780 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2007/11/26(月) 19:00:45
教会から伸びる下り坂を降りていく。
腕の中に水銀燈の身体を抱いて。
「なぁ、水銀燈」
そっと、呼びかける。
水銀燈は答えない。
静かに、身動き一つせずに、ただ俺の腕の中で眠っているようだった。
聞こえないだろうとわかっていながら、それでも聞いていて欲しいと願いながら、俺は言葉を続けた。
「俺、水銀燈のこと、なんにも知らないよな。
水銀燈が何に喜ぶのか。
水銀燈が、何に怒るのかも。
そんなだから、水銀燈に愛想尽かれて当然かもしれない。
でも……」
ああ……未練だ。
俺は、こんなにも未練たらしく、残されたものに縋ろうとしている。
それでも、口にせずにいられない。
だって、俺たちはまだ何も分かり合えていないんだから。
「もう一度、話がしたいんだ。
水銀燈の楽しいと思うこと、いやだって思うこと、なんだっていい。
何も知らないまま終わり、なんて嫌なんだ。
……なぁ、水銀燈。
俺はまだ、お前のミーディアムでいたいよ」
返事は、やっぱりない。
強い意思を秘めた瞳は、千切り取られた黒翼と、もぎ取られた右腕とともに消え去っていた。
傍から見たら、壊れた人形にしか見えないだろう。
だけど、俺は彼女が誰よりも誇り高い存在だということを忘れていない。
だから、俺は俺がやるべきことを心に決めた。
……ふっと、脳裡に見知らぬ街で見た、人形師の姿が浮かんで消えた。
あの時感じたのは、人形師に対する憧憬。
悪い冗談みたいな話だ。
俺は今、憧憬どころか、その人形師の業に挑もうとしている。
「待ってろ。必ず、水銀燈を直して(治して)みせるから」
月の照らす帰り道。
誰にも聞かれることの無い誓いを立てて、俺は水銀燈を抱きしめた。
さーて、来週の銀剣物語は?
雛苺なの!
やっと水銀燈が見つかったの……でも、水銀燈の羽根と手が壊れちゃってたの!
かわいそう、とっても痛そうなの……。
シェロゥは、必ず直す、って言ってるけど……うゆぅ、大丈夫かな?
えーと、次回は、
「彼女を起こす100の方法」
「右腕はどこへ消えた?」
「金持ちバゼット貧乏バゼット」
の三本なの!
来週も、また見てね。
それじゃ、じゃーんけーん、ぽいっ!
最終更新:2008年01月17日 20:32