324 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2007/12/31(月) 08:29:49


「やっぱり、雛苺が戻ってくるのを待ってからにするか」

 何を取りに行ったのかは知らないけど、所詮家の中、そんなに時間はかからないだろ。
 俺が慌てて何かするよりも、雛苺に任せたほうが確実かもしれないしな。
 そういうわけで、雛苺の帰りを待つことしばし。

「シェロー、お待たせなのー!」

 雛苺が、出て行ったときと同じか、それ以上の元気な声と共に、土蔵の中に飛び込んできた。

「お、戻ってきた……って、何それ?」

 雛苺は、自分の身長の半分以上もありそうななにかを抱えている。
 我が家ではあまり見かけないファンシーな形状……ぬいぐるみ?
 しかもこれ、どっかで見たことがあるような……。

「えへへー、めいたんていのくんくんなのよ!」

「あぁ。アレか」

 思い出した。
 いつだったか、雛苺と水銀燈の二人がテレビにかじりついて見ていた人形劇の奴だ。
 雛苺が持ってきて見せたそれは、その主人公であるらしい、くんくんというキャラクターのぬいぐるみのようだった。
 見たことがある気がしたのは当然で、以前藤ねぇが持っている現物を見たことがある。

「って、待てよ?
 それって確か……」

 藤ねぇが持っていたくんくんのぬいぐるみは、水銀燈が譲り受けていたはず。
 他にもう一個あったのか?
 ……いや、あまり詳しくは見てなかったが、あの時くんくんのぬいぐるみは一個だけだったような気がする。

「シャロゥ、どうしたの?」

「すまん、ちょっと待っててくれ」

 雛苺を制して、土蔵の中を念入りに見回す。
 水銀燈が置いておくなら、この土蔵の中の目に付きやすいところにくんくんのぬいぐるみが…………あれ? やっぱりないぞ?
 ということは、そのぬいぐるみの出所は……。

「なぁ、そのぬいぐるみ、どこから持ってきたんだ?」

「ヒナのお部屋からよ?」

「ああいや、そうじゃなくて。
 最初に見つけたとき、どこにおいてあったのかな?」

「え、ええっとぉ……」

 雛苺は目に見えるほどに狼狽した。
 もじもじして、目を逸らして、なんとか言葉を捜していたが、やがて観念したのか、口を割った。

「……水銀燈がいない間に、土蔵の中で見つけたの」

「やっぱりそうだったか……」

「お願いシェロゥ、ヒナがくんくんを持っていったこと、水銀燈には内緒にして!」

 そうだな……。
 わざわざ告げ口のような真似をするほどのことでもないけど、勝手に他人のものを持っていくのはよくないな。
 よし、雛苺のためにも、ここはきちんと釘をさしておこう。

「今度からは、ちゃんと『貸してね』って言って、『いいよ』って言ってくれたら持っていくこと。
 それが守れるなら、内緒にしておくよ」

「……うー、わかった。
 これ、ヒナとシェロゥの約束ね?」

「あぁ、約束だ」

 雛苺は、納得してくれたようだ。
 俺だって、そんなこと水銀燈に言いたくないしな。
 ともあれ、俺たちが両者合意に達したところで、ようやく本題に入ることになった。

「それじゃあ、雛苺。
 さっそく水銀燈を起こしてほしいんだけど……そのぬいぐるみで、どうやって起こすんだ?」

「えへへ、こうするのよ~」

 言うや否や、雛苺は自分の顔をぬいぐるみで隠すようにして持ち、ぬいぐるみをゆらゆらと揺らし始めた。
 そして、いつもよりも低い作り声で語りかける。

『すいぎんとう~、ぼく、くんくんなのよ!』

 ……台詞が役になりきれていないのは、突っ込んだらいけないところなんだろうか。
 どうやら雛苺の策とは、くんくんの物真似をして水銀燈に呼びかける、というもののようだが……果たしてこれで、うまくいくのか?

『すいぎんとう、はやくおきるの!
 もうとっくに、あさなのよ!』


α:「くんくんっ!!」鏡の中から真紅が釣れた。
β:「……くんくん?」鏡の中から薔薇水晶が釣れた。
γ:だが何も起こらなかった。

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最終更新:2008年01月17日 20:57