474 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/11/11(日) 03:48:19


「敵ライダーの足止めを願いたい」
十字砲火からの脱出の瞬間敵が見せた突撃、それを考えれば戦列で止めるのは至難だ。
包囲を続ける敵を早期に撃破してその後敵を攻撃する案も考えたが、早期に倒せる保証はなく、仮に倒せたとしてももう一方に逃げられる可能性を考えれば、それは却下するべきだと判断した。
更に言えば、敵の足止めをしてもらえばその間に狙撃する事だって可能だろう。
その為の戦力を出し惜しみするつもりはなかった。
「なるほど、足止めね」
足止めと言う言葉で、何を考えているかは推測できたのだろう、シャリフは大して逡巡せずに頷いた。
「それじゃあ精々、こちらを巻き込まない程度に援護を頼むわね」
それだけを言って、音の方角にK1200Rを加速させ、ジェネラルの視界から消えた。



何かがあったというわけではない。
パスは正常で、魔力供給も問題は無い。
だが、漠然とした不安があった。
しようと思えばいつでも可能であったはずの念話が途切れているという事実があった。
新たに関わる事となった聖杯よりも歴史の古い――とはいえ、その歴史は終わっているのだが――冬木聖杯から招かれた故か、共に暮らしてきた時間の長さ故か、敵を追い殲滅するという作戦以上に、主の身の安全の確認を優先させた。

敵マスターの安全が確定したにも関わらず、敵は迫ってくる。
この速度域に、Y2Kの最高速度に迫ってくる。
のみならず敵は前方から現れ、進路の妨害を目論んでくる。
それは信じがたい事だ。
試したわけではないが、この速度域は敏捷判定でAを誇るライダーをして追跡不能であると断ずる事の出来る。
これが峠のように狭く、曲がりくねった山道であれば追跡は容易であったろう。
だがここは直線の道路、市街地である。

本陣で予測したとおり、敵の戦闘力は大したことはない、妨害を目論んだ敵の攻撃、その尽くを弾き、釘剣を突き刺し、後方に投げ捨てた。
だがその数秒後には進路上に現れ、再び妨害する。
何度続けても立ち塞がる、その事実はひたすらに不気味であったし、それが何かを目論んでの行動だとすれば焦りさえ生まれてしまう。
その思考が隙を生んだのか、それとも連続する攻撃によって気付かぬ程度に集中力が失せていたのか、ついには敵の一撃を完全には弾けず、バランスを崩し、その結果軌道が逸らされた。

正に矢のように、最高速度で市街地を疾走していたバイクの軌道が横に逸らされれば、待っているのはビルやガードレールとの衝突である。
それを理解し、全力で挙動を修正する。
敵の速度は尋常ではない。
この機体から降りる事になれば、恐らく間断のない攻撃により数分はこの場に留められてしまうだろう。
とはいえ、彼女自身の敗北はまるで考えていない。
だが戦術で勝利しようと、戦略で勝利をしなければ意味はないのだ。
衝突は免れたが、数度の回転を加えられたY2Kは完全に停止し、周辺は灼けるようなゴム臭が満ち、更に白煙は焚火の煙のように路上に上がった。
「やはり離れるべきではなかった……」
後悔はある。
だがこの後悔は洗い流せる物だ。
「サクラ……すぐ行きます、無事で居てください」
そう決意を新たにした直後、足音を聞いた。

音の方向へ視線を走らせる。
敵の本陣で見かけたような体躯の、和服を着た少年の姿があった。
その姿は小柄ながら、腰に下げた一振りの直刀は歓迎できる物ではない。
そして和服の色や模様は、彼女にとって『見慣れた』物であった。
勿論、実物を手に取ったわけではなく、あくまで書物などからの知識に過ぎない。
だがそれは余りにも有名に過ぎ、彼女が目を通した数多くの物語の中で幾度も主役となり敵役となった物だ。
「新撰組……?」
その言葉に応えるように少年が抜刀する。
抜刀し、構えたその姿は武士そのものである。
そして驚くことに、その姿に血糊も、それどころか汚れすら無い。
あれほどに突き刺したというのに、怪我一つしていないというのだろうか。
「私に関して問うならば、然りと」
少年が僅かに口を開く。
実際の実力はどうあれ、この少年が『新撰組』であり、ここが『日本』であるならば、戦闘能力は上方修正されているだろう事は容易に想像が付いた。
なれば――


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最終更新:2008年01月17日 19:28