877 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/03(月) 21:16:38


「一体全体どうしたってんだ? 俺の修行は修了ってことか?」
「……その前にウィンダスに戻りましょう。帰り支度を整えなさい」

 ようやっとクリスタルを返してもらい、少女の捜索を開始できるかと思ったが、どうも雲行きが怪しい。その証拠に、帰還を促す言葉には一種の強制的な響きすら感じ取れる。
 とにかく他に選択の余地があろう筈もない。言いなりというのも癪ではあるが、拒否する理由がなく、加えてそろそろ帰ろうと思っていた所だ。むしろ丁度良いとすら言える。
 荷造りを開始すべく、今まで陣取っていた居住区に向かう。と、それまで口を噤んでいたトーさんが、縋るように詰め寄ってきた。

「アンタもどこかへ行っちゃうのかい? また、アタシは一人ぼっちになっちゃうな……」
「トーさん」

 思えば。
 彼女はずっと1人きりだった。つい最近、やっと孤独から解放されたのも束の間で、またもや孤独に苛まれてしまうのだ。いや、2人で居ることを覚えてしまったが故に、今まで経験してきた以上の寂しさを味わうこととなるであろう。
 短い付き合いであるとはいえ、それが少し心残りだった。

「な、なーんて、冗談さだよ、冗談。ちょっと困らせてやりたかっただけさ。頑張っておいで! 応援しているからさ」

 彼女の言葉の真偽など明らか過ぎて、問い質す気にもなれないが……だが最後に俺がしてやれることはある筈だ。微かな躊躇いを覚えながら、俺は口を開いた。

「また来るよ。その時は俺ばっかりじゃなくて、たまにはトーさんが美味しいものご馳走してくれよな」

 直後、きょとんとこちらを凝視する瞳。そして二呼吸置いた後、戸惑いを経て微笑へと変化する。
 さようなら、プルノゴルゴ島。
 それまで溜めておいた骨細工、皮細工を手製の風呂敷に包み込み、ふらつきながらセミ・ラフィーナの元へと駆けて行く。その様は間抜けな大泥棒だ。眼前の白いミスラも少々呆れ顔である。

「ゴブリンも真っ青の大荷物ね。期間が期間だから仕方ないのかもしれないけど、途中で街に立ち寄ろうとは思わなかったの?」
「ん、一応思ったことは思ったけど。最初の頃は結構マメに競売に出品していたんだけど、仕舞に面倒くさくなっちゃって。自分でもどうかとは思うんだが」
「……それだけあれば路銀の心配はいらないわ。いくら自然に帰依するったって、プロの狩人でもそこまではしない……。普通は街を拠点に据えて狩りを行うのだけれど」

 さながら野人である、か。
 とはいえ完全な自給自足は、文明にはない自由と気まぐれに満ちており、意外な程の解放感を感じることができた。建前として面倒だから街に出なかったと述べているが、本当は単に夢中になっていただけかもしれない。今でも文明に立ち返るのが名残惜しいくらいだ。
 しかし俺には目的がある。それを成し遂げるために野営をしていたのであって、目的と経緯を挿げ替える気はさらさらない。
 セミ・ラフィーナは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、不可解な呪文を唱え始めた。興味心にそそられ解読を試みてみたが、さっぱり意味がわからない。地球とは魔術系統が違うのだから当たり前ではあるが。
 10秒か20秒の時を経た頃、羊皮紙から黒い闇が溢れた。それが俺と彼女を包み込む。一瞬、彼女の害意を疑ったが、よく考えれば全く脈絡のないことなので、彼女に対する侘びと共に自身の奥底へと沈めた。
 闇が晴れ、まばゆい光に目が慣れてきた時――眼前に広がる木々豊かな光景は、爽やかな砂浜ではなく、かつて見たウィンダスのそれであった。

「……ん? セミ・ラフィーナ、それは一体?」
「呪符デジョン。私は魔法なんて使えないけど、羊皮紙にデジョンの魔法を封じ込めることによって、魔力を持たない者にも魔法を使えるようにした道具ってことね。主に冒険者に支給されている。君にも一枚渡しておくわね」

 そう言い、僅かに変色した羊皮紙を手渡される。瞬間移動の魔法、か。元の世界では魔術に分類されるものだろうが、中々便利であることは間違いない。しかしそれなら何故彼女はわざわざ船で俺を迎えに来たのだろう?

