154 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/18(火) 01:00:00


「あっちにある白い建物。あの中で野宿しよう。夜が過ぎさえすれば、死者が迷い出ることなんてないだろ?」
「へ? あそこは……」

 指差す彼方には、一面の荒野に堂々と構えた神殿の赴。
 別段そこが安全だと確信していた訳ではない。しかしこのまま何の拠り所も得ずに一夜を過ごすよりも、遥かに現実的だと判断しただけだ。

「どうだろ? ここって遺跡なのかな? それとも入っちゃ不味かったりする?」
「そう、ねえ」

 顔を下に重く傾き、固く腕を組む。
 今も尚あの神殿に向かって歩き続けているというのに、どうしてだか彼女は乗り気ではない。やはりすぐ目についた場所を寝床に選ぶのは迂闊だったか。
 しかし背中で寝ている筈のマキナの一言で、相談は収束の流れをみせてくれた。

「僕、聞いたことありますよ」
「マキナ?」
「と言っても、冒険者の会話を横手で聞いていただけですが。えっと、ここはタロンギ地方だから……『メアの岩』という名前らしいですね。移動装置、とも聞きましたケド」

 なるほど。岩な上に移動装置か。
 ……さっぱりわからん。
 どっちにしろ虎穴に入らずんば虎児を得ず。何事もやってみなければわからない。
 ――俺は半年間の狩猟生活のお陰で、身を以って経験することの重要性を嫌というほど実感させられていた。

「行ってみよう。一応、移動装置と銘打つからには、獣人どもの巣ってことはない筈だ。もし万が一その通りだとしても、その時は次の手を打てばいい」
「う、ん……。わかった」
「いいんじゃないですか。話を聞いた冒険者達からは、危険そうなニュアンスは感じられませんでしたし。どっちみち今日は疲れて堪りません。早く休みたいな」
「アンタは一日中負ぶさりっ放しだったじゃない!」

 いがみ合う2人を放っておき、早速神殿のチェックを始める。獣人は……強化した眼で観察するものの、周囲にはカラス人間が2人(2羽?)うろついているだけで、決して中に入ろうとはしない。
 魔除けの護符でも貼ってあるのか。あれならば、野宿しても寝込みを襲われる心配はないだろう。
 次に外装のチェック。……奇怪な形をしている。幼児が作った粘土細工のようにいい加減で、まるで凹凸というものが見られない。雑な言い方をすれば、真っ白なヤドカリ。中央の神殿部から三つの台座が伸びており、それが足に形容される。それぞれの台座の上には、光輝く何かの煌き。

「クリスタル? いや、まさか。こんなずさんな置き方をしているのなら、今俺が苦労している甲斐がなくなる」

 最後に肝心の入り口は。
 神殿を先程以上に仔細に観察する。だがどうしたことか。表面を追ってみても白い外壁が続くばかりで、建築物には絶対にある筈の扉がない。
 獣人に見つからないよう慎重に距離を置き、神殿の膝元まで到達する。そのまま周囲をぐるりと回るも…………。

「ない。……おかしいぞ。入り口のない建物だって? 悪い冗談だ」

 ここまで期待させておいて、やってくれる。
 奥の手の『解析』を試みるが、対象が思った以上にでかいことと、得体の知れない膜に邪魔されることにより、内部の構造が上手く把握できない。
 他の場所を探そうと辺りを見回すが、時既に遅し。黒く染まりかけていた空は今や完全に闇に呑まれ、夜の姿を呈していた。アンデッドが、くる。

「――ち、仕方ないか。急いで2人を呼んできて、野宿の準備をしよう」

 幸い神殿の底は地についておらず、僅かに浮いた形で建てられている。この下ならば、風は防げずとも雨は防げるだろう。寒いのなら俺が持っている毛皮に包まればいい。
 ――その後、運良くアンデッドに遭遇することなく2人を連れ出すことに成功し、手早く野営を張ることができた。



Ⅰ:翌日、ジュノに到着した
Ⅱ:何故だか寝付けない、起きている奴いるのかな?
Ⅲ:何故だか寝付けない、星でも観て気を晴らそう

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最終更新:2008年01月17日 20:04