176 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/20(日) 14:07:49

五、アホ毛が付いてないセイバーだった。

「さて。残念だがBAD ENDだ」

 死んだ。何故か知らないけど死んだ。展開とか選択肢とかそういうものをすっ飛ばしてとにかく死んだ。愛しいあいつに会えたはずなのに、夢想する事もできなかった最高の時のはずなのに、神様、なにゆえ俺は死にかけてるんでしょう?

「あー、その、セイバー?」
「ふむ。最期に言葉を残したいか。宜しい。ワタシでよければ聞いてやろう」

 ジャキン、と喉元に黒い剣を突き付けておっしゃるセイバーさん(黒)。何故だか凄く怒っている。なんで色が黒いんだとか、肌の色が違うとか、雰囲気も少し違わないかとかそういう事がどうでもよくなるぐらいこれでもかって怒っている。あとアホ毛がない。気を付けろよ俺。言動を間違えると一発であの世行きだぞ。

「えっと……」
「遅い。死ね」

 ちょっ、なにこの外道っー! 振り下ろされる剣は脳天直撃コース。死ぬっ、まじでこいつはBAD END!?

「しょっ、食事にしようかセイバー!」
「―――ふむ。よかろう」

 あ、助かったっぽい。



 食料はたっぷり準備してある。とはいっても、それは五人が普通に食べたときの話で、セイバーの胃袋を想定してたわけじゃない。なんかこのセイバー、昔の彼女より容赦なく食べそうだし。というわけで。

「ほれ、これでよかろう」
「おっ、さすがっ。この魚もでっかいなー!」

 魚を獲りながらその場でさばく事にした。セイバーが海に潜り、俺は調理の担当だ。あるものは焼き、あるものは揚げ、あるものは刺身に、時々セイバーが踊り食いするのを嗜めながら。さすが元主従、我ながら完璧な連係だ。……少しだけ、乱獲してる感がなくもないけど。

「シロウ、もう少し雑にならないか?」
「今でも十分雑なんだけどな。もっとか?」

 少しぐらい性格が違ってもセイバーはセイバーに違いない。それに二人っきりの時間は思った以上に楽しすぎて、些事にこだわってる時間もない。どこから調達したのだろうか。水着を着たセイバーは眩しすぎるし、太陽も燦々と輝いている。

「ほら、貴様ももっと食え」
「食ってるさ。セイバーこそもっと食べたらどうだ。この貝なんかお勧めだぞ」
「……頂こう」

 夢のような時間は、こうして瞬く間に駆け抜けていった。



「……夢?」

 夕焼けの中、浜辺で寝ていた。ひとりぼっちで、隣には誰もいない。あれだけあった魚の骨も貝殻も、調理道具さえも見当たらなかった。いや、だけど一つだけ。あんなに楽しかった一時の痕跡は、一つ足りとも残されていない。いや、一つだけ、十分すぎるものがある。知らないうちに握りしめていたそれは、紛れもなくセイバーのアホ毛だった。



さて、夕食まで少し時間がある。それなら―――。
一、遠坂を誘って温泉にいこう。
二、ルヴィアを誘って泳ぎにいこう。

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最終更新:2006年09月04日 17:17