517 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/09/27(木) 04:09:31
イタリア・フランキ社のSPASは同じくイタリア・ベネリ社のM3と並び評価の高い、20世紀を代表するショットガンと言える。
だが、彼女自身はその扱いには習熟しておらず、これから赴く先を考えれば威嚇の意味も薄いと判断した。
故にショットガンを無視し、そのまま走り抜ける。
幾つかの交差点を減速もせずに走り抜ける。
その度に確認をするが、後方からも左右からも追撃してくる様子はない。
「上手く行ったようですね」
冷静にその成果を確認し、再び周囲に視線を走らせる。
インカムからの返答がないのは、恐らく通信範囲から外れたためであろう。
人払いの結界による効果なのか、周辺に人影は見えない。
ただ、視線らしき物は感じる。
つまりなんらかの監視手段を用いているのだろうが、攻撃してくる様子はない。
敵側に余裕がないのか、それとも誘っているのか。
判断のつかぬ内に目的のアパートが視界に入る。
大した意味もないが、物陰にバイクを隠し、鍵も抜いておく。
これで破壊されることはあっても敵に奪われる事はないだろう。
警戒しつつも入り口から堂々と入り、郵便受けを確認する。
半ば予想はしていたが、無造作にダイレクトメールらしき手紙や新聞が多数詰め込まれたままになっている物と、汚れ、手紙や新聞すら
入れられていない物ばかりで、そこに生活の気配はない。
「予測が立たないとなれば、虱潰ししかありませんね……」
警戒を緩めず、釘剣を手に一階から虱潰しに調べていく事にした。
そこは生活の気配の絶えた廃屋そのものであった。
鍵は掛けられて居らず、荷物も無く、ただ様々なものが打ち捨てられたスラムの成れの果てを思わせる寂しい世界。
幾つかの部屋には何かがあったのだろう、血痕が残されていた。
血は完全に乾いているが、何かを感じ取る。
「血だけでなく何か……嗅ぎ慣れたような臭い」
それが何なのか、思い当たるようで思い当たらない嗅覚への微かな刺激を感じた。
夢の中で嗅いだような、どこか虚ろな臭いであったが、思い当たる節はやはりない。
ある部屋には残骸があった。
「ここは……例の武器庫ですか」
元々据え付けられていた鍵の他に、解錠されたままになっている多数の錠も確認された。
保管されていたであろう銃器の量には呆れ果てた。
残された木箱や、それに入ったままの油紙の数からして百挺は下るまいと言うことは銃器に疎いライダーでも容易に予想出来た。
それだけのに合わせた弾薬の量まで考えれば、どれだけの戦いを想定していたのかとも思ってしまう。
とはいえ、妨害を受けず追跡を受けただけ、と言うことを考えれば火器による戦闘を目論んでいたマスターは一人だけ、と言う風に考えて間違いはないだろう。
一応隅々まで確認したが、昼の間にここを訪れたジェネラル達は残らず持ち出したのか、弾薬の一発も残されては居なかった。
結局数分を掛けたこの部屋での収穫は無く、一階の部屋全ての探索を終えた。
その調子で、二階三階と探索を終え、収穫のなさに苛立ち、そのまま最上階まで上がると、異常な臭気を感じた。
この階層まで感じなかったことを考えると、何らかの魔術的工作が行われていたのかもしれない。
その異常のためか、自身の苛立ちなど簡単に吹き飛んでしまった。
「これは……死臭?」
否、それだけではない、何かは分からないが色々な物が入り混じった臭いは、あの蠱蔵を想起させる。
同時に苦い思いも蘇り、軽く頭を振って思考から追い出す。
異臭に顔を顰めつつ、部屋を一つ一つ調べていく。
三つめの部屋は当たりだったのか、罠が仕掛けられていた。
罠を発動させぬよう、離れて内部に視線を走らせる。
詳しくは分からないが、何らかの魔術に使用されるであろう機材が放置されたままになっている。
人払いの結界の中枢とも予想できるが、ならば放置しておいた方が良いだろうとだけ考える。
機材などだけで人の気配が無いことから、戦闘指揮所である可能性は極小であるとだけ思考、後ろ髪を引かれるような思いは残ったまま
だが、その部屋から離れる事にした。
そしてその次の部屋からは、明らかな人の気配を感じた。
一つどころではなく、幾つかは判じ得ない多数の気配。
声や音が入り混じるその内部には、明らかに何かがあるのを思わせた。
再び視線を走らせれば、窓には何らかの罠が仕掛けられている。
つまり、入れる部分は真正面の入り口のみと言うことだろう。
ならば最善の手段は――
最終更新:2008年01月17日 19:11