676 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/23(日) 23:38:28


――Interlude side saber


「行っちゃい、ましたね……」
「ええ……」

 あれだけ大きかった旅客機が、今はもう豆粒のように小さい。
 リン……。
 ほんの数分前に見た、心底申し訳なさそうな顔。
 行ってしまった。
 ――けして今生の別れではない。しかし、シロウがいない私達にとって、彼女の損失は大きかった。

「……リンには謝るべきかもしれませんね。魔術師として大成しようというならば、時計塔への道は避けて通れぬもの。最低限、笑顔で門出を祝うだけの度量で別れに臨むべきでした」
「仕方ないですよ……。多分、姉さんもそれを理解していると思います」

 理解している、か。
 それは私自身も承知している。だからこそ、悔やまれてやまない。
 彼女の優しさも。甘さも。責任感も。知っているからこそ、彼女がロンドンに発つのにどれほど悩んでいたのか推測できる。
 代々遠坂が積み上げてきた魔術刻印を継承し、根源への悲願を課せられた以上、彼女は止まる訳にはいかなかった。強制じゃない。これは彼女が自分で望んだこと。真実、魔術師の家系に生まれたことを誇りに思っているからこそ、探求の道から逃げなかったのだ。
 桜もリンの心を汲み取っている……と思う。
 ――せめて最後は思いっきり心強い微笑を浮かべ、冬木とシロウは任せろと彼女に伝えたかった。

「……アーチャー。貴方は主に着いて行かなくて良かったのですか?」

 私の言葉に呼応し、何もない空間が僅かに揺らめいた。

「何、構わんだろうさ。どうせ私が行った所で、雑用に扱き使われるのが目に見えている。ならばハウスキーパーの地位に甘んじている方が幾分かマシだろう?」
「そう、ですか」

 それがこの弓兵なりの優しさかもしれない。もしくは私と同じくシロウを心配しているとか。……いや、それはないか。

「とうとう喧しいのが行っちゃったかぁ。冬木も寂しくなるかな。ま、タイガがいる分、まだまだ騒がしいのでしょうけど」
「フフ、藤村先生ですか。……今日は結局来れなかったみたいですね。時期が時期だからやむを得ないのでしょうけど。ライダーも忙しいみたいですね」
「ガクセイはオジュケンの季節だったっけ? そういうサクラはこれからどうするの? いつまでも衛宮邸に入り浸っている訳にもいかないでしょ?」
「私は……特に。お爺様からの指示はまだありませんし。やりたいことも、格別ないですし」

 サクラ……。
 シロウが行方不明になって、早半年が過ぎていた。
 時の流れは残酷である。いつまでも1人の人間のことを想っている訳にはいかない。時は容赦なく私達を前へ進ませようと闊歩する。
 めいめいが、過ぎ去った時に対応すべく、空いた穴を塞ぐ努力をしている。結局私とサクラだけが、空虚な孔を胸に抱えたまま、それを埋めずに今を生きている。
 もう……シロウのことは忘れるべきなのだろうか? ――違う。彼は私のマスターだ。忘れるなんて、できない。
 見送りを済ませた面々が、方々に散り、帰路へと就く。その様が……皆バラバラに去っていくようで、少し悲しかった。
 その中で、1人背を翻してこちらに歩み寄ってくる者がいた。白銀の髪に赤い瞳。普段にも増して無邪気な顔は、何故だか機嫌が良さそうだった。

「イリヤスフィール。何です? 忘れ物ですか?」
「違う違う。……ね、セイバー。いいモノあげる」

 小さな手の内側に握られていたのは、黒い水晶。表面は、反射する光源などないというのに、どうしてか暗い煌きを宿している。魔力は、感じ取れない。

「これは一体? 宝石ですか?」
「さあ? 何でもタイガが働いている学校から4つ掘り出されたらしいのだけど。気になったからリズに頼んでかっぱらってきてもらっちゃった」
「イリヤスフィール、貴方……」
「いいじゃない。万が一魔道に類するモノだったら大変でしょう? でも魔力なんて感じられないし……。だからね、あげる」

 いきなり何を言い出すかと思えば……。盗んだ物など言語道断。本来ならば元の持ち主に返すべきだが……しかしこの場合、持ち主は誰にあたるのだろうか?

「大事にしてちょうだい。案外さ、これに願い事を念じれば、叶うかもよ?」
「……はあ。プレゼントされた所ですぐに返すのですけれどね。気持ちだけは、ありがたく受け取っておきましょう」

 少女は晴れやかな笑みを浮かべ、去っていった。

「さて、と」



Ⅰ:念じてみる
Ⅱ:早く元の所へ戻す
Ⅲ:サクラも誘う

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最終更新:2008年01月17日 20:07