348 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/11/07(水) 04:23:44
ほぼ減速無し、路上を滑るようにコーナーに突入し、向けられた銃口の前に二台が現れる。
路面に白煙は殆ど上がっていないが、既にタイヤからグリップは失せ、ドリフト状態になっており、軌道は制限されている。
向けられた銃口に気付いたのはどちらが先か、それは不明だが、それに対するリアクションは同時だった。
元よりそれは面を制圧する物、それが地上にある限り回避など望めるはずもない。
その理解は、その場に存在する全ての存在が認識していた。
シャリフのバイクは、何の前触れもなく地上を離れ、地上を滑る勢いのままに空中へ上昇していく。
だが、もう一機のバイクはその銃弾による被弾など気にしないのか、身を屈ませると一瞬で最高速に達した。
その原動力となったのは後方に取り付けられたツインターボから噴射されたニトロオキサイドだ。
宝具として昇華され莫大な魔力を有するその機体は、本来のスペックを凌駕し、まるで離陸直前の戦闘機のような加速でもって面制圧を潜り抜け、のみならず猛烈な弾幕を展開する戦列に向けて突撃する。
その濃密な弾雨を、その機体は弾きながら前進を続け、先端に取り付けられたブレードが一人の兵士を分断した。
兵士は苦痛の声すら上げる間もなく血煙を上げながら霊体となって消失する。
だがその突破はジェネラルの想定の内にあった。
突破された戦列、その後方と左右にも戦列は存在し、その銃口は突破された地点に向けられていた。
典型的な十字砲火、その火力が集中する地点に誘い込まれたと気付いたときには、既に銃弾が間近に迫っていた。
それが一発や二発、それどころか先程のような一方向からの弾幕であれば掠り傷程度で済んだだろう。
だが砲火は前方からだけでなく左右からも飛来していた。
ここで逡巡すれば未来は死しか存在しない。
その認識が更なる加速を生み、突破したばかりの戦列に向けて猛烈な炎を吐き出し、戦列を構成していた兵士を灼いた。
それがただの炎であれば本来霊体である彼等には有効打たり得ないだろう。
だがその炎は宝具より発せられた物。
容易に霊体である兵士達の魂を焼き、霊体へと返していった。
「クッ……倒しきれなかったか、流石と言うべきだろうな」
二段構えの弾幕を突破し、敵が包囲状態のビルから離れ、遠ざかるのを見ながらジェネラルが舌打ちし、嘆息した。
ダメージとしては分隊規模でしかないが、被害を受けた分隊の戦力についてはこの戦争の間の復活は不可能だろうと認識する。
「そうね、再三の攻撃でも有効打は出せなかったわ」
着地したシャリフがバイクを止め、ジェネラルに声を掛けた。
敵ごと薙ぎ払おうとした事について、二人は気にしてはいなかった。
直撃を受ければ恐らく転倒し、銃撃のダメージと合わせて暫く動けなくなっていただろう。
だがそうならぬ自信はあったし、仮になったとしても敵が同様のダメージを受けていれば相手は倒せる。
これは信用ではなく、互いの戦闘能力を把握した上での信頼だ。
それは戦う者にとって時に信用以上に行動を決させる要素である。
「ミズ・シャリフ、どうしてここに? 貴女は攪乱と本陣突入が目標の筈でしたが」
「本陣の撃破は……彼女に任せたわ」
ライダーの正体が『メドゥーサ』であることは本人から聞かされていたが、その名を出すことは憚った。
現在は同盟関係とはいえ、最終的には争うことになる存在――サーヴァントとは本来その為の『道具』――である。
誰に聞かれているか分からぬようなところで話すことではないし、元より公言するべき類の事柄ではない、そう判断した故だ。
勿論その辺りのことはジェネラルとて理解している。
「そして敵がこちらに向かったのよ、見たら大体想像できると思うけど恐らくライダーね」
「なるほど、だとすれば本陣の撃破に失敗したか、撃破こそしたが指揮官には逃げられ指揮系統は健在、もしくは元より指揮系統が存在しないか……」
「もしくはもう一つ指揮系統を有しているか」
シャリフは指を立てて補足する。
「ふむ、その辺りが妥当でしょうな、本部とは別の場所に次席指揮官を用意しておく、というのは有り得ることです」
この程度の人数でそれだけの物を用意するのは難しいでしょうが、と続けジェネラルは苦笑する。
「ところで……私のマスターはどこかしら?」
声のトーンが1オクターブ下がった。
「……現在交戦中だ、あの辺りの空間の歪みが見えるだろう? 彼女達は例のSC空間とやらに捉えられ、内部の状況は不明だ」
返答を聞き、シャリフは隠そうともせず舌打ちをした。
その舌打ちで、ジェネラルは目の前の女性の能力についてある程度の事を掴んだ。
目の前で、そして昨夜衛宮邸で見せた身体能力から、こと戦闘能力において極めて優秀、だが宝具という、その名と共に語られるような装備と呼ばれる物は殆ど無い。
後半はその空間に突入する素振りを見せない事や、装備する銃器、そして今し方見せた舌打ちからの想像だが、それほど間違っているわけでは無さそうだ。
耳元に手を当て、インカムの反応を確かめている。
これはもう一人の女性の方はSC空間内での戦闘手段を有している事が考えられる、と言うことであろう。
そこまで考え、思わず笑みを零した。
今は内部抗争について思考するべき段ではない。
目の前の彼女は現在の所仲間であり、つまりは有効な戦力であると言うことだ。
そして敵は現在こちらが包囲している敵と、一時的に離れ、そしてまた迫って来るであろうライダーである。
「ミズ・シャリフ、貴女が連れてきた敵、ライダーの目的はなんだと思うね?」
そう問われ、耳元から手を離し、僅かにビルの方に視線を向ける。
「解囲、包囲された味方の救援」
言葉は簡素な物だったが、要点を突いていた。
「貴女もそう思うかね、攪乱されていたはずの敵がこちらに向かって動いた、と言うことは敵は指揮系統を有しており、健在だと言うことだ」
「……つまり、この敵を逃がすわけにはいかない、そう言う事ね?」
「その通りだ、現在の所有利不利は定まっていないが、ここで拘束している戦力が手空きとなれば膠着状態の場所に送られ、結果各個撃破される可能性がある」
正直なことを言えば、ジェネラルを含めて全員が指揮系統が複数有る可能性を検討していなかったのだ。
故に最初の一撃で指揮系統という頭を潰せば大丈夫だという前提で作戦を進めていた。
だがそれに失敗した以上、ここで拘束している戦力は手空きにしてはいけない。
その場合明確な指揮系統を有さないこちらが不利となることは間違いない。
つまり最悪でも拘束を続行し、可能ならば撃破しなければならない。
「そこで貴女には――」
最終更新:2008年01月17日 19:27