801 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/11/27(火) 01:37:22


「――――む」
「セイバーさん?」

 いつの間にそこにいたのか。帰路につこうと身を翻した先には、1人の武芸者が橋の出口を遮るかの如く立っていた。
 否、如く、ではない。ソレは明確な意思を以って道を立ち塞いでいたのだ。

「セイバーさん……」

 肩に掴まったサクラの指に力が篭もる。無理もない。ソレがただの変質者ならば、サクラも私も何の苦にすら感じなかっただろう。だが、目の前の男には微弱とはいえ魔力の波動を感じることができた。
 いや、そもそもそれ以前に鎧兜に身を包んだ変質者などどこにいるというのか?
 背には剣、斧、槍、等々大小様々な武具を背負っており、赤いマスクに隠された顔には赤い隈取が施されている。武芸の心得がない者はその白眼を見ただけで戦意喪失するだろう。

「…………」

 決して楽な相手ではない。サーヴァントクラスか……。仮に戦うことになったとすれば、勝敗はいずれの手に渡るのか?

「…………!」
「……サクラ?」

 ふいに自分の腕にしがみついていた少女を感じ取る。――いけない、こちらにはサクラがいるのだ。仮にでなくとも戦いは避けねばならない。
 それまでの雑念を振り払うべく、なるべく何の感情も露にせずに武芸者の脇を通る。……だが男の目的は、やはりこちらだった。

「待ちな」

 瞬間、サクラを抱え、身を大きく後方へ飛びずさる。マズイ、この流れは――――!

「匂うぜ、お前。隠し切れぬ名刀の匂いが……。伝説の剣かい? もしやあのエクスカリバーだったりしてなァ……」
「……何だ貴様は」

 何故それを知っている?

「ここを通りたければ剣を置いていけ。でなければ意地でもここは通さねぇぜ」

 こいつ……歌舞伎役者にでもなったつもりか? 橋の真ん中で通せんぼとは……。どちらにしろ騎士を称する身として、自らの剣を主以外の者に渡すなど言語道断。とはいえこの状況ではこちらが不利、か。

「おおーっと、別にそっちの姉ちゃんには用なんてないぜ。通りな。用があるのはあくまでそこのお嬢ちゃんだけだ」
「……それはありがたい。サクラ、聞いての通りです。すぐ済みますので先に帰っていただきませんか?」
「でも……」
「大丈夫。せめて終わりは美しくありたかったですが……致し方ないですね。今度はゆっくり楽しみましょう?」

 少女は軽く傾き、武芸者の横を走り抜けていく。その姿が完全に闇夜に呑まれていくのを見届けた後、魔力の鎧を編み、戦闘態勢を整える。
 そこに平穏の心は微塵も残さない。かつて戦場を駆け抜けた、英雄としてのアルトリアで塗り潰す。
 ――さて、始めるか……。

「貴公の騎士道精神、かたじけなく存じます。全力でお相手ができそうだ」
「へへ、よしなって。俺はただあんたの剣が欲しいだけだ。今日はあんたで2人目……。その不可視の剣、奪わせてもらう!」
「我が名はセイバー! いざ尋常に勝負!」
「ギルガメッシュだ! よろしくなっ!」

 言い終わる直後、魔力を纏い、体を弾丸の如く撃ち出す。
 あの男はキャスターやアサシンのような、奇策や特殊能力を用いて戦うタイプではない。正面から力対力の真っ向勝負を挑むタイプ。ならばこちらがとる手段は一つ。同じく力で応じるのみ。
 全身のバネで振り下ろす轟剣を、長大な薙刀をフルに使った遠心力で受け止める。瞬間、篭手を震わせる衝撃。鉄と鉄が火花を散らし、辺りに鋭い音波が響き渡る。
 休む暇などあろう筈がない。続けて返しの柄を叩き込む。が、肉厚な篭手がそれを阻む。それでも腕に伝わる衝撃は相当なものだったのだろう。握られた拳は意思に反して頼りなく広がり、痙攣している。
 隙あり。三度刃を煌かせ、今度は男の脇腹目掛けて振り払う。終わった、と直感した後、後方に風を感じ、その次に浮遊感。
 ……嬉しい。男は私の微かな期待に応えてくれた。空いた手で私を後方に突き飛ばすことで、勝負の決着を免れてくれたのだ。戦友の姿を確認すれば、痺れた手を振りながら苦々しい顔でこちらを凝視していた。

