315 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/22(火) 21:30:14
一、逃がすか―――!
逃がしはしない。ルヴィアを、俺の大切な人を攫っていくというのなら、それを見過ごせるはずがない。彼女は絶対に取りかえす。燃え尽きるまで縋り付いてみせる。奴が空を飛べるというのなら、俺だって空ぐらい飛んでやる!
「こいっ、ツインテール!」
頼もしい味方が駆け付けた。瞬く間に姿を現した遠坂のツインテールは、瞬時に俺の頭部に装着される。起動するのも待ちきれず、窓の外へとダイブした。
「待ちやがれ―――!」
大地すれすれを飛んで浜辺をぬけて、海面で一気に上昇する。目指すは遥か大空の向こう。風を切り裂く頬が痛い。瞼を開けていられずに、それでも目を閉じるわけにはいかなかった。あのナマモノに追い付く為なら、ルヴィアを助け出す代償なら、眼球なんてダースでくれてやる。
限界を超えた酷使にキューティクルが過熱する。付け根のリボンが悲鳴を上げる。それでもさらに出力を上げた。ロケットエンジンの加速は脅威だ。ツインテールはレシプロに近い。始めから勝負の見えた戦い。その性能差を覆すため、更なる魔力を注ぎ込む。許してくれ遠坂。お前の髪を犠牲にしても、俺はあの化けネコに追い付きたい。
強化に強化を重ねた視力を持って、なんとかナマモノを追い続ける。ロケットエンジンの弱点に持久力のなさが挙げられる。恐らくあいつのロケットは、最初の数秒で燃え尽きたはずだ。今はその時の途方もない運動エネルギーを消費して飛んでいるだけ。
砕けるほどに奥歯を噛み、魔力と命を振り絞る。始めから想定されてない使い方。ツインテールでは出せるはずのない速度。リボンの繊維に火花がとび、髪は毛先から裂けていく。轟々と暴風が耳を蝕む。加速に次ぐ加速でGがきつい。だけどこんなもんじゃなかったはずだ。飛び立った瞬間、ルヴィアが味合わされた強烈なGは!
青い青い空の彼方。遠く丸い水平線のそば。流れる白い雲の隙間。少しずつ化けネコが大きくなる。抱えているのは青いドレス。なびいているのは金色の髪。間違いない。ルヴィアを見失わずについてこれた!
ツインテールの反応が鈍い。無理がたたって崩壊が近い。俺自身、廃熱で全身に火傷している。そんな事はどうでもいい。発火温度まで後いくつか。助け出すまで持ってほしい。
悪い時に悪い事が重なるのか。燃料がない。魔力が足りない。所詮は半人前の限界なのか。魔力だけは人並みなんて自惚れていても、肝心なときにちっとも足りない。先日の戦いがたたっているのか、削り取る生命力さえまるっきり足りない。だけど、
―――足りないからってそれがどうした!
助けた後、倒れようと構わない。またみんなに怒られようが、泣かれようが構わない。だからツインテール自身を強化する。隅々までキューティクルを回復させ、枝毛を無理矢理黙らせた。リボンの布地が壊れる前に、もう少しであいつに手が届く!
―――ルヴィア!
なんとか、そう、本当になんとか追い付けた。グッタリしている。だけど無傷だ。これはネコアルクの魔力だろうか。ちゃんと優しく保護されていて安心した。正直、それだけは感謝してもいいと思ったぐらい。
後はルヴィアを取りかえすだけだ。最後の最後。本当に残りわずかな力を振り絞り、ネコアルクの肩を掴もうとして、それに気付いたあいつと目が合った。とたん、スカートに再び魔力が充填され―――。
―――絶望的な、加速を見せた。
呆然となる。ここまで格の違いがあったのか。俺が必死に飛んでいた間、奴はのんびりしていただけだというのか。もうルヴィアには届かないのか。彼女は既に、あんなに遠くにつれていかれて……。
魔力さえあれば。無い物ねだりをする自分が悔しい。もう、あと何秒も飛べないのに。後はこのまま、無力に落ちていくしかできないのに。それでも、魔力さえあればと願ってしまった。
―――その時!
一、みんなの魔力が、流れ込んできた。
二、セイバーのアホ毛が輝いている!
三、……隣を遠坂が飛んでいた。
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最終更新:2006年09月04日 17:22