143 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/10(金) 04:49:56
……よし、奪ってしまおう。
考えていた段取りとかそう言うことは全部忘れて、ただひたすらに本能の赴くまま、開いた方の手を桜の頭に回し、唇に貪るように吸い付く。
「んっ……」
桜は驚きで目を見開き、だがすぐにこの行為を受け入れたように目を閉じる。
のみならず逆に攻め入るかのように舌を挿入してくる。
その感触と香りに頭の中が白く塗り潰されていく。
「はあっ……」
一瞬だけ離れ、呼吸をする。
互いを繋ぐように伸びた唾液が糸を引き、それに導かれるように唇が再び触れ合う。
瞬間、耳元に水音が僅かに響く。
唇が触れると同時に挿入された桜の舌がねっとりと口中を這い回る。
それは快楽であると同時に脳を貫かれるような錯覚を起こさせる。
だが、それだけでは足りない。
反撃とばかりにコチラも桜の口中に舌を突き込む。
「んっ!?」
反撃されることを考えていなかったのか、桜が眼を大きく開いた。
だが構わず舌で桜の口中を蹂躙していく。
桜は少しむくれたような顔を向けたまま、更に舌で口中を蹂躙していく。
相手の口中に存在する唾液に気付き、巣へと蜜を運ぶ働き蟻のように舌で掬い取り、それを己の口へ運ぶ。
その途中、唇と唇の間の僅かな隙間で舌同士が接し、少しだけ床へ溢れる。
だがそれに構わず、口に入った甘露を舌に因らずして堪能する。
どちらかが主導権を握ろうとしても、与え合う麻薬のような快楽で互いに主導権は得られない。
主導権を得ようとしての行動ではない、ただただ触れている感触を欲し、いつしか呼吸を止めて互いの口中を貪りあう。
内側の粘膜を啜るように舐め上げられ、舐め取っていく感触は、二人の身体が融合していく錯覚を起こさせ、それは喜ばしいことなのだと理解させ、理解させられる。
互いの感覚を共有するように舐め取った次は、舌先で互いの舌をつつき、そして絡ませていく。
その感触は舌先を震えさせ、更なる感触を求めさせていく。
呼吸が苦しくなり、再び離れようとしたが、いつ回されたのか、桜の両腕が頭に回され、離れる事無く固定されていた。
互いの体内に残る酸素しか許さないと言わんばかりに込められた力は、もたらされる快楽と共に離れようという気を失せさせていく。
視界は靄が掛かったように薄く、だがそれでも桜の姿だけはこれ以上ないほどはっきりと見えさせ、視界はそこに固定される。
まるで人工呼吸のように、互いの体内の酸素を求めるように、絡んだ舌を解き、奥へ、更に奥へと進ませていく。
それはかつて感じたことのない程の喜びであり、快楽であった。
……快楽によるものか、それとも酸欠によるものか、段々と視界が白く塗りつぶされ、我慢が限界を迎えていく。
そうして桜を畳に押し倒したところで、掴まれた。
桜と唇を繋げたままその方向に視線を向け――
「あ」
その瞬間、死んだと思った。
なんというか皆さん一部を除いて殺意満々。
一部と言うのは、将棋に夢中になってる人とか、既に一杯一杯になって目を回している人とか、テレビに夢中とか、そう言う人達なんだが。
気のせいだろうか、なんだか、戦闘モードに変化してる、よね?
遠坂はなんだか宝石とか手元で光らせちゃってるし、なのは達は……戦闘服<<バリアジャケット>>着込んじゃってるし。
なんだろう、魔術は隠匿すべしってこの世界の大原則はどうなったんでしょうか?
あ、そっか。
既に視界逸らしとかしてるのか、なるほどねー。
よし、上手く現実逃避できた――
「少し、頭冷やしましょうか……」
誰か<<なのは>>の、底冷えするような声は心身を心から竦ませるに十分であった。
「時と場合を弁えんかー!」
最初の直接的打撃は声の直後。
遠坂による、実に強烈な、顎の先端に直撃したアッパーだった。
はっきりと認識できたのはそこまで。
その後はもう何がどうなったのか。
結論を述べれば。
居間でのキスの記憶は快楽や喜悦と同時に惨劇の発端として心に深く刻まれることになったのである。
最終更新:2008年01月17日 18:49