「い、いってぇ~~~。なんちゅう馬鹿力だ……」
「けほっ、けほっ……そ、それは女に向かって何とも失礼な言い草かと。ですが、まあ……やりますね」
「俺の方は予想の範囲内かな。こちとら、もっと強い女達と戦りあったことがあるんでね。それも4人がかりでだ」
「それはとんだ災難だ。大変だったでしょう?」
「へっ、その代わり楽しかったけどな! セイバーとやら。あんたも同じくらい楽しませてくれよ!?」
「存分に堪能してもらいましょう。もちろん、強制参加ですがね」

 まいった。これは、いけない。
 たった二合合わせただけだが、予感がある。この戦いは、この何のしがらみもない戦いは、まず間違いなく最高の闘争に駆られるだろうと。
 今日はサクラにとって気の毒だったが……しかし私にとっては記念すべき日だ。互いの剣技の全てを交し合い、終には彼の全てを知りたい。
 武芸者も同じ思いなのか。それまで手にしていた薙刀を手放し、背に負った武器類から一本の長い日本刀を取り出した。鞘から抜き払われた刀身は、雨より深く、海より澄んでいる――――。

「こうなりゃ仕方ない、秘蔵の剣を見せてやるぜ。銀髪の兄ちゃんから貰ったこの刀……俺が見てきた中で最高の切れ味を誇る『マサムネ』よ。今宵はとことんまで味わってもらうからな!」
「……ますます楽しませてくれる。いいでしょう。こちらも鞘を抜き取ることとします」

 ここまでくれば、刀身を見せぬなど無粋の極み。エクスカリバーの鞘である風王結界を解き、黄金の刃を露にする。解かれた結界は一陣の風となり、橋の上に小さな台風を作った。
 ――――今夜は誰もいなくて良かった。こんな愉しい戦い、邪魔されるなど論外だ。

「いくぜ!」
「来い!」

 先程の剣戟以上の圧力を以って矛をかち合わせる。火花など当然。数合打ち合った頃には互いの肉を掠め、コンクリートの地面に赤い花を咲かせた。致命傷など程遠い。だがこのギリギリの戦いが最高なのではないか――――!
 ――それでも始まりがあれば終わりがあるのも道理。
 数えるのもやめた数十合目。とうとう黄金の輝きが、武芸者の肩を貫いた。一瞬遅れて、赤い血飛沫が白銀の鎧を染める。
 無論、これで終わりではないが――このまま続けても勝敗の結果は見えていた。

「ぐ……」
「ふぅ……っ」

 どうするか。
 命を奪う理由などない。男は単に剣を欲しただけのこと。そしてその剣を巡っての正当な決闘に、私は勝ったのだ。白黒はもうついている。それにここまでの好勝負を繰り広げてくれた男に対し、多大な敬意を抱いていたのも事実である。殺すのは、惜しい。
 1秒か2秒か。ほんの僅かな時間を思考に費やしている隙に、男は肩に突き刺さった剣を抜き取り、大きく後方へ飛んで間合いを広げた。

「何のつもりだ!?」
「く、くそっ!」



Ⅰ:「今日のところはこれくらいにしといてやる。覚えときな! Pe!」
Ⅱ:「俺が悪かった……」
Ⅲ:「ここからは本気で戦わせてもらうぜ! ギルガメッシュチェーンジ!!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年01月17日 19:50