162 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/09/11(火) 03:50:37
……どうやら、衝撃によるダメージはそれほどのものではなかったらしい。
身体を貫通した槍のダメージは無視できるものではないが、最後の蹴りはガードできたし、落下時の衝撃はなのはがキャッチしてくれたことでかなり軽減できていた。
肩は……触ってみた限りだと鎖骨骨折くらいはしてるかもしれないが、バルディッシュのサポートが有れば戦闘は可能だろう。
だがとりあえず傷口をちゃんと見るのはやめた、見てしまったら多分気持ち悪くて吐いてしまうと思ったからだ。
そんな意図は無かっただろうが、昨日の戦闘で一撃を受けた箇所への更なる一撃だ、全体としてみればダメージは大きくはないがその箇所へのダメージはかなり深刻だ。
ある程度力を込め、何度か手を握り、離す。
多少違和感はあるがきちんと拳を握ることは出来た。
「……うん、大丈夫だね、神経は正常に繋がっている……なのは、大丈夫?」
「ん……なんとか、ちょっと着地に失敗しちゃった……ごめんね」
「気にしないでいい、ありがとう」
周囲を見渡せば、右手側にセイバーとランサーが相対し、左手側には己のマスターが敵マスターを倒した姿が見えた。
仲間が無事なことに安堵し、立ち上がる。
その直後、周囲に向けて放たれた強力な殺気を感じ取る。
僅かばかり抜けていた気を戻し、武器を構え殺気を放った敵手、ランサーを見やる。
深く身を構え、即座に対応できるだけの体勢を整える。
背後を取っているにも関わらず、まるで正面から睨み合っているかのような緊張感が全身を走っていた。
厄介な存在、というのは例え瀕死であっても意識がある限り油断してはならない。
魔術師にとって、厄介な存在というのは同類の魔術師に他ならない。
そして英霊、サーヴァントの類というのは厄介を通り越して危険な存在だ。
なれば、気絶している今の状態を動かす必要はなく、英霊を止めるには言葉を持って止めるのが最良と判断する。
敵である英霊、ランサーの方向には味方であるサーヴァントが三人全員が健在で、二人はルート上に立ち塞がっている。
「よし、これなら……」
一瞬で距離を詰められて殺される、なんていう事態はまずないだろうと判断した。
その直後、途方もない殺気が放たれ、思わず跳び退いた。
「動くなランサー!」
何かが起ころうとしている、それは直感ではあるが確実な事実だと理解した。
ならばそれをさせるわけにはいかない。
主を人質に戦闘停止を呼びかける。
主を殺傷する、ないしは契約を破棄させることが出来れば原則として長く現界することは出来ない。
現在のランサーとの距離はおよそ100メートル、恐らく走り寄るまでに2秒は掛かる距離。
更には間に立ちはだかる二人を突破するのに一瞬と言うことはあるまい。
ならば奪還しようと行動を起こす間に致命傷を与えることはできるだろう。
仮にその後こちらを全滅させたとして、新たな主を契約するだけの力が残っているとは思えない。
故にこの作戦は有効、そう判断した。
その思考はランサーも同様であった。
己の宝具を解放しようとする直前にかけられた声で冷静な思考は戻っていた。
マスターの相手である遠坂がこちらに声をかけてきた、ということは主はこちらに緊急事態を告げる暇もなくやられたのだろう。
人質は無事であるからこそ意味がある。
その鉄則を熟知しているならば致命傷を与えられていることはあるまいが、いつでも致命傷を与えられる用意はされている、と言ったところか。
息を吐く。
そして手に持つ槍を地面に突き刺し、薄く笑った。
「こちらの負けかな」
やれやれと肩をすくめた彼の顔は、実に穏やかだ。
もう少しだけ、ほんの数秒あれば彼の人の宝具はその力を解放させていただろう。
だがそうはならず、それを悔いてはいないようだった。
「負けたからにはそっちに従おう、ただしマスターの安全は保証してもらうがね……」
殺さなかった、と言うことは何かさせたいこと、聞きたいこと、何らかの理由が存在する。
その辺りのことを彼はよく弁えていた。
この状況下で偽証が判明すれば主の命はない、そう考えれば、嘘を吐く可能性は限りなくゼロに近いだろう。
最終更新:2008年01月17日 19:04