950 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/05(日) 04:19:20
……自力でなんとかしないとなあ。
ゆっくりと口中の野菜を咀嚼しながら考える。
先程まであれほど食欲をそそっていた鍋をつついているのに、味を殆ど感じ取れない。
緊張が味覚を麻痺させているのだろう。
これでは食事にも失礼だ。
一度深呼吸をして更にゆっくりと味わう。
……うん、美味い。
さて、どうするべきかを改めて考えよう。
ちらりと桜を覗き見ると、さっと視線を避けられてしまった。
……機嫌、悪いよなあ。
食卓の雰囲気そのものは和やかだが、丁度俺と桜を結ぶラインで雰囲気が分かれてしまっている。
いや、偶然かもしれないが、丁度そこで談笑するグループとテレビを見ながら食事をするグループに分かれてしまっているのだ。
「ああ、ほら、テレビばかり見ているとこぼすぞ? ほら口元」
「あ……うん、ごめんなさい」
氷室は、ノインの口元の汚れを拭っている。
なんというか、ノインの教育をしてくれることは有り難いことだが、原因は貴方にもアルノデスヨ?
こっちを見て微笑まれても、その……なんだ、困るのだが。
ちらりと、今度はルヴィアの方を見やれば、幸せそうな顔でホリィを胸元で抱きしめている。
なんというか、『子供ができたらこういうのかしら』と言わんばかりに可愛がっているのがよく分かる。
正直その光景には何も言えない温もりのような物があった。
……何はともあれ、一度謝ろう。
不機嫌になった最大の原因は自分にあり、それが望ましくないことであるならば早期に改善しておかないとどうにも落ち着けないしな。
考えがまとまった頃には食事の時間は終わっていた。
桜が無言で皿を洗っている。
「桜……さっきはごめんな」
頭を下げて言う。
そうとしか言えない。
実際の所、何行っても言い訳にしかならないだろう。
「……別に良いんですよ、さっきも言いましたけど、みんな美人だし、先輩のこと大好きだし」
陰々滅々。
言葉ではそう言っているが、明らかな壁があった。
心の壁がもし見えたのならば万里の長城が見えたかもしれない。
障害物として見えたならば、断崖絶壁の崖が見えたかもしれない。
「でも、それじゃこっちの気が済まない、だから何か、出来ることはないか? 大概の事は聞くつもりだぞ」
それこそ、ギリギリの無茶までは聞くつもりである。
「……本当ですか?」
イタズラを企む子供のような顔で、桜が振り向いた。
声は打って変わって明るい調子になり、今にも鼻歌交じりにスキップでも始めそうなくらいになっている。
……ちょっと嫌な予感がするが、ここで『嘘です』とは言えんよな。
「ああ、本当だ」
「えーっと、それじゃあですね……」
口元に人差し指を当て、少し考え込み、名案が浮かんだとばかりにぽん、と手を合わせた。
最終更新:2008年01月17日 18:45