615 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/07/17(火) 04:22:38

「う、うわ……」
隣室からの声が漏れてくる。
その声だけで、その部屋に集まった女性陣は沈黙し赤面した。
時折声と違う『音』まで隣室に漏れてきて、全員動きさえ止まっている。
薄く開けられた襖から覗き込むことをしようとして、全員が躊躇していた。

「ま、仲が良いのは良いんだけどね……」
絞り出すように声を発そうとし、もうちょっと自省して貰いたかったと思ったのは遠坂凛である。
彼女個人としては、二人の仲が良いのは——多分——構わないのだが。

「は、はわわわ……」
「す、凄い声、だね……」
ごくりと、口中に残った僅かな水分を飲み込む音が僅かに漏れ、誰の耳にも届かず掻き消える。

……集まった女性陣の仲で一際顔を赤くしている少女——改めて考えれば驚くことに彼女のサーヴァント——二人が居るのが問題であった。
未成年どころか年齢一桁な少女達には明らかに刺激が強すぎる音と声である。
開けられた襖を覗き込むだけの勇気は無いようだが、その代わりに聴覚を全開にして襖の先の音に聞き入っている。
『そう言った』事への知識も無さそうな二人は、それを実践している瞬間を耳にしてどんなことを考えているのか、興味はあったが誰かに向けて口を開いたらその衝動に任せて隣の部屋に叫びながら乗り込んでしまいそうで、それは出来なかった。

とはいえ、それはその場の誰も彼も似たような物で、瞑想するように目さえ閉じて襖の先の光景を想像、というよりも妄想している者さえ居た。

その当人である氷室は自らの妄想で自滅しかけたが、頭を振って妄想をなんとか振り払い、この場に由紀香を連れてこなくて良かったと本気で思った。
体調が万全でない上に——いや、万全であってもか——そう言ったことにまるきり免疫のない由紀香がこの声を聞いていたら目を回して倒れてしまうだろう。
かくいう己自身にしても、座っているのに体のバランスを崩して倒れそうになってしまっている程にふわふわとした感覚を嫌と言うほど味わっている。
下手に豊かな想像力が災いした。
文字から情景を読み取ることへの経験の高さ故なのか、音と声からだけでその光景が次々と思い浮かんでしまうのだ。
そんな事を考えている間に、さらに二人の声が加速しているのが聞こえてきて、妄想せずとも体温は上がっていく。
そう言った本などから得られた知識はあっても経験は残念ながら、無いわけで。
もうこの際前後不覚に陥ってこの場で『経験を積んで』しまってもいいんじゃないかなあ、なんて考えていた。

ふと思いついて、ちらりと薄目を開き、他の面々に視線を移してみる。
最初に目についたのは、まあ親友と言っても良い黒豹である。
顔を手で覆って隠しているが、駄々っ子が嘘泣きをするときのように目の部分はばっちりと開いている。
襖との距離があるから例え開いていても見えはしないのだが、興味は浜辺に打ち寄せる波のように次々と湧いては消えて行くのだが、近付くだけの勇気はなく、この距離と僅かに開いた隙間から見えはしないかと目の力を集中させるだけに留まっている。
それは隣で床に伏せて聞き耳を立てている名城も同じで、彼女の思い人へのアプローチの参考までに、と軽く考えていたのだが既に感情の水位は溺れるに余りある状況で、とてもではないが学ぶ、とか参考にする、なんて事が出来る精神状態ではない。
立ち上がろうにも、この昂ぶりからすれば立ち上がれば即座に足がもつれて倒れることは確実に思えた。

そしてこの部屋に集まっていた最後の一人であるルヴィアは、完全に思考が止まっていた。
故郷フィンランドに連れ帰り子供は何人、なんてレベルまで考えていたのだが、これほどに生々しい声と、そこから想像される獣のような行動。
それを突きつけられてあっさりと受け入れられるような状態ではなかった。
彼女自身、知識は豊富だったが経験の方は完全無垢な状態である。
最初の数分位までは『ま、まあ……愛人の一人や二人許して差し上げてよ?』なんて余裕で構えていたが、無限かと思うほどに加速し続ける二人の声と音で思い切り気をやってしまっていた。
思考は停止し、動きすらも停止し、それでも聴覚だけは正常に脳を侵し続けていた。

そんな状況が続き——


ガーベラ:最初に限界を迎えたのは遠坂であった
バンダール:最初に限界を迎えたのはルヴィアであった
バルトーク:最初に限界を迎えたのは氷室であった
ヴァローナ:最初に限界を迎えたのは蒔寺であった
アマネセル:最初に限界を迎えたのは名城であった
ポリペイモス:最初に限界を迎えたのはなのはであった
ゾンダーエプタ:最初に限界を迎えたのはフェイトであった
フォートセバーン:隣室での『事』が終わり、昂ぶりをどうにか抑えて全員がそそくさと立ち去った

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最終更新:2007年11月24日 14:20