390 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/21(金) 23:50:49
投票してくださった皆様、集計してくださった方々、ありがとうございますo( _ _ )o
おかげで続きを書くことができます。感謝!
――Interlude side Shantotto
世界がざわめき始めた。勢いを増した戦火がウィンダスを包みこむのも、もはや時間の問題であろう。焼け出されたチョコボがすぐ横を通り抜け、何処かへと走り去っていく。
想い人は遂にわたくしを見てくれなかった。――星の神子。女神の生まれ変わり。ウィンダスのシンボル。戦争。召喚士。
所詮は叶わぬ恋。最初はいい気味だと思った。せいぜいわたくしに振り向かなかったことに後悔しながら、一生を過ごせばいいと思った。――だがそれを言うならわたくしも同じ。所詮は叶わぬ恋。
耐えられなかった。届かぬ想いを胸に秘めたまま2人の間に立つなんて、気が狂いそうだった。だから消えた。前院長を適当に半殺しの目に遭わせ、国外追放という汚名を敢えて被って。
本来なら由緒正しい家系出身、しかも院長がそのような重罪を受けるなど前代未聞だったが、むしろわたくしは天の采配に感謝した。これで堂々と胸を張って去ることができる。簡素な旅支度に身を包み、旅人帽を目深に被り、表門から出て行った。月の綺麗な夜である。
それきり故郷に帰るつもりなどあろう筈がない。愛国心がなかったといえば嘘になるが、しかしその時のわたくしにとってはさしたる問題に挙がらなかった。この件でウィンダスの戦力は確実に落ちたであろうが、自分の他にも優秀な魔道士はたくさんいる。
――それでも、他国領内に旅立って尚、想い人の影は付きまとう。
夜になって、辺りが静まると、そっとジュノの近くにある丘へ出向き、祈る。
恨んでいた筈なのに。頭の中に住み着いた、忌々しい幻影から逃れるために国を捨てたのに。気付けば再び1人の人間のことを考えている。
呪った。口汚く罵倒した。さりとてずっと胸に抱いていた想いは、どんなに貶めようとも色褪せてくれなかった。
その想いがどれだけ尊いものだったのか。あの人から逃げて、ようやく気付くことができたのだ。
もう戻ることはできない。
ならばせめて、無事を祈りたい。
毎日寝る時間を押して、祈る。朝晩、暑さに身悶え、もしくは寒さに凍えながら、心身を賭して、祈る。
途中、寒暑に耐え切れずに我が身を抱くが、そうした己を叱咤激励し、再度祈る。
カラハバルハは全魔道士の中で唯一の召喚士だ。召喚士は人には聞こえぬ幻獣の声を聞き分けるという。ならば、わたくしの声なき想いも届くのが道理。否、届いて欲しい。届くべきだ。
――――こういう風に幾度かの季節を祈りに費やし、夜の目も寝ずに心配していた想い人は、とうの昔に国を守るために殺されていたのである。
数ヵ月後、そんな悲しい報せを風の噂で初めて知った。
「――――……」
頬が、濡れていた……。
「最低、ですわ……。こんな……この、わたくしが……」
涙を流すなんて、何年ぶりか。
もうふっきれたと思っていた。とうに二十を越える歳月を経たというのに、まだ自分はあの悪夢に囚われているのか。
「まるで呪い、ですわね。……こんなみっともない元老院首席、誰にも見せられませんことよ」
途端、トン、トン、と明確な意思を持った音がこちらに向かって響く。ほぼ反射的に、悟られまいと瞼を強めに拭う。しかし扉は開かれず、訪問者は姿を見せずに対話を試みた。
「シャントット博士。俺だが……」
「アジドマルジド……。こんな朝早くに何の用です? 生憎わたくし目覚めが悪くって。くだらない用件でしたらブチ切れますわよ」
「……クリスタルのことなのですが」
一瞬、寝覚めの身体に緊張が走る。
クリスタル? 一体クリスタルに何があったというのか――――。
「いや。別に何が、って訳ではないのです。ただ、ヒュームの小僧に渡す、という話を小耳に挟みまして。本当かどうか確認しに来たのでして」
「まだ渡すと確定してはおりません。可能性はある、ということでならそうでしょうが」
「真ですか? 能無しのヒュームに一角のクリスタルを渡すだって? 信じられないな……。神子様は何と?」
「依存はないそうです。元々あの少年が持っていた物なのですから、我々が必要以上に口をだすことは罷りなりませんことよ。……オホホ、もしや貴方怯えていますの? 他のタルタル同様?」
「……冗談はよしてください。俺はただ納得していないだけです」
扉を挟んで、僅かに気の乱れを感じる。やはりアジドマルジドをおちょくるには挑発が一番である。
「……で、それだけでして? こんな朝早くから淑女の部屋の前を侵したというのに、三文以下の価値しかありませんわよ」
「いえ、続きがあります。先程ミスラ本国から罪狩りミスラが到着しました。スカリー……何だったかな。1人で来ているのです」
罪狩り……。あの処刑人どもが、今更ウィンダスに何の用だというのか。
「貴方何でそれを先に言わないの! やはりブチ切れることにします」
「待った待った! いえ、ね。得意面で押しかけてきた奴を棒立ちで待たせるのも一興かな、と思って。悪くないと思いますが……」
――――!
「……オホホ。なるほど、悪くないですわね。よくやりました、褒めて差し上げます。……さて、どうせならあと1時間くらい待たせてみるのも面白いでしょうね」
短い沈黙を置き、扉の奥から意地の悪い笑い声が響いた。
――Interlude out.
最終更新:2008年01月17日 20:06