926 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/08(土) 01:27:22
「さて、2人待ってるって言っていたけど……む、あれかな?」
それとなく目に付く2人組の姿が視界を捉える。
当初は猫人間とチビ人間で混雑する広場のお陰で探索は困難に思われたが、しかし意に反し容易に目的を達成することができた。
理由は二つ。
一つはその2人組が何より目立っていたから。彼女らの周囲をあからさまに人が避けて通っており、小さな輪を形作っているのだ。
彼女らは今日が初対面なのだろうか? 噴水の縁に腰掛ける互いの距離は微妙な位置で固定され、その口は固く一文字に結び、異様な雰囲気を漂わせている。これからこの2人と一緒に旅をするのかと思えば、周りの皆様方と同じくちょっと憂鬱になってくる。
理由の二つ目は……実に単純。片方の人間が俺の見知った奴だったからだ。
ここまでくれば結論は誰であろうと同じ筈。迷うことなく歩を彼女らの前へと進ませた。
「よっ、久しぶり」
「アンタは…………って、何、その頬……」
かつて同じ船旅をした、遠坂似で泥棒である少女の顔が痛ましく歪む。同じく隣に座っていたヒュームの女性も、声こそ出さなかったが、驚きに目が見開かれている。
再開はできる限り美しく、爽やかなものが望ましかった。だがこうも華々しい伊達顔にされては誤魔化しようがない。網で焼いた餅のように、あるいは虫歯を患った者の如く。真っ赤に焼きごてされた手形を中心にして頬がぷっくらと膨らんでいたら、そりゃ突っ込まずにはいられないわな。
「いや、誤って凶暴な蜂の巣を突っついちゃってさ……。それより偶然だな。君とその子が一緒に旅をするっていう?」
「え、ええ……。いや、触れて欲しくないのなら触れないケド。ちゃんと説明はされてる?」
「うん。えと、その子も、だよね?」
「…………」
傍らの少女は何故だかだんまりを決め込み、こちらを見つめてくるに留まっている。
歳はそれほど俺と変わらない……と思う。緊張しているのだろうか? 無表情でじっとこちらを凝視されると、正直どぎまぎして落ち着かない。
顔は……流石にセイバーやライダーみたいな絶世の美人と比べると凡に貶めてしまうが、それでも結構可愛い。美しい、じゃなくて可愛い。丸い、愛嬌のある目は、見ていて微笑ましい。髪型はショートカット。服装は周囲の冒険者のように鎧兜で武装している訳ではなく、至って平凡な布の服。ズボン。その華奢な体格は、どう見ても荒事に耐え得るだけの頑健さは備えているようには見えないが……。
そして最大の特徴。大地を跋扈する獣人に襲われたのか? 彼女には左腕が肩口からスッポリ消えていた。何も通っていない袖のみが、重力に従いダラリと垂れている。ほぼ反射的に慰撫の言葉を探すが、流石にそれは自分でも偽善なのだと理解しているのでやめた。
とにかく喋らないことには始まらない。少々安易ではあったが、まずは自己紹介から始めるべきだ。会話がないままではこれから先、身がもたない。
「え、えと、はじめまして。この度はご一緒させていただく衛宮士郎と申します。趣味は……えと、特にはありません。特技は料理です」
対する彼女は無反応。
……いかん。安直だと覚悟はしていたが、これでは自分が道化のようではないか。やましいことなどない筈なのに、何故だかとっても恥ずかしくなってきた。2人が会話もせずに微妙な空気に浸っていたのも、彼女がこんなだったせいだからかもしれない。
なけなしの勇気を振り絞って突貫したが玉砕し、半分鬱になりかけた時。同様に何とかこの空気を打破したいと願ってくれている仲間がフォローを入れてくれた。
「へ、へえ。アンタの名前、エミヤシロウってんだ。今更だけど初めて知ったわよ」
「あれ、言ってなかったっけ? へへ、可笑しいな。結構顔見合わせている筈だってのに。そういや俺、お前の名前全然知らないぞ」
「ありゃ、名乗ってなかったぁ? ふふ、私は……」
(無口な彼女は……)
Ⅳ:久織巻菜と名乗った
Ⅴ:石杖所在と名乗った
Ⅵ:久織伸也と名乗った
Ⅶ:カレン・オルテンシアと名乗った
最終更新:2008年01月17日 19:59