83 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/09/08(土) 03:52:29


フェイトの掻き消えるような超高速の移動。
第一歩で最高速に達し、なのはの放ったバレルショットを追い抜き、地を這うようにランサーへと襲いかかる。
その直前、ランサーが気付いたのかセイバーの猛攻を受けつつ地這いの一撃を跳び上がり回避する。
だが、それは予想されていたこと。
ランサーを交差すると同時に術式を解除、地面を滑りながら減速し、次の術式を起動させる。
その背後では、物理衝撃を伴う衝撃波が両者を巻き込み、空中に投げ出すと同時にバインドし固定させる。
その認識と同時、なのはは第二射のチャージを終え。
「ディバイン……バスター!」
その主砲を発射した。

最初に放たれた衝撃波はともかく、彼女の主砲弾は減衰されぬまま直撃すれば周辺区画にさえダメージを与えるだけの威力を有する。
故に、その射線上にフェイトが立ち塞がり、
『Round Shield』
衝撃波と主砲に対し防壁を展開した。

「な……めんなあっ!」
空中に固定されたランサーはその裂帛の叫びと同時、力ずくでバインドを叩き壊し己の槍を迫り来る砲撃に叩き付ける。
元よりそれは点を穿つ物。
面を吹き飛ばすその砲撃の前では余りにも無力。
だが、それをして凌駕するが故に彼の者は英雄である。
穿たれた点よりその身を躍らせ――驚くことに空中でありながら空を蹴りその軌道を変えてのけた――砲撃の主の元へと飛びかかる。
だが既に彼女は地面にはない。
その事実を前に一瞬混乱し、標的を見失う。
そして着地する寸前、膝を折り曲げ衝撃を吸収しようとしたその僅かな隙。
「せえええいっ!」
真上より少女が迫る。
膝が曲がっていなければ跳び上がることは出来ない。
だが、膝を曲げる隙が存在する限り上空の敵の一撃を迎撃することは出来ない。
その常識を熟知するが故に、槍の柄を地面に叩き付け跳び上がる。
その動きに気付いた直後、なのはの放った渾身の打撃は、途方もない速度の回し蹴りの前に防がれ、のみならずその身を蹴り飛ばされる。
「はあああああっ!」
だがそれすらも作戦の内。
主砲弾を塞ぎきったフェイトが、なのはと逆方向、即ち真下より襲いかかる。
「っ!」
僅かに舌打ちが漏れる。
元より無理を重ねた体術。
自由になる箇所などありはしない。
「なっ……!」
だが槍の英霊はそれを凌駕した。
背後より迫る斬撃をその槍で受け止め、のみならずその先端を突き出し、フェイトの肩を突き刺し、貫通させたのだ。
槍の先端を隠すように覆う革袋が赤く染まる。
「ぐううっ……」
完治しきらぬ傷の上から更に一撃を受け、飛びそうになる意識を歯を食いしばり堪えた。
斬撃は止められ、肩口には槍が突き刺さっている。
「てええいっ!」
だがそれでもバルディッシュを全力で振り抜き――空中であることで、それは何とか可能であった――それ以上の行動が取れず、飛びかかった勢いのままランサーに激突する。
元よりランサーに飛行能力はなく、そしてフェイトのダメージは深い。
「おおおっ!」
フェイトに突き刺さった槍を起点にランサーの蹴りが炸裂する。
その衝撃で突き刺さった槍がフェイトの肩を更に切り裂き、それと同時に互いがコントロールを失う。
二人が墜落を始めたのは当然の結果であった。

「フェイトちゃん!」
空中で姿勢の制御を取り戻したなのはが落下するフェイトの元へと飛び上がる。
意識は失せているのか、ただコントロールするだけの力を失っているのか、バルディッシュをその手に抱え、無防備に落下していく。
「レイジングハート!」
『Flash Move』
加速Gが蹴られた腕を痺れさせる。
完全に防御しきったと思ったが、ダメージが残っていたようだ。
だがそれに頓着している暇はない。
更にその身を加速させ、落下寸前のフェイトの身体を受け止める。
フェイトの身体はそう重い物ではない。
だがそれでも重力加速の加わった衝撃は同程度の体格の、しかも腕を負傷しているなのはが受け止めるには強すぎた。
飛行のコントロールに数割でも力を割いていれば避けられただろうが、急激に加えられた衝撃は、ただ真っ直ぐ飛ぶことだけに全力を傾けていたなのはが地面に激突するに十分なだけのベクトルを与えた。
『Impossible crash evasion! Five seconds to crash』
地面との激突が不可避であるとレイジングハートが告げる。
「っ……フェイトちゃん、力抜いてて!」
歯を食いしばりフェイトを抱きしめる。
返答を聞き取る暇すらなく、地面に激突する。
だがそれでも可能な限り上方にベクトルを与え続け、結果水切りのように地面を幾度となく跳ねた。


