746 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/10/08(月) 04:59:44


冬木大橋を抜ければ、戦場と想定される場所はそう遠くない。
とはいえ、まだここは人払いの結界の範囲外、周囲を見渡せば、終電の客だったのだろう、くたびれたスーツ姿の男やOL、酔っぱらってふらついている人達や、塾帰りだろうか少年少女の姿もそこかしこに見受けられる。
「まだこの辺りは戦場ではない、確かに近いが、そう緊張しない方が良いぞ」
ジェネラルが肩に手を掛ける。
「あ、そんなに緊張してましたか?」
「適度な緊張感は必要だがね、そこまで締めるのは早すぎると言うことだ、彼女達まで緊張させてしまっている」
もう片方の手で人差し指を立ててみせる。
言われてみてみれば、桜達の表情が固い。
更にいつでも双剣を投影し、振るえるように両手は軽く閉じられている。
「とは言っても、この状況でヘラヘラと笑っているようならそれはそれで嫌ですわ」
ルヴィアが笑ってみせる。
彼女の方も緊張しているのだろう、指摘などしないが語尾が微妙に振るえていたのが分かった。
「……あ、そういえば先輩、お皿って洗いましたっけ?」
桜が唐突にそんなことを言い出して、思わず吹き出してしまった。
「大丈夫、洗ったよ、心配ないって」
気遣ってくれたのだろうが、これから戦いがあるっていうのに、そう言うことを言える桜がちょっとだけ羨ましかった。


軽い談笑で気は紛れたが、足は止めていない。
「さて、そろそろか……」
冬木大橋から歩いて数分、振り返ればまだ大橋が見えるであろう位置でジェネラルが呟く。
「ええ、そうですわね、この角を曲がった段階で人払いの結界の発動圏内で、侵入と同時に探知される可能性はありますわね……」
ルヴィアが周囲を確認しつつ呟く。
「そうか……今更というわけではないが、君達は私の後ろに、私とマスター、そして私の部隊が先行して潜入する、手順に従って付いてきてくれ」
そう呟くと同時に彼の周囲に男達が現れる。
その手にはそれぞれが武器を携えている。
武器は二次大戦の武装ではなく、AKやベネリと言った現代の物を装備していた。
「使い慣れない武装は少々不安だがね」
彼等は4人一組で4組、それぞれ距離を保ち、物陰に潜みながら前進していく。
「よし、行くぞ」
ジェネラルも物陰に潜みながら前進し、可能な限り情報を収集している。
「俺達も行こう」
その言葉に足音が続いた。


潜入はある程度の開き直りが必要だった。
訓練も受けていない素人が混じっているのだ、完璧など望めるはずもない。
それに敵の用意したフィールドに出向こうというのだから、潜入に全力を傾けてもまるで無意味になる可能性がある。
更にストーキングの際の精神的疲労と天秤に掛け、遮蔽物を盾に接近することのみに行動の焦点を絞った。
これさえ守れば遠距離攻撃の可能性は限りなく低くなる。
数十メートル先を行くジェネラルとルヴィアの背中を見ながら、少しだけ距離を開けて追いかける
これは万一の場合の対応策だという。
先頭の前衛部隊、ジェネラルとルヴィア、そして後方の俺達。
どれが攻撃されようと対応ができるようにそれぞれ距離を開けておくのだという。


『いけないなあ、こんな所に来ちゃあさあ!』
目標となるビルまであと僅かというところで、幼稚さを含んだような威圧の声が、真上から聞こえた。
「士郎君!」
見上げるよりも早くジェネラルのその声が聞こえ、咄嗟に桜を抱き真後ろに跳ぶ。
その目前に、巨大な鏃のような物が落下し、地面に突き刺さった。
その開いたスペースに男が舞い降りた。
「はじめまして侵入者諸君、私はクロード・シュバリエ!」
笑みと共に余裕たっぷりに名乗りを上げる男に対し、ジェネラルの兵士がその銃口を向ける。
「バーサーカー!」
その声と同時に景色が歪む。
発砲音を聞いたが最早遅い。
「しまっ……」
弾丸が到着するよりも早くその歪みに囚われる。
『SC空間を探知しました、使用者のイデア情報を確認、起動します』
機械音声を背後に聞きながら、現実が侵食されていく様を見つめていた。

「しまった……分断されたか!」
真上から降りてきた男の姿が歪んだ段階で敵の保有するサーヴァントの正体は想定できた。
故に手遅れ。
ジェネラルの戦力は極めて高い物だが、『現実を侵食する』ことをダメージとする空間に於いては途端にアドバンテージを失う。
彼の能力では現実を侵食することは極めて難しく、宝具もダメージを直接与える物ではないためだ。
「……信じるしか、ありませんわね」
ルヴィアは逸り、突撃しようとした己の体を抑えるように自らを抱きしめる。
「ああ、そうせざるを得ないな……ならば」


制圧:「目標のビルを内部から制圧する」
救援:「どちらかのライダーを呼び戻す、大至急だ」

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最終更新:2008年01月17日 19:16