637 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/11/18(日) 04:13:43
真正面から接近する。
こうなれば最早銃による戦闘は有益ではない。
そう、本来ならば近、中距離にて威力を発揮する銃弾だが、互いに位置を完全に認識し合う状況では回避され無意味なだけではない、発砲時のマズルフラッシュは視界を塞ぎ、何らかの攻撃を誘発し、そして恐らくはダメージを受けるだろう。
互いの認識は一致している。
銃弾が有効となるのは、遠距離へ離脱してからか、互いに位置を完全に把握できないドッグファイト、もしくは認識しようと関係のない超至近距離だけだ。
けたたましいバイクの音とは違い、二人は武器を振り上げたまま、静かに接近を待った。
武器の先端が触れられるだけの距離。
そこまでの接近と同時に静寂が破られ、互いの武器が風を切り裂く。
頭を狙い斧が振り下ろされ、首を狙い刃が薙ぎ払われる。
だが互いの武器は敵の身体に触れることなく戻される。
この一撃は止められると認識したためだ。
互いの攻撃可能距離が交錯する時間は半秒とない。
シャリフの二撃目は払うのではなくトラップのように敵の目前に刃を固定した。
互いの相対速度は既に音速に等しいほどだ。
その中で鋭い刃に触れればそれだけで両断される。
だがその刃は下から突き上げられた斧によって弾かれる。
ストックを短く、人差し指をトリガーガードに入れた握りは、接触と同時に衝撃の反作用によってトリガーが引かれ、暴発気味に発砲される。
通常そのような弾丸が命中することなど期待出来はしない。
しかしこの近距離、弾丸が拡散するショットガンは面制圧の兵器に等しいだけの範囲に弾丸をばらまく。
だがシャリフはそれを回避した。
あろうことは彼女は左手をバイクに残したまま、制圧される面から逃れるために両足の僅かなバネのみを頼りにバイクの上を跳ねたのだ。
ショットガンの弾丸がK1200Rのシートを削り道路を深く抉り取る。
それよりも早く、シャリフは敵の首を目掛けて強烈な蹴りを叩き込む。
非情な程の相対速度は頸骨を折り、敵を地面に叩き付けていただろう。
だが『騎乗し戦う』ことを最大の役割として与えられた『ライダー』は愛機を手放すことを拒否した。
それは代わりに垂直のウィリーとなって衝撃を表現した。
猿轡さえなければ絶叫を上げているだろうが、呻き声さえなく、その瞳が激痛を訴える。
それでも尚、闘志はまったく衰えていない。
ウィリー状態のバイク、その鋭い爪のような先端を、如何にしたのか逃げるように走り去りかけたK1200Rの後輪に叩き付け、切り裂いた。
後輪が異常を訴え軌道を乱し、シャリフは残っていた左腕をバイクから離し、飛び降り、着地する。
一瞬の接触は、シャリフのバイクを奪い、また敵ライダーの頸骨に重大と言っていいだけのダメージを与えた。
片や最大の武器を失い、片や頸椎にダメージを負った。
敵ライダーは片腕で首を押さえながら、もう片方の腕で拳銃を握り、シャリフの背中を睨み付けている。
シャリフは振り返りながら――
最終更新:2008年01月17日 19:30