631 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/10/03(水) 04:20:33
怒りからだろうか、理不尽さによるものだろうか、この光景を見るに堪えず、その元凶を破砕してしまおうと思った。
思考に因らず、本能に因らず、もっと深いところにあるものが刺激されたように、ライダーは『あれを破壊する』という決定を下した。
本来の運動能力を発揮した彼女にとって、重力の縛りは殆ど存在しない。
足場さえあれば、上下左右関係なくその運動能力は発揮される。
彼女が重力を感じる時、それは即ち足場となるものが何一つ無い場所であり、それはこの地上に存在しない。
人海を避け、天井へと跳ぶ。
天井には人海は存在しない。
さすがに重力に真っ向から逆らえば僅かに機動は制限される。
だがそれは本当に僅かな、誤差で済ませられる程度でしか無く、他者への高いアドバンテージという面では変わりがない。
天井に着地し、重力に従うよりも早く数歩を駆け抜ける。
『敵』が椅子に座ったまま、息を飲んだのが見える。
だが既に遅い。
物理法則に従って落下する直前、自ら天井という床を蹴り敵へと飛び掛かる。
その速度と突きだした釘剣は脳髄を吹き飛ばすに十分な威力を有する。
だが魔術師は椅子ごと倒れ込み、その一撃を回避する。
「ッ!」
それによって開けた先にも少年少女達が居た。
既に足場から体は離れている。
故に軌道の変化は出来ない。
この速度でぶつかれば、それだけで少年少女達の骨や肉体を粉砕するだけの衝撃になる。
それだけのことを瞬時に判断し、釘の先端を天井に向かって投げ付け、鎖を引き無理矢理軌道を変える。
再び天井に着地し、視線を向けると、逃げ出す背中と、僅かに横顔が見え、耳には音が響いた。
耳に響いた指を弾く音と共に、男が歯を見せて笑った気がした。
その認識の直後、空気が変貌した。
『己達』への肉欲に満ちた空気が殺意に満ちた空気へと変わる。
その変化は急激で、動きを止めてしまっていた。
軌道を変えることもできず、重力に従って落下し、着地する。
そこに少年少女が殺到した。
少年少女の力も速度も、常人の物ではなかったが彼女にとってそれは障害になるレベルの物ではない。
只の数秒で蹴散らし尽くす。
だがその数秒で視界から完全に消え失せた。
舌打ちを漏らす。
蹴散らした少年少女達が立ち上がり、再び立ち塞がったからだ。
その眼は虚ろなまま、只殺すという意識に支配されているのが見て取れる。
「意識操作に、肉体強化……」
あの男を見逃すわけにはいかないが、かといって殺すわけにも行かない。
手早く片付けて後を追わなければならない。
蹴散らしながら脱出ポイントとして目指すのは――
最終更新:2008年01月17日 19:13