677 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/25(土) 03:20:02


土蔵から家屋に戻り、縁側に座った。
ライダーのあの表情に見惚れていたと言うだけではない。
あの機体が加速する瞬間のエキゾーストノートと、その姿を想像して興奮している。
少しだけ冷静にならないといけないよな。

「今の映画、怖かったねー」
「んー、そうだねー」
「もし、一人で寝るのが怖かったらお姉ちゃんが一緒に寝てあげようか?」
「……んー、別にいい」
「お願いだから遠慮しないでー、みんなもー」
居間の方から泣きそうな三枝さんと妙に冷めてるノインの声が聞こえてきて、思わず笑いそうになる。

普段よりも騒がしいが、それは紛れもない日常で、思わず幸せだなぁと呟いた。
「突然どうしたんですか?」
予想もしなかった呟きに、桜は少しだけ驚いたような表情になる。
「いや、別にどうって事じゃないけど……」
桜を抱き寄せ、空を見上げる。
「好きな人が居て、幸せな生活があって、満たされてるなーって思ってさ」
「そうですね……私も、幸せです」
見上げるだけで、家や電柱、人の作った物が視界から消える。
「私なんかが幸せになって良いのかなって、いつも考えちゃいますけど」
空では月が少しだけ雲に隠れていたが、その光は明るい。
「それは……そうかもしれない」
互いの体温を感じながら、月と星を眺めている。
「ただ無条件で『二人は幸せに過ごしました』ってのじゃムシが良すぎるとは思うけど、誰かの幸せを守る為、ってのが今の答えでいいんじゃないかな。
 ……すぐ結論を出す必要はないんだろうけど、暫定でも答えがないままじゃ、いつか折れて、それで終わりになっちまうと思うから」
例えその答えが絶望でしかなかったとしても、それは次の一歩を進むための力になるはずだ。
「……まもる、ため?」
胸元の桜に視線を移す。
桜はじっと、こっちを見ていた。
「こういう生活が他の人にもあって、今それを乱す連中が居る、だからその幸せを守る」
多分それは余裕から来る傲慢でもあるのだろう。
自分が幸せだから他人の幸せを守りたい、この思いはそんな類の代物だと断言してしまえるほどに、今の自分は満たされている。

以前の自分はどうだったかと考えれば、何に対しても誰かの役に立とうとしていたという結論に達する。
これは堕落だろうか?
そうかもしれないし、違うかもしれない……すぐに結論は出ない。
だから『これからどうしたらいいのか』『かつての理想はどうであったのか』を考え続ける。

それはもしかしたら、桜にとっては真っ直ぐすぎて残酷な道かもしれない。
だからこそ桜と一緒に歩む、今はそんな結論で良いと思う。
あの日桜は『正義の味方になる』と言ってくれた。
もしかしたら、それは変わってしまった自分への慰めだったのかもしれない。
それでも、それは『救い』のための行動だったはずだ。
だからそれで良いと思う。

寄りかかった桜を抱き上げ、唇を再び重ね合わせた。


「はいはい、ラブラブなのは分かったから、いい加減に離れなさい」
背後からのその声に、一気に離れて床を転がる。
余りにも短慮すぎた動きで頭を打った。
「ね、姉さん、どうしたんですか?」
「……そろそろ夜だから、部屋に来て」
遠坂の言う『夜』は、それ即ち戦いの合図に他ならない。
それを自分でも分かっているからだろう、少しだけ声が固かった。
気付けば居間には遠坂しか残っていない。
時計を見れば縁側に座ってから半時間ほどが経過していた。

