751 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/11/24(土) 16:10:33
「これで最後、か」
メモに記された物も買い終わり、特に寄り道する予定もなく帰路についた…………のだが。
一陣の風に乗って運ばれてきた、思わず食欲を刺激される香ばしい匂い。コンマ数秒で発生源を嗅ぎ分ける。そうして条件反射で振り返った先には、赤い幕が張られた屋台があった。今川焼きだ。
「……ゴクリ」
当然の反応として、口内に涎が溢れる。果たしてシロウが行方不明になっている今、本能に促されるまま美味しい物を食べてしまえば不謹慎の汚名を被ることになるのだろうか?
だがタイガは言っていた。余ったお金で好きな物を買って良いと。ならばこれは自らの労働に対する正当な報酬ではないか?
時間は夕方、夕食前。丁度お腹が減ってくる頃合いだ。
――迷うくらいなら食べてしまえ。
そう決めてしまえば早いもので、考えるよりも先に体は動いていた。――と、ふと前方にサラサラはためく紫色の長髪が目に入る。これは……。
「サクラ」
「あっ、セイバーさん。こんにちは」
何とも奇縁である。サクラも私と同じく今川焼きを買うべく並んでいた。やはり彼女も焼けた小麦と餡子の織り成す絶妙な美味に魅せられたのだろうか。これには幾戦もの戦場を経験してきた私とて抗えぬ誘惑なのだ。彼女が逆らえなくとも無理はない。
むしろ同士を見つけた気分だ。食欲にそそられた自分を恥じらい頬を染める様には、思わず微笑すら浮かべてしまう。
「こんにちは、サクラ。貴女もお買い物ですか? 奇遇ですね」
「ええ、そうなんです。といっても皆さんが食べる分じゃなくて間桐家で賄うものですけど」
ふと半透明のビニール袋に視線を落とす。
……何故か袋一杯に缶詰と食パンが詰められているような気がするが、それは気のせいだろう。多分。
「今川焼き、好きなんですか?」
「そ、そうですね。屋台で出されていると、ついつい買い食いしちゃいます。本当は控えたい所なんですケド」
「別に気にする程の体型ではないと思うのですが……」
「セイバーさん、それは禁句です」
その後も喋りながら歩いている内に、自然とサクラとデートという形になっていた。もちろん私が男という設定で。女性をエスコートするのは実に二回目であるが、最近ではこういうのも悪くないと思える程度の余裕が持てていた。
色々なことを話した。シロウのこと。リンのこと。間桐のことにわかめのこと。自らに優しくしてくれた叔父のこと。私が経験した王としての責務、そして幾度もの戦争があったこと。
私自身一言も聞き漏らさないよう留意したが、サクラも私の話を真剣に聞いてくれた。
思えば私とサクラが2人っきりで話す機会は中々得られることがなかった。したがってお互いに知らないことがたくさんあって、その分会話が弾んでいたりする。
「セイバーさんっ♪」
「サ、サクラ、腕に柔らかいモノが当たっているのですが……」
「あててんのよ」
商店街を抜け、公園を抜け、異人街を通り、坂を上って学校の門に着く。これといって目的地を定めていた訳ではないので、どこに行くともなく流れ、最後に暗くなった頃には新都へと続く橋の上に立っていた。
「んーっ、夜風が気持ちいいなあ。そろそろ寒くなる季節だから余計に名残惜しいかな」
風が私とサクラの2人の髪を揺らす。空を見上げれば、金色の光が世界を照らしていた。
「……そうですね、少し名残惜しい。サクラ、今日はありがとうございました。貴女のおかげで久しぶりに楽しい思いができた」
「気にしないでください。私もこんなに楽しかったのは久しぶりだもの。お互い様です」
始まりがあれば終わりがある。それはどんなものでも逃れられない宿命。
――それに。
手に提げたままの買い物袋。
マズイ、タイガがお腹を空かせて待っている……。
「すっかり遅くなってしまいましたね。帰りましょうか、サクラ」
「そうですね。私の家では兄さんとお爺様が待っていますし……」
「それでは――――」
最終更新:2008年01月17日 19:49