460 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/20(月) 04:48:00


「士郎、サクラとの時間を邪魔して悪いのですが、少しよろしいですか?」
映画の終わる頃、ライダーに声をかけられた。
正確にはまだ終わっていないが、ああこれで終わりなんだなと分かるほど幕が下りかけている。
「あー……いや、どうしたんだ?」
少し名残惜しかったが桜の膝枕から起き上がる。
ちらりとテレビの方に目を向ければ、明らかにラストだと分かるほど盛大に決戦の舞台のビルが崩れ、主人公達が必死になって脱出している。
『私達<<人類>>は選択を誤ってしまった、それでも……』
……ホラーだったのになんで最後はバトル物になるかなぁ?
趣向は凝ってたし、戦闘中もホラー演出満載だったけど、それでも純粋なホラーとして見ているとね。
まあ、実際震え上がるほど怖かったし、あのままホラー方面で突っ走られたら気が狂いそうではあったんだが。

「はい、実は彼女が私達に話があると言うことでしたので」
彼女、と言われてライダーの視線の先を追うと、シャリフさんが小さく手を振っていた。
ふと思ったのか、その姿を見ただけの僅かな時間で改めて考えた結果なのかは分からないが、みんなの前で話した『ライダーの妹』と言う表現は正しいのかもしれない。
彼女は今回桜の元に召還された『ライダー』であり、肉親と言っても良いほどにライダーによく似た女性である。
そう言った意味で考えれば妹、という表現は実に正しく思えた。
……まあ、桜から聞いた『銃で戦う』という点から判断すれば似ても似つかないのだが。
「なんですか?」
立ち上がり、彼女に近寄る。
寝てままだったからなのか微妙に頭が痛い。
「……ここで話すよりあの倉庫で話した方が良いでしょう、三人共こっちに」
そう言うとすたすたと歩いて行ってしまった。
彼女の言う倉庫というのが土蔵のことだ、と分かるまで数秒かかった。


「……なんでしょうね?」
「正直、見当もつかない」
ひそひそと桜と言葉を交わす。
結論など出ようはずもなく、視線を向ければ土蔵の入り口の前でシャリフさんが待っていた。
……そういえば道場に行ったとき電気がついていたが、それと何か関係があるんだろうか?
「一体どうしたんだ?」
近付いて開口一番、用件を聞くことにする。
「そうね……言うなればプレゼントね、貴方への」
「はい? 私ですか?」
手の平を向けられた先、ライダーが声を上げる。
「この家の家主は貴方、そして私のマスターは貴方、だから二人にもついてきて貰ったのよ」
そう言うと、振り返って土蔵の扉を開ける。
そこには昼間彼女が乗っていたあのバイク――BMWのK1200R――と、そして布で覆われている何かが置かれている。
形からすれば、バイクだろうか?
「バイク、ですか?」
「そう、この子を見つけて思わずね……私はこれがあるのに、ね?」
そう言って僅かに微笑む仕草と、幸せそうな眼差しはライダーが時折見せる物と同じだった。
「……取っても?」
そろりと近付き、布を指差す。
「ええ、勿論」
その言葉を待っていたかのように、ライダーが封を外し始めた。

「……なんでしょうね?」
「思わず、って言うくらいだから……クラシックバイクとかかな?」
以前ライダーがバイクを欲しがった折に、二人で一緒に色々と調べた事がある。
その時は結局買うことはなかったが、結局ライダーがその時免許を取ってしまった。
……一番苦労したのは身分の偽造であったが、その時は色々と大変だった。

封が剥がされ、逸る心のまま布を一気に外した。
それから数秒後、それが何であるかを理解した直後に、衝撃を受けた。
直接的な衝撃ではなく、もっと心理的な、例えば街中で仕掛けられた爆薬を突如見つけてしまった時のような、そんな衝撃だった。
「こ、これは……」
「あれは……」
呟きは二つ。
ライダーが一度欲しいと言い、即座に諦めたモンスターマシン。
「MTTタービン、スーパーバイク……」
ライダーの声が震えている。
「Y2Kだって……? なんであんなもんが……」
このモンスターマシンのことは見間違えようもない。
恐らくディーゼルエンジン用の軽油でも使用可能なようにセッティングが変更され、それでも尚300馬力を超えるパワーを誇る――本来は輸送ヘリ等に搭載される――ロールスロイスのターボシャフトエンジンが搭載され、最高速度は400km/hを超える。
加速も凄まじく、公式記録では365km/hまで15秒、非公式ながら飛行状態の戦闘機に滑走路での直線勝負で勝ったとか、そんな逸話まである。
その加速性能からなのか、後方の確認の為のバックミラーを搭載して居らず、代わりにリアビューのカメラが搭載されている。
ついでに乾燥重量は230キロ程度、パワーウェイトレシオは他のバイクや車と比べて余りにも馬鹿げた値となる。
だが何よりも問題は――
「シャリフさん、真面目に聞きます、これをどうやって手に入れたんですか?」
価格だ。
以前のアメリカ国内での価格ですら150000USドル、つい最近では185000USドルに価格変更、日本円にすれば2000万円を超える。
日本に輸入するとなれば――本体価格に比べれば雀の涙ほどだろうが――更に価格は増大するだろう。
ライダーがこれが欲しいと言いながら価格の欄を見てあっさりと諦めたレベルの代物である。

その質問に、シャリフさんは笑う。
「最初の質問がそれって事は……以外と物知りなのね」
腕を組み、笑ったままに答える。
「私は殺し屋よ……お金だけは持っているの」
そしてちらりと、桜の方を見やり。
「貴方達の基準で言うならば……反英霊、かしら」
少しだけ真面目な顔になって言った。
曰く、彼女はその途上、与えられた任務を逸脱し、生きるために世界秩序を滅茶苦茶にしたのだという。
「……まあ、それが召還された理由かは分からないけど、ね」
そう言って、シャリフさんはライダーを見やる。
それだけで浮かれていた頭は冷めたらしい。
「ともあれ、心遣いに感謝します」
一度頭を下げ、それから


点火:「……エンジンを掛けても大丈夫ですか?」逸る心のままにそう問うた
呼吸:「――壊したら大変ですからね」逸る心を抑え、深呼吸した
停止:「とりあえず、今はここまでにしましょう」出来るだけ冷静に、そう言った

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最終更新:2008年01月17日 18:54