ランサーは最後の放った蹴りで完全にコントロールを失い錐揉み状態で落下していく。
だがそれでも落下予測地点にセイバーが立っているのをその視界に収めた。
歯軋りする。
だがそれに意味はない。
セイバーに対する油断は無かったとはいえ、あの少女達を侮っていた事を内心で認めた。
放った魔術からあの二人が只者ではないとは思っていたが、これほどの攻撃をしてくるなど思ってもいなかった。
そして女性であったが故にか、全力を出すことを躊躇していた部分もあったと自覚した。
だが最早躊躇はない。
あの二人は、未熟ながらも十分すぎるほど戦士だと理解させられた。

そして地面への墜落寸前、セイバーが垂直に打ち上げたその一撃は、地面という強固な支えによって刃に等しき貫通力を見せつけた。
もっと直接的に言葉にしてしまえば、拳がランサーの正中線に『突き刺さった』のだ。
それに対した反撃の槍は錐揉み回転の勢いを加えて右の腿を貫通し、そこで両者が静止する。
槍の衝撃は拳の衝撃を殺したのか、腹部より突き刺さったそれは、貫通することなく数個の内臓を破砕して止まった。
只の人間なれば致命傷の一撃である。

静止したそれは、まるで一つの彫像のようであった。
だが、互いの勝利への意思が彫像のままで終わらせはしない。
彫像に見えたのはほんの一秒ほど。
次の瞬間にはランサーの左拳がセイバーの頬を捉えて弾き飛ばす。
突き刺さっていた槍は膝近くまでを切り裂きランサーの手の中に戻る。
「やりますね」
セイバーの表情から笑みが消える。
「お前達もな……正直、怪我人と少女だと侮っていた、特にお前とは直接戦っているだけにな」
それだけ言って、白槍の先端から血染めの革袋を投げ捨てる。
驚いたことに、血で染まったはずの槍の先端は白く輝いていた。
血の濁りなど微塵も存在しない。
まるでその槍が、白くあることを宿命付けられたかのように。

「なら……今楽にしてあげる」
腕を突き出し、ガンドの狙いをつける。
まるで死にかけた獣のようにふらふらと歩み寄るヴィルベルトの姿はとても痛々しい。
それを止めてしまいたかったという部分も、あったのかもしれない。
純粋な破壊力を有する呪いの弾丸が指先より放たれた。

呪いの弾丸を無防備なままにその身に受け、ヴィルベルトが血を吐き倒れ伏す。
それと同時に、握られた槍は僅かな光と共に彼の手から消え去る。
僅かに語られた断片的な情報を信じるならば、召還された場所へ送還されたのだろう。
既に握りしめる力も、離そうとする力もなかったのか、固定されたように手の形は槍を握ったままだった。
僅かに呻き声が聞こえてくる。
だがそれでも意思は潰えていない。
既に意識もないだろうに、前へと進もうとしている。
手が僅かに動き、既に存在しない槍を探している。

……少なくとも今、殺すことはしたくない。
甘さからではなく、まだ聞かねばならないことがあるからだと、自分は甘い人間ではないと言い聞かせる。
その執念の源には何かの誤解がある。
「この誤解を解きたい……違うわね」
そう言った感情とは違う。
きっとその理由が純粋に知りたいのだ。

考えてみれば、自らはどこか漠然と生きてきたような気がする。
魔術師として生きる事、そこに疑念や迷いが有るわけではない。
だが自分はこれほど、意識を失っても前へ前へと進めるほどの強い意志が持てるのか、それを知りたいのか。
違うわね、と自嘲気味に首を振る。
それだけの意思を、自分も持ちたいのだ。
彼女のよく知る人物への興味も、きっとそう言った部分がある。
「ならばこそ、ね……」
彼の話が聞きたかった。
その為に、あの殺気の主を止めねばならない。
その為には――

槍兵への人質作戦:「動くなランサー!」主を人質に戦闘停止を呼びかける
マスターへの降伏勧告:縛り上げ、意識を無理矢理にでも戻し、主の口から戦闘停止を呼びかけさせる

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最終更新:2008年01月17日 19:03