716 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/12/24(月) 05:13:35
屋上から侵入するべく蔦を蹴った。
蔦を数度蹴り中程にまで到達した直後、階下からは銃撃音が途切れ途切れに聞こえてくる。
ジェネラルがトラップ解除用にと突入させたという部隊は既に戦闘状態に入っているのは間違いはないようだ。
この状況――となることが容易に想定出来た――中でジェネラルの兵と共に突撃するのは、愚策ではないが少なくとも良策ではない。
彼女は自ら立てた予測の正しさに安堵した。
通常、サーヴァントとは単騎でこそ最大の戦力を発揮する。
如何に優秀な存在であろうと、それが『分かたれたもの』である限りにおいて個々の認識の競合、互いの運動領域への干渉、単一目標への攻撃の集中による過剰な弾薬――魔力を有し戦う者であるならばそれが魔力に置き換わる――の浪費など、戦闘力を阻害する要因は幾らでも考えつく。
なれば背後を突き、分断できるならばそちらの方が双方にとって利点がある――無論敵にとってもそうである可能性は高いが。
少なくとも、敵の想定外の位置からの攻撃は初撃のみであれ有効なはずだ。
上へと伸びる蔦が途切れ、蔦に覆われた屋上に着地するまでに要した時間は数十秒、通常のテロリスト掃討であるならばとうに終わっていなければ人質の身が危に曝される頃合いだ。
屋内と屋外を繋ぐ構造物、それは貯水タンクや据え置きの物置と共に蔦に覆われていたが、それでも僅かな非常灯の電力が通っているようで、能力としての夜目を持たぬシャリフの目にもその形は大凡見えていた。
両手に握ったM-10の装填を確かめ、第一歩を踏み出し――
それと同時、真横に跳んだ。
それが『そうだ』と認識するよりも早く走った悪寒は本能となって彼女の身体を突き動かしたのか、
風切りと共に弾丸が通り過ぎ、それと同時に発砲音を耳にした。
発砲音の方向へ銃を向ける。
その背後で蔦に命中して快音が上がった。
だがそこには蔦そのものやそれに覆われたフェンスがあるだけで、他に何も見あたらなかった。
膝を僅かに曲げ、次の行動に移れるだけの溜を作ったままその方向へと歩き出す。
フェンスへと辿り着くのは容易だったが、そこにはやはり蔦があるのみで、敵の姿も、自動発砲可能な時限装置も置かれては居ない。
『だとすると、敵の高速移動か、気配遮断か……』
翼を広げた鳥のように左右に銃を向けたまま周囲を警戒する。
……どうやら下に隠れたという事では無いらしい。
再び悪寒が走る。
今度は前へ、フェンスを蹴り上へと跳ぶ。
その背中、肌に密着しているライダースーツの上を滑るようにナイフが擦過する。
シャリフは後ろ手のまま背後へ12発を撒き散らし、空中へ向きを変えて敵を――
「……居ない?」
――見据えようとして失敗する。
敵の姿を見つけられぬ、という体験がこれまで無かったわけではない。
12年にも及ぶ暗殺者としての人生の中でそのような相手が居なかったわけではない。
だがこれほどまで、ナイフが有効となる距離までの接近を許して見つけられぬような手合いと戦った経験は皆無であった。
――なるほど、こういう相手も居るのね
階下から聞こえてくる銃声故にか、彼女に焦りはない。
戦いへの高揚感が、彼女を奮い立たせつつあった。
「位置が分からなければ誘い出すだけ……」
着地したシャリフは周囲を警戒しながら――
最終更新:2008年01月17日 19:38