930 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2007/12/24(月) 21:08:31


「確か、壊れたものは叩けば直るってじいさんが言ってたな……」

 懐かしいな。
 俺がまだ衛宮の家に引き取られて間もない頃。
 テレビの映りが悪くなった、と騒いでいたじいさんが、おもむろにブラウン管の上方斜め45度の角度から綺麗な手刀を叩き込んだっけ。
 結局テレビは直らずに土蔵に放り込まれたわけだが……上面の陥没痕を見る限り、それが原因だったんじゃなかろうか。

「……あの時封印された、じいさんの技……今こそ再び使うときなのか……!」

 そのまま禁じ手にしておけよ、という声が心のどこかから聞こえてくるが……この際四の五のは言っていられない。
 第一、他の方法が思いついたとしても、そっちのほうが有効だって保障はどこにもない。
 ならば、ここは一つ、じいさんを信じてやってみるしかないだろう。

――士郎、若さって何だと思う? 振り向かないことさ――

 ……土蔵の窓から見える青空に、じいさんの笑顔が浮かんで消えた、ように見えた。

「よ、よし……やるぞ!」

 意を決して、眠っている水銀燈の傍に腰を下ろす。
 そして、その綺麗な顔を、片手でしっかりと固定。
 残った片手を平手にして、大きく振りかぶると、そのまま――!

「やー」

 壊れ物を扱うかのように、水銀燈の頬を軽くつついてみた。
 ……こらそこ、チキンとか言うな。
 いくらなんでも、いきなり親父直伝の奥義を水銀燈相手に使えるもんか。
 そのまま、俺の指は水銀燈の頬をちょんちょんとつっつき続ける。
 ……むぅ、柔らかい。
 人形師ローゼン、いい仕事をする男だ。
 なんか、普段起きてる時はこんな真似できないから、余計に感動してしまう。

「……むう、駄目か」

 だが、水銀燈は相変わらず起きる気配を見せない。
 当たり前だ、この程度の刺激で起きるくらいなら、とっくに目が覚めている。
 つまり、やるからにはもっと強く叩かなきゃ、意味がないってことか……。

「じゃ、じゃあ次は……!」

 ああ、なんかこの感じ、初めて水銀燈を拾った時みたいだなぁ……。



α:両頬を横に引っ張って伸ばしてみよう。
β:ここは男らしく、気合ビンタを入れるしか!
γ:最終奥義、名付けて「俺の手刀はエクスカリバー」!
δ:この方法は構造的欠陥がある。

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最終更新:2008年01月17日 20:48