100 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/10/22(月) 03:58:06
敵と呼吸を合わせ、同時に前進する。
同時に全身に強化の魔術を掛ける、この程度の初級魔術ならば手の内を明かす内には入らない。
それは相手も同じ、全身に魔力が充満しているのを肌で感じる。
だが続くのは魔術の応酬ではなく、拳の衝突。
速度も体重もギュンターの方が上であったにもかかわらず、魔力によって逆転する。
数歩分の距離を弾き飛ばし、最初の優位を奪う。
このまま決めるべく、再び距離を詰め、連打を叩き付けていく。
連撃を防ぐ腕が壊れかけているのは両者が理解し、止めを刺すべく大振りの一撃を放つ。
「せええええいっ!」
それと同時、
『臨める兵、闘う者、皆陣烈れて、前に在り』
ギュンターの魔術が発動した。
自らの全力を引き出した必倒の一撃。
それに倍するような衝撃を叩き付けられ、それがなんなのか理解する間もなく廊下に転がり倒れた。
「くっ……まさかアジア圏の魔術を使うなんて……」
グラグラする脳に克を入れ、何とか立ち上がる。
吹き飛ばされる寸前、なんと言ったのかまでは理解できなかったが、それが欧州圏の物ではなく、どちらかと言えばここ数日の間に耳慣れた日本語に近い言語、ないしそのものであることは理解できた。
それは異常だった。
必然性が感じられなかったということもある。
まるきり同じ物、と言うのはなくとも似通った魔術ならば欧州圏にも山とある。
それをわざわざ習得するというのは非効率に過ぎる。
言葉の問題もある。
素質の問題もあるだろう。
そして前述の通り似通った魔術ならば欧州圏に山とあるのだ。
更に魔術を学ぶ、という点において倫敦の時計塔は他と比較にならない。
故に世界の魔術は大航海時代に欧州圏の魔術に塗り替えられてきた経緯もある。
だがそれを使いこなした、と言うことは何かあるのだ。
それが分かれば今は考えずとも良い。
立ち上がり、敵を睨み付けた。
「驚いたな、肉体的な攻撃を仕掛けてくる輩ならば今ので何分かは昏倒してるはずなんだが」
力そのものが軽いからか、それとも対魔力が高いからかと、息を僅かに乱しながらギュンターが呟く。
「お生憎ね、そうそうやられてやるわけにはいかないわ」
魔術回路に魔術を走らせ、待機させる。
見知らぬ魔術を相手にするならば、相手の真価を発揮させてはならない。
そしてこちらの真価を見切られてはならない。
同時に吹き飛ばされていたワルサーを手に取り、片方の手に魔力を、片方で拳銃を構える。
この場合拳銃に牽制程度の意味しかない。
元々銃器には慣れていない彼女が思いついた急造の戦術である。
銃を連射しながら牽制しつつ接近し、零距離でガンドを撃ち込む。
物理的な威力をも有する彼女のガンドを零距離から撃ち出せば物理的そして魔力的なダメージを与え、さらに呪いを付加できる。
人間に対して一撃でも入ってしまえば、体に変調をきたし、十全な戦闘力を発揮することは難しくなる。
そうすれば大きなアドバンテージを得られる。
そこまで思惑を巡らせ、一歩を踏み出そうとし、そこで止まった。
「ならばこちらも、やらせてもらうとしよう」
それだけを耳に聞き、同時に目に見えそうなほどの魔力を感じたからだ。
臆したわけではない、ただ見据えねばならなかった。
これほどの魔力は彼女とて生成できるかどうか分からない。
それを叩き付けることなく内に向け、魔術を行使している。
炸薬が破裂したような音と共に流れた魔力が消え、風だけが残った。
その魔力によって何が変わったのか、彼女には分からなかった。
分かることは、男が距離を詰めてくるということだけ。
銃の引き金に手を掛ける。
狙うのは身体、もっとも命中率の高い場所である。
それと同時に――
最終更新:2008年01月17日 19:21