815 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/29(水) 02:56:42
遠坂の言葉に、ライダーが軽く手を挙げる。
「よろしいでしょうか?」
こういった場所でライダーが発言することは稀だったから、興味があった。
そういった事を知る者も知らない者も、全員が頷いて先を促す。
「相手の行動を想定するに……」
地図の上に指を滑らせる。
指差した先は想定していた戦場の外縁、冬木で一番高いあのビルのある場所だ。
「幾つか候補があるとして、この場所で周囲の監視を行うでしょう」
「まあ、そうでしょうね」
指が滑り、今度は中心点を通り逆の方向に動く。
「ですから、私がこちらから陽動を掛けます」
当然バイクで、と付け加えて笑みを見せる。
まあ、少なくとも直線での速度に限れば生身よりも速いんだろうし、この状況で趣味と言うことはあるまい。
「無視されればそのまま攻撃を掛けますが、攻撃を受ければ退避しながら相手を引きつけます」
「……なるほど、互いが陽動と本命を兼ねると言うことですね」
理解が追い付かないが、先生はすぐに理解できたようだ。
こういったことに慣れているのか、理解力の差なのか……多分両方なのだろうが、その理解力は羨ましく思う。
「はい、ですから他のメンバーでビルを制圧し、そこを橋頭堡として中央へと向かってください」
そこまで聞いて、ようやくだがライダーの言いたかったことを理解する。
「勿論、こちら側の戦力が劣っている場合、そして片方に全力で迎撃に来るようなら合流する必要があるでしょう、その場合この距離なら……一分あれば十分に合流は可能ですし」
「ふむ、策そのものは基本だな、一方が物量に勝る限りその相手は行動を制限され続ける、だがそれ故に対抗策を練っているのではないかね?」
確かにジェネラルの言う通りで、敵が同盟をしていると言うのであれば当然相手も同盟を組んだ敵との交戦を想定しているだろう。
想定しているのであれば、戦力比において勝る相手との交戦だって考慮に入れるだろう。
ましてこの場所は相手の庭も同然である以上、どんな罠が用意されているのか……考えれば考えるだけ悪い方向に傾いていく気がする。
「……結局は力押ししかないって事かしら?」
ルヴィアがうんざりしたような表情で呟く。
「勿論最終的にはそうなるでしょう、要はこちらが全力を発揮できれば良いのです」
ライダーは微笑み、そして相手の力を発揮させない状況を作ることですと付け加えて微笑んだ。
つまりこの外縁部のビル制圧にかかる時間が短ければ短いほど次の行動へのアドバンテージは大きくなる。
そのアドバンテージを可能な限り生かし切り相手を撃破する、という策と言うには大雑把な物で、だがある意味で的確な策であった。
いずれにせよ相手の戦力さえまともに把握できない状況ではこれ以上の策は練りようがない。
「……それなら私も陽動に参加するわ」
「シャリフさんも?」
「私も同じ『ライダー』だし、バイクの扱いも私の方が慣れている。
そして陽動は多い方が良いし、同レベルの機動性を持つなら合流は容易……その場合陽動の間サクラの護衛は貴方しか居なくなるのが問題だけどね」
じ、とこちらを見やる。
「そうだな……話を聞く限り士郎君のキャスターは宝具が発動しなければ一般人と変わらん上に、その宝具は常時発動には向かないと言うことだし……戦術は限定されるだろう」
ジェネラルが軽く桜を見やる。
その隣で名城が少しだけふて腐れたような表情で何事か呟いている。
恐らく『事実だけどもうちょっと言い方はないのか』とかそんな所だろう。
しかし、ジェネラルの言ったことは事実だし、陽動作戦を実際に行うなら一人より二人の方が相手を釣れる確率は高くなる。
と、なれば桜は家に残した方が良いのか?
