479 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/09/25(火) 04:39:30


加速し、左右双方に車体を振り注意を逸らしつつ背後を取ることを試みる。
十数メートル先で銃撃戦が続いている。
背後を気にしているのだろう、バックミラー越しの鋭い視線を感じ取る。
余裕があれば攻撃を仕掛けたいと考えているのだろうが、銃撃の激しさからか藪蛇を恐れてのことか、攻撃の兆候はなく、ただショットガンの弾倉を素早く交換し、空となった弾倉を後ろに放り投げたのみである。
勿論、こちらもそのままであり続けるつもりはないが、この段階で攻撃することはしない。
何しろ高架より飛び出す予定地点まで時間はない。

故に一撃、一撃だけを与えて離脱する。
その一撃が最大の奇襲となりうる為には、この段階で手を出してはいけないのだ。
『そちらの給弾とタイミングを合わせます、合図を』
インカムに囁く。
視線を移せば跳弾の火花に照らされた顔が僅かに頷くのが見えた。
『あと8発』
真後ろを取り、スリップストリームに入る。

幾つかのコーナーを抜け、次のコーナーを抜けた先が突撃地点となる。
その時点で互いの認識が一致した。
認識の一致から二秒後、コーナーが迫り、機体が傾けられタイヤから白煙が上がり始める。
前を走る二人は速度を僅かに絞りハングオンのまま射撃戦を続け、小気味の良い音と共に銃弾が弾け火花が闇夜に咲く。
『今!』
シャリフの弾切れと同時にスリップストリームを抜け、コーナーに侵入し更に加速、遠心力を利用して壁を地面として敵ライダーに並び立つ。

その驚愕は如何ほどだったのか。
攻撃位置を一カ所削るためにコーナーですら路肩ギリギリを走行していたのに、潰したはずの攻撃位置に立たれたのだ。
冷静に敵を見据えていたはずの瞳に焦りが生まれたのが分かった。
「おおおおっ!」
体勢を崩すことを厭わぬ捨て身の突き。
だがその一撃はストック部に追加されていた斧によって受け止められ、のみならず逆に振り抜いた斧で押し戻され、逆に体勢を崩された。
その瞬間敵の表情にも変化が訪れた。
奇襲を退けられて尚『笑う』理由が出来なかったのだろう。
その理由を推察されるよりも早く壁が途切れ、ライダーはそのまま遠心力に従って体勢を崩したまま高架の下へ向けて投げ出される。
だがそれでもライダーは笑っていた。
考え得る限り最高のタイミングで高架より飛び出し、同時に、敵の手に握られたままのショットガンに鎖を絡める事に成功したのだ。
遠心力に続き、重力に従って落下するに任せて手元の鎖を全力で引く。
その瞬間の抵抗は一瞬だけ、武器を奪われるデメリット以上に、それに抵抗して体勢を崩されるデメリットを恐れてのことだろう。
ライダーはその成果、つまり投げ出された改造ショットガンには目もくれず、ビルの壁面に一瞬だけ着地し、バイクを加速させ、ビルからビルへ飛び移りながら着地する。
それによって着地の衝撃を和らげた結果か、サスなどにも異常は感じ取れはしなかった。

無論のことだが、これらの事が行われる間、完全なる自由を得ていたシャリフが何をしていたかは言うまでもない。
バイクの音で掻き消され、聞こえるはずもないのに、血も凍るような冷徹なリロード音が敵ライダーの耳には響いた。
振り返れば、そこには先程より接近したシャリフが拳銃を『両手に』構えた姿が見えた。
そう、本来ならば操作に全力を傾けるべき左手までも拳銃を握っていたのだ。
その事と、それによる次の瞬間にも行われる攻撃を理解し、コーナーと奇襲で減らされた速度を一瞬で取り戻し、数発を被弾しながらもその弾幕から離脱する。
そして次の瞬間にはシャリフが舌打ちした。
武装が奪われていたはずの敵ライダーの手に、巨大な拳銃が握られていた為だ。

勝負の天秤はいずれかに傾くことなく、戦闘は続く。


着地したライダーは手にした鎖を手元に戻し、目標地点に向け、機体を加速させる。
その先に投げ出されたショットガンが落下し、地面に突き刺さるのが見えた。
一瞬だけ考え――


アームド:ショットガンを奪い、残弾を確かめる
ネイキッド:ショットガンを無視し、そのまま走り抜ける

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最終更新:2008年01月17日 19:10