言葉に頷き、頭を切り換える。
全員で生きて帰る事、それに思考を切り替える。
すぐには出来ないが、戦いに赴くまでには、切り替えが終わるだろう。

遠坂の部屋に入り、それからすぐに話が始まった。
まずは状況の確認からだ。
真新しい地図を広げ、新都の駅のすぐ近く、そこに建っているアパートを指差す。
そこが今日の焦点になるであろう事は、なんとはなしに全員が理解していた為に異論は無かった。
「私が昼間に確認した限りにおいて、対象は最低3人、理由は探知できた使い魔の種類から、ちなみに駅で魔術的に攪乱して人混みに紛れたからこっちの所在はバレてないと思うわ」
「……まあ、判断は妥当ね、一つの対象に何種類も使い魔を飛ばすのは非効率的だし」
「ふむ、その3人が同盟か不可侵かは知りたいところですね」
先生のその言葉に対してはルヴィアが軽く首を振る。
「恐らく同盟でしょう……このアパートの周囲約2キロの範囲で人寄せと人払いの結界がそれぞれ展開されているのを確認したから」
「……それは両方が同時に発動していたんですか?」
桜の言葉にも首を振る。
「いえ、恐らく昼と夜で効果を入れ替える代物でしょうね、僅かでも抗魔力があれば探知するか効果を無視できる上に、目的意識さえ保っていればやはり無視出来るようなチャチな代物ですが……」
「昼間は一般人を呼び寄せることで昼間における襲撃を無くし、夜間は万全の戦場<<バトルフィールド>>を作り出す、と言うことか。
 これは君達の言う魔術の隠匿という前提から考えれば実に良くできているな」
「……そうね、この辺りは殆どがビル街で夜間人口は極端に減るし、深夜営業の店舗も24時間営業のコンビニもない、となれば」
遠坂は駅を指差し、それからアパートへと指を引き、それを半径に少しだけ歪な円を描く。
「駅の終電から始発までの間、この辺りは戦場となる、ってことね
「そうだな、前後に1時間ほどの余裕を設けておくにしても……時刻表あるか?」
無言でルヴィアが差し出す。
どうやら駅での攪乱の際に入手しておいたらしい。
「終電は11:28、始発は5:40ってところか」
上りと下りの両線を確認して、それぞれの時刻を読み上げる。
「そう……大体4時間は邪魔は入らないって事ね」

「戦う前に、その人達が巻き込まれた人なのか、それとも参加者なのかを確かめないと」
なのはの言葉には否定の言葉が返される。
確かに確認の必要はあるだろうが……
「使い魔を使って偵察をするような『巻き込まれた人』ってのは、ないでしょう?」
残念ながらその通りで、確認は済んでいると言って良いだろう。
なのはもそれに気付いてしまえば認めざるを得ないようで、その意見を引いた。

「でもそうなると万全の状態で待ち受けている、その上複数の相手にどう立ち向かうかを考えなければならない……厄介ね」
そうは言っても、相手の手札も見えない状態では策も何もあったものではない。
「力押しは避けたいところだな、こちらも物量はそれなりにあるが、負傷している者もいる以上、力押しでは戦力を磨り潰して全滅と言うことにもなりかねん」
負傷と言う言葉で思い出した。
「ところで遠坂、今日はこの家の留守を任せて良いか?」
凄い目で睨まれた。
「……あのね士郎、私はここの管理者の家系でもあるのよ?」
他の人に任せておけるかと言うような、正に鬼の気迫である。
「いや、そうは言ってもだな、昨日の今日であんな怪我は治らないだろ。
 それにだな、ノインやホリィ、他のみんなも守って欲しいんだ、これだって大事な役目だろ?」
魔術の隠匿、それを破る可能性がある外様の魔術師を誅することと言う点だけで考えればそんな役目はない。
だが遠坂凛という人物はそうではない。
無関係な人物が巻き込まれるのを許容するような非情な人物ではない。
「む……」
それでも不機嫌な目を隠そうともせず、三人――先生、なのは、フェイト――の表情や身体を見、そして溜息を一つ吐いた。
「……分かったわ、セイバーの怪我は無視できるレベルを超えてるし、二人もダメージはありそうだしね……でも士郎、アンタだって怪我してるでしょう?」
「いや、そうでもないぞ? ほら、ブラック神父にかけてもらったあの魔術のお陰なんだろうけど、身体に支障はないぞ」
特訓の時も大丈夫だったし、と付け加えておく。
「それなら良いけどね、無茶されたら困るのはみんななんだから、何かあったら言うのよ、他のみんなもね」
それぞれ分かっている、と口にする。

「それじゃみんな、何か意見はない?」


電撃戦:ライダーが意見を述べた
縦深作戦:セイバーが意見を述べた
浸透強襲:ジェネラルが意見を述べた

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最終更新:2008年01月17日 18:56