771 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/07/27(金) 05:03:45
「な、何してるんだ?」
少しだけ声が震えているのが自分でも分かった。
互いの一言一言から何が飛びだしてしまうのは予測できていない。
探り合うように視線が交錯し、その間に思考は最大速度で疾駆し続けている。
「いや、その……洗濯物を回収しておこうと思って、だな」
自分の口から出た言葉をまるで信じられなかった。
――私は洗濯物の臭いを嗅ぐのか、とか
「そ、そう、なのか?」
互いに笑う。
その笑いは実に乾いていた。
「と、とりあえず、だな、夕飯の時間だから、そういうのは後にして、だな」
ひとしきり笑ったためか、少しだけ頭が冷えたのか、言うべきだったことを言えた、と思う。
「……衛宮、今の言葉をどの程度信じた?」
唐突に、氷室がそんなことを聞いてくる。
「え、いや……」
正直なところ、全然信じていない。
「くくく……ちっとも信じてないだろう?」
氷室がゆっくりと立ち上がる。
それだけのことで圧倒された。
身長がこちらが10センチ程大きいはずなのだが、今は氷室の身長が2メートルにも見える。
思わず一歩後ずさる。
「……そこまでされると心外だな、衛宮はそんなに私を嫌っていたのか?」
氷室がさも心外、と言った風に腰に手を当てて軽く頬を膨らます。
「いや、そんなことはないぞ、『どちらか』と言われれば好きに分類される、間違いなく」
その答えに、氷室は満足げに微笑んだ。
正直な話をすれば。
氷室鐘はこの場で衛宮士郎を押し倒してしまおうか、なんてことを考えていた。
自分の感情が定まらぬままではあったのだが、とにかく既成事実を作ってしまおうかと考えたためである。
実際の話、男という物を異性として意識するようになって以来、そう言った事への興味もあったし、それは先の件で肉欲という具体的な代物へと変化した。
だが、共に笑っただけで頭が冷えて、続く衛宮士郎の言葉で今後の方針を新たに定めた。
その方針は、我ながら笑ってしまうものではあったのだが。
――やれやれ、これが恋というものなら、随分なハンデを背負い込んだものだ
ライバルは既に体を許しあうほどに強大だ、だがとにかく今は――
「衛宮」
止まっていた体を一歩を踏み出す。
氷室が一歩踏み出し、此方に向かってくる。
後ずさりはしないが、なんだろうと考える。
考えすぎていたのが良くないのだろう。
頬に氷室の唇が触れたのを止められなかった。
氷室が一歩離れる。
「な――」
触れられた頬が熱い。
そして全身もそれに釣られて熱くなっている。
「覚悟しておきたまえ、これからの私は、君に対してもっと積極的に接していこうと思う」
笑顔のままに片目を閉じ、人差し指を立てて氷室が宣言した。
――精一杯の決意の証明と共に、宣戦布告する。
それが今の精一杯。
その直後に気恥ずかしさが限界を超えた。
「それでは、また後でな」
笑顔を顔に貼り付けたまま、出来るだけ平静を装って、早足で部屋を後にした。
部屋に残され、呆然とする。
さっき氷室はなんと言ったか、何をしたか、それが何を意味するのか、総合すれば全ては明白であった。
理解すると同時に、体中が更に熱くなる。
さっきから体中が熱くなりっぱなしで、汗が出てきている。
殆ど全身が暴走状態だ。
こんな状態で、みんなの前で冷静で居られるとは思えない。
よし、こういう時は――
最終更新:2008年01月17日 18:40