48 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/08(水) 04:44:41


「みんなのまえで、ちゅーって、してください」
『思いっきり』という意味のジェスチャーと共に桜がそんなことを言い出した。
「……え?」
それはつまり……みんなの前で思い切りキスをしろと、そういうことだろうか。
「それで、先輩の一番が私なんだって、みんなの前で見せてください、そしたら先輩が何したって許しちゃいます」
……今のは取りようによっては凄い爆弾発言じゃないだろうか。

いや、それはそれとして。
別にそう言ったことに抵抗がある間柄ではないし、そう言うことも一度や二度ではないのだが、みんなの前でというのは……流石に抵抗がある。
桜との関係を秘密にしているわけではないが、みんなの前だぞ?
藤ねえは居ないにしても、遠坂とか……いや、それだけじゃなく今は小さな子供もいるんだぞ?
教育的によろしくないような気が、するんだが……

実際の所は、もっと問題になる行動を見られていることは、知る由もも無かったのだが。

「嫌、ですか?」
「嫌ってわけじゃないけどな、今この場でってのじゃ……駄目か?」
「それじゃみんなに伝わらないじゃないですか……そりゃいつでもして貰いたいですけど、それだけじゃ駄目なんです」
つまり、みんなの前でやらなきゃ満足しない、と言うことか。
まあ、桜が心配になる理由も分かるし、自分にしても同じ事が起きたら似たようなことを考えていたかもしれない。
それに、みんなの前でやると言っても見せつけてからやるわけでもないだろうし……こういう事の原因を招いたのも自分だ。
軽く息を吐く。
「分かった、多少気恥ずかしいけど、桜が心配になる理由も分かるしな」
ぱっと、桜の顔が喜びに満ちた。
たったそれだけで、この決断に意味があったと思えて来る。
そんなことを考えていたら、桜の唇が唇に触れた。
「それじゃ、居間で待っててください、すぐに片付けちゃいますから」
「あ……ああ」
……今の不意打ちは反則だと思う。


熱に浮かされたような頭で居間に戻ると、特集が終わり、すぐ後の映画の解説が始まっている。
そろそろ映画が始まるらしい。
見渡してみれば座る位置やテンションは各々違いながらも女性陣は各々でテレビを見据えている。
男性二人は……部屋の隅でまた将棋を指している。
盤面の状態はパッと見た限り拮抗状態で、形成はどちらかに有利不利という物はなく、長期戦になりそうだ。
とりあえず台所の近く、いつもの場所に座り、テレビを見ながら桜を待っていると、桜がエプロンを脱ぐ音が聞こえてきた。
なんだか妙に緊張してしまう。
「……どうしたの、士郎? ソワソワしてるけど」
何か思うところがあったのか、もしくはそれほどに挙動不審だったのか、ノインがテレビから目を逸らしてにーっと歯を見せて笑ってみせた。
その笑顔はなんだか猫科の動物を思い起こさせる。
「い、いや、何でもないぞ……あー、ほら、そろそろ映画始まるぞ」
焦りを打ち消すようにノインに言うと、素直にテレビに視線を戻す。
じっと見られていたら、桜とのことも見られたりするわけで、それはそれで心臓に悪いと思う。

映画のコマーシャルを眺めていると、不意に腕に柔らかい感触が生まれた。
視線を走らせると、桜が腕を搦めて幸せそうに目を閉じている。
……そんな顔をされたら、言われるまでもなく唇を奪ってしまいそうになる。



即断即決:……よし、奪ってしまおう
状況確認:その前にまず周囲を確認してから
平穏無事:もう少しこのままで居よう

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最終更新:2008年01月17日 18:47