406 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2007/12/27(木) 23:16:55


「ほっぺを引っ張ってみようかな……」

 もっと強く、って言ってるのにこの体たらくか、衛宮士郎。
 そんな心の中からの突っ込みが入るが、これはやむを得ないことだと主張したい。
 ……あんまり強く叩いたりすると、二重の意味で怖いからなぁ。
 主に事態の悪化と、万が一目覚めた後の報復が。

「うーん、やっぱり柔らないなぁ、水銀燈は……」

 それに……純粋に水銀燈の頬を引っ張ってみたい。
 いささか子供っぽいが、そんないたずら心が刺激されたのもまた事実。
 まあ、もしもこれで目覚められたりしたら、それはそれで恐ろしい目に遭うことは想像に難くないのですが。
 ……一応念のために断っておくが、決して疚しいことは考えてないぞ?

 さておき、俺は水銀燈の両頬に手をかけた。
 真っ白な肌のうち、ほんのりと桃色に色づいている頬の中心を、指で軽く挟みこむ。
 かさつきなど微塵も感じさせない、しっとりとした上質な肌の質感は、思わずため息が出そうなほどだ。
 そして、ゆっくりと、しかししっかりと固定しながら、ぐいぃっと横に引っ張ってみる。

「……おお、伸びる伸びる」

 水銀燈の頬は意外なほどによく伸びた。
 搗き立ての餅とでも例えればいいのだろうか。
 そのくせ、弾力というか、元に戻ろうとする力は強く、たるみなどは全くのゼロ。
 ほんとに、薔薇乙女《ローゼンメイデン》ってどんな技術で作られたんだろうか?

「しかし……なんというか」

 普段とのギャップのせいか、頬を引っ張られた水銀燈の顔というのは、その、非常に愉快なもののように見えてきた。
 水銀燈が目を覚ます気配は無い。
 つまり全くの無抵抗。
 なので、そのまま指を持ち上げたり、下ろしたりして顔の形を変えてみる。

「おお、これは…………くっ」

 いかん、ますます愉快な顔に……!
 いやいや、こんなことをして遊んでいる場合じゃない。
 水銀燈を起こすのが目的なのに、俺が楽しんでいてどうするんだ。
 俺がひとしきり笑いの発作を堪えきり、大きく息を吐いた、そのとき。
 ちょうど俺の背後から、予想外の声がかけられた。


α:「……貴方、何をしているの?」真紅が姿見の中から渋面で覗いていた。
β:「……衛宮、いったい何をしているんだ?」氷室が土蔵の入り口で呆れていた。
γ:「……シェロゥ、なにしてるのー?」雛苺が土蔵の入り口で首をかしげていた。

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最終更新:2008年01月17日 20:53