は目を閉じて、少しだけ迷ってから頷く。
「ホリィちゃんの事で、教会に連絡したんです……そうしたら」
「……そうしたら?」
「ニュースでもやってたビルの残骸から、沢山死体が見つかった、って……」
「そう、か……」
思わず天を仰ぐ。
沢山の死者が出たと言うことは分かっていたはずだ。
直視したくなかった物を直視させられた気分。
だが、それは直視しなければならない大切なことだ。

たった一人、衛宮士郎の力では全ての人を救えるはずもない。
だが、一人の力は決して無力ではないはずだし、多くの人の力が集まれば、全ての人だって救いきれるはずだ。
教会の尽力で何人もの人が救えたように。
昨日ノインを『救えた』ように。

なんの予備動作もなく桜を抱きしめる。
「次こそは、もっと沢山の人を救いたい……手伝ってくれるか?」
決意を新たに。
「……はい」
腕に力を込めた。

355 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/06/29(金) 04:36:08

「それじゃあまず、夜の備えて栄養をとりましょう、お腹が減っては戦は出来ないって言いますもんね」
身体が離れてから、桜が笑顔になって言う。
「ああ、そうだな、そうしよう……もう用意は出来てるのか?」
「はい、人数分だからちょっと量が多めでしたけど、ノインちゃんも手伝ってくれましたから」
「へぇ……腕の方はどうかな?」
「うーん……あの年齢としては驚異的だと思います、勿論、今の私の方が腕は上ですからね」
桜がえっへん、と胸を張る。
そこは誇るべきでもないよなあ、と思う。

……言ってしまえばどうかと思えることではあるのだが、この数日間、ゴタゴタがありすぎて、桜との夜間戦闘は御無沙汰である。
もっと具体的に言えば性欲をもてあましているのである。
そこにきて胸の強調の直視と夜に備えてと言う言葉の取り合わせは、とっても危険だ。
理性はまだ十分にあるのだが、コレがあと一週間も続けばどうなる事やら分かったものではない。
生理的なこととはいえ、自省せねばなるまい。


「……あれ? 人数が少なくないか?」
というか明らかに少ない。
居間にいるのは、氷室に名城、それにノインとホリィの四人しかいない。
まさか夕食を食べるのがコレだけと言うことは無いだろう。
「実はですね、腹ごなしにってみんなで道場に行ってます、『あの道場であの拳法を教わるんだー』とかって蒔寺先輩が言い始めたらみんなノリノリになっちゃって、セイ……先生も『教えるほどの功ではないですが』って言いながらも嬉しそうでした」
確かにあの人は向き不向きはどうあれ、教える事は好きそうだ。
「ただし、由紀香は違うぞ、まだ体調が完全ではないからと休ませている」
本から目を離して氷室が言う。
「それに関係することなんだがな……由紀香の体調のこともあるし、もう一日泊まっていっても良いだろうか? 衛宮には済まないと思ったのだが」
「ああ、本人が良ければ一向に構わないぞ、それじゃあ準備だけしてしまおうか」
「味付けが終わっているようだし盛りつけ等は私がやろう、二人には一宿一飯どころではない借りがあるからな」
そう言って本を閉じて立ち上がる。
「いや、そうは言われても、本来お客さんなんだからゆっくりしていてくれ」
「それを言い出せば衛宮もだ、家主ならばどっしりと構えた方が良かろう……と水掛け論になるのも良くはあるまい」
昨夜一晩の間に大凡理解してくれたのか、氷室はあっさりと下がる、かと思わせて一歩進んだ。
「衛宮と間桐さんは由紀香と道場の面々を呼んできてくれたまえ、衛宮達に比べれば手際は悪くなるだろうが問題はあるまい?」
「そりゃ問題があるわけじゃないけどな……」
「衛宮は少し楽を覚えた方が良いぞ、そう気遣ってばかりでは逆に疲れるという事もあると言うことだ」
そう言って氷室は口元だけで笑う。
「ま、手伝ってくれるのを反対する理由もないか」


三号突撃砲:それじゃ三枝さんを起こしに行くか
農業用トラクター:それじゃ道場のみんなを呼びに行くか

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最終更新:2007年11月24日 14:09