696 :Fate/testarossa ◆JtheEeHibM:2007/12/29(土) 11:40:15


  遠坂の視線の先を追うと――――

 「みーつけた」

  ――――そこには。
  雪を連想させる、白い少女と。
  月夜にあってなお昏い、黒い甲冑の剣士がいた。

 「――――――――」

  未熟な自分にも感じられるほどの、膨大な魔力。
  黒い鎧から滲み出るようにただようそれは、小柄な少女に過ぎないその体躯に他を圧する威圧感を与えている。

 「―――バーサーカー」

  耳慣れない単語を遠坂が漏らす。
  その意味は取れなくとも、その異質さは肌で感じ取れる。
  アレがフェイト達と同じサーヴァントであり、十年前の火災と何ら遜色ない死の具現だった。

 「こんな所にいたんだ。探したんだよ、お兄ちゃん?」

  剣士の隣に立つ少女が話しかけてくる。
  夜に映える白い髪、人形のように愛らしい容姿が、この場にはあまりにそぐわない。
  あの剣士の隣にあって、平然と語りかけてくる異常。
  圧し潰されそうな空気の中、楽しそうに笑う白い少女の存在が、悪夢じみた状況に拍車をかける。

 「――――――」

  何の拍子か、こちらを向いた黒い剣士と目が合ってしまった。

 「――――っ」

  意識ごと凍りつくような錯覚。
  意図も無く眺めていたように見えた金色の瞳に、明確な憎悪が灯る。
  ただ在るだけで威圧するモノに殺意を向けられ、人間がまともに機能するはずがない。
  相手に呑まれ、死を待つのみの状態になりながら、

 「――――」

  武器を構え、俺の前に出たフェイトの姿に我に返った。
  剣士から俺を遮るように立つ彼女は、相手の殺気を前に微塵もたじろぐ様子は無い。
  ―――意識を引き締めなおし、改めて向き直る。
  フェイトのマスターとして戦うと、ついさっき誓ったはずだ。
  ならばここで、無様をさらすことなんて出来ない。

 「アーチャー。アイツを一人で押さえ込める?」

  遠坂が呟く。
  見えない騎士は僅かの間の後。

 「……難しいな。だが一人二人を逃がす程度なら問題なかろう」

  心なしか硬い声でそう答える。
  遠坂はそれに充分よと返し、今度は隣の氷室に視線が向く。

 「氷室さん。早速で悪いけど、また教会に戻ってくれる?
  ―――衛宮くん。彼女のこと、任せたわよ」

  うなずく。
  氷室の手を取り、ゆっくりと距離をとる。
  遠坂の視線はすでに目の前の二人に向き直っている。
  その背中には、魔術師として相手に挑む決意と気迫が感じ取れた。

 「お話は済んだ? オマケがいるけど始めちゃうよ?」

  軽やかな笑い声。
  少女は一歩前に出ると、スカートの裾を行儀良く持ち上げ、優雅に一礼して見せる。

 「はじめまして、リン。わたしはイリヤ。
  イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?」

 「アインツベルン――――」

  その名前に覚えがあるのか、遠坂の体がかすかに揺れる。
  イリヤと名乗った少女は、その反応に気を良くしたのか笑みを深めて、

 「――――じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

  歌うように、背後の闇に命令した。


  号令一下、矢のような勢いでこちらへ向かう影。
  それに合わせるように、赤い弓兵が双剣を手に前に出る。
  俺は氷室を引っ張りながら、少しでも離れるように走り出す。
  こんなに近くにいては彼女まで巻き込まれる。
  せめてフェイトたちが気にせずに戦える距離を開けないと。

 「く――――」

  最初の金属音とともに、アーチャーの声が耳に届く。
  振り返ると、ちょうど二度目の剣戟とともに、双剣が弾き返されている光景が目に入った。

  素早く切り返される黒い剣を、弓兵はかろうじて双剣で受け流す。
  刃が交わるたびに炸裂する黒い火花はバーサーカーの魔力だ。
  直接受け止めれば、たとえ防御の上からでも両断されよう。
  暴風のごとく繰り出される斬撃を、アーチャーは軌跡をそらすことで対処していた。

 「ぐっ……!」

  だがそれもつかの間。
  攻撃を受けきったものの、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。

 「ハァッ」

  間髪入れず、そこにフェイトが斬りかかる。
  大鎌はすり抜けざまに無防備なバーサーカーの脇腹を裂き、

 「――――――」

 「なっ」

  それに構うことなく、黒い剣士は前へと踏み出した。
  鎧を避け直撃したはずの腹部に怪我は無く、破れた衣も見る間に直る。
  近くの遠坂も斬りつけたフェイトも気に留めず、バーサーカーはこちらから視線を外さない。

 「このぉっ」

 『Haken Saber』

  鎌が振るわれると共に、バーサーカーに向かって魔力刃が放たれる。
  迫る金光は狂戦士の背後を捉え、

 「――――――」

  どのように察したのか、振り向きざまに薙いだ一閃によって砕かれた。
  そのまま独楽のように向き直り、もう一度こちらへと爆ぜ飛んでくる。

  影が迫る。
  隣には息を呑む氷室。
  俺は、



 【Fanatical Devotion】:氷室をかばい、抱きすくめた。
 【Evasive Action】:形振りかまわず横へ跳んだ。
 【Reckless Abandon】:全力で体当たりをしかける―――!

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最終更新:2008年01月17日 17:51