「どうする桜……ここに残るか?」
「いいえ、私も行きます」
既に決意を固めていたのか、反応は早く、そして強かった。
「危険だって自覚はしてますけど、二人のマスターは私で、だから念話できるのは私だけです……だから、居るのと居ないのじゃ連携に差が出るはずですし、それに二日連続で家で待つだけなんて、したくありません……」
最後の方は消え入りそうだったが、言いたいことは伝わった。
ジェネラルは溜息を一つつく。
「戦いの前に感情をそう出されても困るが……確かに連携に関しては私も見落としていた、危険だという自覚があるなら……」
ちらりと何人かに視線を向ける。
何を意図しての物かはすぐに理解できたので、頷く。
「では桜君にもついて来てもらうとして……確認をしよう。
陽動としてライダーがこの方向から攻撃、時間を合わせて我々がこのビルを制圧、その後合流して敵中枢を叩く、方針はこれで良いかね?」
代案があるわけではないし、特に問題はなさそうなので頷くことにする。
「……連携と言うことなら、こことの連絡も可能なようにしておいた方が良いのでは?」
セイバーの言葉にあっという言葉が漏れる。
確かに、どちらかが危険な状態になったとき救援に駆けつけられることが可能な場合と不可能な場合、どちらが良いかは考えるまでもない。
「だとすると、通信機材を使うわけにもいかんし……携帯電話が必要だな」
電波妨害をされていれば無駄に終わるが、そこまでの装備を用意しているとは考えにくい。
「こっちは家の電話を使うとして……携帯電話って誰か持ってるか?」
ルヴィアと名城が手を挙げる。
「二人いればいざという時の分散行動も取れるか……番号は分かっているのか?」
ジェネラルの言葉に二人とも首を横に振ったのでこの家のと互いの番号を教え、メモリに登録させる。
念のためにその番号に掛けさせ、二人とも通じることを確認した。
「では……行動を開始するとしよう」
そう言って、立ち上がった。
出発前に一度だけ自室に立ち寄る。
別に何か忘れ物があるわけじゃなく、ただ立ち寄りたかったのだろうと思う。
隣の部屋からは寝息が聞こえてくる。
念のため襖を開けても、起き出す気配は無い。
……遠坂の配慮か、魔術で全員が深い眠りに落ちているらしい。
「あとは、全員で生きて帰ってこないと、な」
目と襖を閉じ、一度だけ深く呼吸する。
それからもう一度、部屋をゆっくりと見回し、部屋を後にした。
玄関前に向かえば、既に全員が揃っていた。
最終確認をしていたのか、ライダーは二人ともこちらに気付くと軽く微笑んで火器を背負い、爆音と共に走り去る。
姿は見えなくなっても、爆音だけは遠くから聞こえていた。
「やれやれ、凄い音ね……」
「……耳が痛くなりそうです」
遠坂達は半ば呆れたように音のする方を眺めている。
確かに、あんなにバカでかいエキゾーストノートを至近距離から聞かされたらそりゃ耳も痛くなる。
特にライダーのバイクの音はエンジンの関係でヘリの音と同じだし。
「それでは我々も出発するとしようあの二人はS市方向を迂回して行動する、その間に橋を踏破するとしよう」
それだけ言って、ジェネラルが歩き出す。
「それじゃ遠坂、みんなと留守番を頼む」
「分かってるわ……士郎達は私の代わりに行くんだから、きっちりやってきなさいよ? 勿論死なない程度にね」
胸元を軽く小突きながら、遠坂が笑う。
「ああ、任された、それじゃ、いってきます」
手を振り、先を行くジェネラルの方へと走り出した。
「……さて」
全員を見送って数分、セイバーが口を開く。
「皆さん、身体の調子はどうですか?」
「別に普通だけど……どうしたの?」
多少打ち身が残る程度で、昨日バラバラになりそうなダメージを受けたばかりの左腕の刻印にも、そして骨や神経にも支障はない。
「そうですか……ではなのはさんとフェイトさんはどうです? ……戦えますか?」
「魔力を少し身体の維持に回さないと傷が開いちゃうかもしれません……でも援護なら問題はありません」
足で軽く地面を叩き、足首の状態を確認する。
痛みはそれほどでもないが、鈍さが完全には取れていないのが自覚できた。
「ひょっとして、敵が?」
周囲を見渡すが、姿は確認できない。
「ええ、私もつい先程気付きました……留守を預かるならば、迎撃しなければなりません、我々を信頼してくれた士郎君のためにも」
そう言って指差したのは、今は無人となった家屋の一つ、その二階の窓だった。
その窓が開き、中から影が飛びだす。
飛びだした影は二つに増えて道路に着地する。
「気付いていたとは驚きだ……だがこれはこれで幸運なのかな? 遠坂凛」
そう言って笑うのは、見知った男である。
「確かランサーのマスターだったわね……2日ぶりかしら?」
「……自己紹介はまだだったかな、タイタニア・ヴィルベルトだ」
そう言って笑みを消したその表情からは、執念を感じ取れた。
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最終更新:2008年01月17日 18:58