318 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/12/27(木) 05:11:06


『それ』を彼は訝しみながら眺めていた。
姿が見えぬ相手から攻撃されたと分かれば、銃弾を撒き散らして牽制をするか、姿を隠そうとするかだろうと思っていたのだ。


だが彼女は中央に移動し、移動可能領域を確保した。

これは彼女の甘い予測に過ぎないのかもしれない。
だが、互いに援護のない一対一の状況下、銃を用いた敵、敵の不意打ちを回避できたという事から判断できる能力における優位性。
戦闘経験のない魔術師と言う存在が相手であれば別であろうが、敵は銃器を用いている。
同時に魔術を使う、と言う相手でもなければそう遅れは取らないはずだ。
姿が見えないのもある程度理由は想像が付く、ステルス装甲などの技術も、理論的には存在している。
それが魔術を用いた物だとすればその遙か昔に存在してもおかしくない。
だがそれは転じれば酷く脆い物だ。
姿を見せた瞬間それは意味を失い、丸裸同然となる。

そう判断したが故の中央への移動。
これは気配を消している敵へのフリーハンドを許し、代わりにこちらも最大のフリーハンドを得る、ある種捨て身の戦法である。


彼はかつて忘れられた存在であった。
そして死後、古今東西に数多ある例と同じく過大なる評価を得て英霊へと祭り上げられた人間である。
特異な点を上げるとすれば、それが近代の例であるという点、また彼が勝利者の陣営に有りながら卓越した結果を残したという点にあるだろう。
英雄とは多くの場合結果の面であれ、精神的な面であれ、敗北する側に必要とされる為だ。


照星の先には彼女の頭がある。
彼女はこちらに気付いては居ない。
仮にこの距離で気付かれているとすれば、彼は疾うに撃ち抜かれているだろう。
優位は一点、こちらを関知できていないというその事実のみ。
こちらの攻撃が回避されていると言う事実から判断した身体能力差にしても、より正確に関知している。
対象は射撃の瞬間漏れ出る殺気を探知することは出来ているようだ、彼女を打ち倒すには至近距離まで接近しての必殺しかないと、彼は結論していた。

二人の思考は極めて近い地点を通りながら決定的なズレを有し、望む答えを弾き出すべく疾走していた。


屋上に静寂が訪れる。
だがそれは戦闘の終結を意味しない。
全周囲から放たれているとしか思えぬような視線をシャリフは全身に感じていた。
そして敵が一人、という事を彼女は察していた。
即ちその視線の正確な位置を探ることこそが彼女の死線となるだろう。
常人ならば疾うに発狂しているであろう場所で、時間は刻々と流れていく。

かくして、再び銃弾が放たれる。
放たれる直前、全周囲の死線の中から僅かな殺意を察知する。
両手に続き両足を広げ、右後方からの銃弾を地を這う蜘蛛のような死線で回避すると同時に曲芸じみた姿勢で弾幕を撒き散らす。
その反動を使い宙に浮き、続けてその周囲に銃弾を撒き散らしながら、既に弾丸の切れた右手のM10を放り捨て、新たなM10を手にする。
逃げ去る先を予測し、更に銃弾を撒き散らしながら、シャリフが宙を舞った。

だが着地の寸前、再びナイフが閃き、シャリフの頬を掠めて消え去る。
シャリフは舌打ちを撃ちながら後方へと転がって逃れる。

男の消えた先、一瞬だけ姿が見え、掻き消えた先には撒き散らした着弾痕が存在していた。
つまり、それが答えではないか?
ステルス装甲や瞬時の霊体・実体化ではなく周囲との――
「調和による存在隠蔽……!」
それは彼女の時代には既に消え去った力だ。
この時代から遠くない未来、技術によって世界は完全に蹂躙された。
そこに他生命体との調和などは存在せず、その結果地球も人類も、多くの物を失うこととなった。
それを止めろと言う者も多く存在したが、それでも有した技術を捨て去ることはしなかったし、今更出来るわけもなかった。

「なるほど……」
彼女は理解した。
理解してしまった。
これはいわば『同時代に存在する未来に対する反撃』であったろう。
未来に生きた存在故に『自然と調和する存在を関知する』感性など数世代前に失ってしまっている。
僅かに感じ取れるのも、サーヴァントという枠に当てはめられたが故に僅かに有している神秘故に過ぎず、本来の自分にはこのような能力はないと言うことも、彼女は理解した。
だがそうだろうと、己のためにも、己を信頼した人達のためにも、敗北を受け入れはしない。

彼女の不敵な笑みを彼は見た。
薄氷の上の優位たらしめた能力が露見した、という事実を彼は受け入れた。
『だがここで戦う限り、優位は崩れない、次こそは……』
平静なる心を持って、彼は敵を見据え
「You want this thing? Come and get it!<<私の命が欲しいの? ならば力ずくで奪い取りなさい>>」
シャリフの不適な言葉を聞いた。

次の一瞬――


サティ:闇夜が燃えた
カーリー:紫の光を見た
ドゥルガー:シャリフが飛んだ

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最終更新:2008年01月17日 19:39