382 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/18(土) 02:14:25


「膝枕、してくれるか?」
畳の床は寝転がるには微妙に固いのだ。
「え……は、はいっ」
一瞬だけ顔を赤らめてから、頷いた。
その表情で気付いたが、みんなの前で膝枕というのはこう、少しばかり恥ずかしい状況ではないだろうか。
する方にしてみれば足も疲れるだろうし。
それを気付かないほどだった、と言うことに気付いて今更ながら戦慄する。
「ついでですから、耳掃除とかしちゃいましょうか」
だが桜はノリノリで、さっと棚から耳かきを取り出すと正座をして『さあ来い』とばかりに腿をぽんぽんと軽く叩いている。

……ま、いいか。
さっきのこともあるし、今更膝枕でどうこうと言うことは無い……よな?
自分で自分を納得させ、桜の腿にぽふりと頭を乗せる。
頭を包むように僅かに沈む腿の感触と、首筋に当たる膝の感触が非常に心地よかった。
「それじゃ、始めますね」
「ああ、頼む」
軽く目を閉じ、耳の内側の感触に意識を集中させる。
自分でするのとは違う感覚には少し戸惑うが、これはこれで良いなーって思えてくるまでに時間はそう掛からない。
自分で調整できない存在がこりこりと耳かきが耳の中を擦り上げていく感触は、少し怖いが、同時にゾクゾクとさせてくる。
不意に耳の中から何かがこそげ落ちたのが分かった。
「あ、おっきいの出てきましたよ? ……わ、凄い、こんなに」
薄目を開けると、耳かきの突起全体に耳垢の塊が乗っていた。
確かにでかい。
というかセンチ単位のアレは尋常じゃないような気がするが、実際どうなんだろうか?
「……ちょっと楽しくなってきちゃいました」
桜は広げておいた広告の上に耳垢を落とし、再び耳かきを耳の中に入れてくる。
角度的に桜の表情を覗き見ることは出来ないが、鼻歌交じりで実に楽しそうだ。


再びちらりと薄目を開ける。
……見られてる。
何人か、ってところまでは分からないけど、テレビではなく明らかにこっち見ているのが居る。
どうにも気になったので視線を上から下へ、部屋全体を見渡すように動かす。

まず一人目、遠坂はテーブルに肘をついて溜息をついてこっちを見ている。
『まだ懲りないのか』とか考えている表情で、溜息は諦めた時のそれであろうというのは簡単に分かった。
考えればそんな表情が分かるくらいの付き合いになるからなあ。
二人目、氷室はいつからだったのか、フェイトを胸元に抱きつつ――フェイトはテレビの方を見ていたが――こっちを横目でじっと見ながら顔を赤らめている。
一瞬だけ視線を逸らしたが、逸らす瞬間が見えていた上に視線が戻ってくるのが見えてしまえば確実だ。
さっきのに比べれば見られて困る物ではないんだが、あの時の氷室の言葉と行動を思い出すと顔が赤くなってしまう。
三人目は、その氷室の傍らで腹這いになっているなのはだ。
その顔は思い切り笑顔で、テレビを見ようともせず体勢もこっちを向いている。
畳に肘をついて両手の平に頬を乗せ、足をぱたぱたと動かしているその様は、子供らしいと思うと同時にこっちまでウキウキさせられる。
先程の殺気とどうにも一致しないその差はなんだろうか。

――知る由も無いことだが、彼女の両親が家族の前で互いの耳掃除をよく行うため、それは日常の光景であり、それ故の笑顔である。

四人目は、次は私の番だと言わんばかりに正座になっているルヴィアだ。
視線に気付くと、先程の桜と同じようにぽんぽんと腿に触れる。
いや、悪いけど耳掃除は一回やって貰えば十分だぞ?


「さ、それじゃ反対の耳もやっちゃいますから、反対側向いてください」
熱いのと寒いのと暖かい視線に見守られている、というのは居心地がいいのか悪いのか、判断は出来なかった。


惰眠:映画の途中であったが、不意に眠くなってきた
爆薬:映画の終わる頃、ライダーに声をかけられた
薬缶:映画が終わり、夜が来る

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最終更新:2008年01月17日 18:52