「移動できる場所は一箇所に限るの。自らの所属国だったり、もしくは野営地だったり。でも先程見たとおり、発動には時間が掛かるから過信はしないでね。さて、では本題だけど」

 来た。どんな無理難題が出されるというのか。どちらにしろクリスタルを預かられている以上、嫌とは言えないのが悲しい所だが。


「ここで言うのは憚られるわ。君はこれから星の塔へ出向いて、そこにいる書記官を訪ねてちょうだい。星の塔で君への任務が言い渡されます」

 任務……。その言葉に妙な引っかかりを覚える。俺はあくまでクリスタルを返してもらうのが目的で長期間鍛えていたのであり、ウィンダスという国の走狗になるのが目的ではない。まさかとは思うが、そこに齟齬が生じている危険性はないのだろうか? それは良くない。早めに確認しておかねばなるまい。

「あの、セミ・ラフィーナ。俺は一刻も早くクリスタルを返してもらって、果たさなければならないことがあるんだけど」
「わかってる。君を便利な使い走りだなんて勘違いしてない。国が君に任務を任せるのは、これが最初で最後。少し事情があってね、国の者ではできないことなのよ。君がどれ程の実力が身に付いたか試すテストだと思ってもらって構わない。見事任務達成できれば、晴れてクリスタルは君の元へ返ってくる」
「…………」

 ここでぐだぐだ言っていても仕方がない。釈然とはしなかったが、俺は黙ってセミ・ラフィーナを信じることにした。

「ところで星の塔はどこにあるんだ?」
「見えない? あの巨大な木が星の塔よ」

 彼女が指差す方向には……ウィンダスに初めて来た時、あまりの大きさに活目した、例の大樹だ。まさかあれが建築物だというのか? 説明を仰ごうと視線を送るが、どうやら口で聞くよりも目で見た方が早い方針らしく、道順を教示するに留まった。
 早々に彼女と別れ、その星の塔へと足を進める。教えられた木の麓へと向かえば、そこには入り口ではなく魔方陣が描かれているのみ。ほんの1、2分考えを巡らせた後、思い切って輪の内へと踏み込む。瞬間、先程経験したデジョンとは真逆の白い閃光。眩しさに目が眩み、思わず目を閉じるが、ややあって光が止んだ頃、目の前には数人のタルタルと、四方を囲む木造の建築。窓は、ない。
 俺の姿を見咎めた受付係っぽい女の子が、こちらにずかずか歩み寄ってきた。

「待っていたの! 貴方がエミヤシロウ、ですね? むさいマッチョなの!」
「は、はあ」
「書記官のクピピです。よろしくなの。では早速ですが説明を読み上げます。三国の盟約に基づき、海の向こうの友好国、サンドリア王国とバストゥーク共和国には、ウィンダス領事館が存在します。この二国の領事館を回り、他国の様子を探ってきてください」
「……もしかして、スパイ?」
「黙らっしゃいなの! 2国のどちらを先にするかは、各自の自由なのです。他国のウィンダス領事館では、何かお仕事をお願いされるかもしれません。そういったお仕事からも様々な情報を手に入れて、ウィンダスに持って帰ってきてください」

 なるほど、これは国に属した者では無理な仕事だ。したがって、身元不明の俺にはまさにうってつけという訳だ。別に国を運営する政治が常に清廉潔白だとは思っていないが、直接俺自身に繋がっていると自覚するならば、複雑な気分であった。

「ウィンダスは平和を尊ぶ中立国だということを、決して忘れないでくださいです。他国人になんて言われようと、20年前の大戦の悲劇をくりかえさぬようにするのが我が国の務めなのなのです。貴方の他に2人同任務に従事する者がいますので、そいつらと合流して行ってくださいです。広場にいる筈なのです。……というわけで、説明は終わったのです。早く行け! ……なのなのです」



Ⅰ:サンドリアから行く
Ⅱ:バストゥークから行く
Ⅲ:口の悪い書記官にデコピンで反撃

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最終更新:2008年01月17日 19:54