267 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage PCが何度も熱暴走したので保冷剤で直接冷やし中] 投稿日: 2006/08/21(月) 22:54:58

五、バーサーカーの温もりが忘れられない。

 台所にいき、水を飲んだ。うまい。砂漠に水がしみ入る感覚。生命力が回復する実感がある。もう一杯。乾いた喉にしみ込んでいく。火照りきった体が滝のように汗を流して、体が乾涸びてしまいそうだった。

「貴方、なぜ眠らないの?」

 後ろから、鈴を転がす声が響いた。昨日の子達だ。白と黒の女の子達は、大きなリボンを揺らしながら、俺の前まで歩いてくる。どこか……、そう、どこか艶やかで神秘的な空気をまといながら。

 眠れない理由は簡単だった。体が、心があのベッドで眠る事を拒否している。何かトラウマがあるわけでもないのに、眠ろうとした瞬間、寒気と熱さに見舞われた。吐き気が酷かったし、耳鳴りはするし、脳の奥がねじ切れそうに痛かったし。まるで、思い出してはいけない誰かの体温を、未だ忘れきれてないような。

「………………」
「あ……、ありがとう」

 黒い女の子によしよしと撫でられて、重かった胸が少し楽になった。不思議な子達だ。どう見ても幼い外見なのに、その瞳は誰よりも大人びて見える。遠坂は使い魔だといってたし、イリヤのような理由があるのか。

「…………ひょっとして、……貴方、男性が好きじゃなかったの?」

 そう、あからさまに目をそらしながらおっしゃる白い女の子。黒い子も何故かそれに習う。何かやましい事があったりするのか。というかそんなはずないじゃないか。俺のどこをどう見ればそう判断できるんだろう。

「……いや、それは。あいにくとそっちの趣味はない」
「…………そう」

 あ、なんだかとっても気まずそう。赤い瞳で囁きあって、途中、白い子が貴女のせいよとか呟いたり、黒い子が責任を押し付けるように首を振ったり。やがて結論がでたのか頷きあった、

「……サービスよ。特別に招待してあげるわ。わたし達の一番大切な場所に」

 雰囲気が変わった。瞳の色は妖艶に。声の色は無邪気なまま。もし、淫魔や夢魔と呼ばれる存在が世の中に実在したとしたら、それはこんな、可憐で清廉な女の子たちなのかもしれない。

「……招待?」
「ええ、だからもう大丈夫。見せてあげるわ。トラウマなんて吹き飛ぶぐらい、素敵で暖かい最高の夢を。それで、わたしたちを許してくださる?」

 やはり、彼女達に原因があったのだろうか。それでも、ちゃんとフォローしてくれれば文句なんてない。人間、だれしも間違いを犯すんだし。そんな返事を返したら、二人ともホッと安心してくれた。黒い女の子が手を伸ばし、俺の額にチョンと触れる。冷たくて暖かい不思議な感覚。そして、何かの雫が頭にしみ込んだ気がした。これは魔力のかけらだろうか。

 何をしたのか気になって質問しようとしたその時、廊下からコツコツと足音が近付いてきた。

「何をしておる。私一人を働かせ、油を売るなど何ごとか」

 不機嫌さを隠そうともしない、それなのに聞くものの心にしみ入る玲瓏な声。その現実離れした完璧さは、一度聞けば忘れるはずもない。

「あんたは、確かこの前の」
「なんだ、おぬしか。また会ったな、人間」

 髪の長い女性は俺などにあまり興味もなかったのか。すぐに女の子達にい向き直ってしまった。そして彼女の手に掴まれているのは、やっぱり、例の。

「見よ。用件はすんだ。まったく。余計な手間をかけさせおって」
「にゃんにゃのよー。ちょっとばかし派手なドレスを着てて強いからって、こんなおーぼーが許されると思うにゃよー」

 もはやお馴染みとなった感のある、不可思議な猫らしきナマモノだった。

「さすがね。貴女に任せると事が早いわ。……それにしても、この化け猫、いっそ鏡の中にでも閉じ込めてしまおうかしら」
「おまえがそれであの男を説得できるならな」
「うっ……。大体志貴も志貴なのよ。誰にでも無闇に甘いからこんな事になるんだわ」
「同感だ。……帰るぞ。長居する理もあるまい」

 俺には関係のないやり取りをしながら、床板を開けてかえっていく。最後まで涼しい表情だった髪の長い女性。上品にスカートを摘みおじぎする白い子。そしてさよならと視線で別れの挨拶をする黒い子に、俺もひらひらと手を振った。

「ふっふっふっ。そうか、さてはおぬし、あちきの美貌に嫉妬して痛い痛い痛い―――!」
「……邪魔をしたな人間」
「そうそう。いい? まどろんできたら、貴方が夢で会いたい人を思い浮かべなさい。では、良い夢を」

 さて、俺も部屋に戻らないとな。



―――夢の中、二度と会えないあいつに会えた。
一、隣で切嗣が笑っている。
二、振り向けばそこにセイバーが。
三、なんでさ? アーチャーに殺られる五秒前。

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最終更新:2006年09月04日 17:20