341 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2007/12/31(月) 15:00:33
『はやくおきないと、くんくんこまっちゃうのー。
おねがいすいぎんとう、めをあけて・…』
雛苺が熱のこもった演技(?)で躍起になっている、そのとき。
突然何者かが、雛苺に向かって飛び掛った!
「くんくんっ!」
「いひゃぁっ!?」
「うおわっ!?」
止める間も無かった。
ろくに抵抗出来ずに、何者かに押し倒される雛苺。
そのまま二人縺れ合って床に倒れこむ。
上にのしかかる形となった何者かは、乱暴に雛苺の胸元に掴み掛かった。
とっさに雛苺が盾にしたぬいぐるみが、両者の間で引っ張り合いにされている。
「なんなんだ、いったいどこから!?」
全くの不意打ちだった。
入り口から飛び込んできたのではない。
何者かは、なんと『土蔵の中から雛苺に向かって』飛び掛ってきたのだ。
そんな馬鹿な、今の今まで、ここには俺以外誰も居なかったはず……!
「いや、今はそんなことより……!」
早く、雛苺から何者かを引き剥がさないと!
動きが止まったため、何者かの姿は良く見える。
どうやら全身が赤い衣装で、雛苺と同じくらい……って、おい。
「し、真紅……?」
「くんくん、大丈夫よくんくん!
この私が来たからには、どんな問題もたちどころに……!」
「やー!
助けてシェロゥー!!」
雛苺と団子になって床に転がっているのは、同じ薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第五ドール、真紅その人だった。
以前であった時は、淑女らしく振舞っていたのに、一体これは……?
「はっ……貴女は雛苺!
もしや、貴女がくんくんを困らせていたのね!?」
「え!? 今気がついたの!?」
じゃあ何をしに来たんだろうこの人。
その腕は相変わらず、ぬいぐるみを掴んで放さない……あ、まさか。
「違うもんー!
くんくんを放してー!!」
「謀ったわね、謀ってくれたわね雛苺!
でもくんくんは貴女には分不相応なのだわ!
早急に解放してさしあげなさい!!」
「いーやーなーのー!!」
……やっぱり。
どうやら真紅嬢は、くんくんぬいぐるみに目を奪われて、それでついカッとなってやってしまったらしい。
薔薇乙女《ローゼンメイデン》って、くんくんファンが多いのかな……?
まあそれはそれとして、これ以上目の前の俗っぽいアリスゲームを傍観しているわけにもいくまい。
このままだと殺してでも奪い取りかねない勢いだし。
「なにをするきさまら……じゃなかった。
あ、あのー、真紅さん?」
「ああっ、くんくん……はっ!?」
幸運にも、俺の声は真紅の耳に届いたらしい。
一瞬動きを完全に停止させた後、バネ仕掛けのように素早く直立姿勢をとる真紅。
そしてゆっくりとした動作で振り向き、優雅に一礼してみせる。
「こ、こほん。
ごきげんよう、士郎。
くんくんの声が聞こえ……ん、んんっ!
もとい、水銀燈のことが気がかりだったから、様子を見に来たわ」
すんません真紅さん、流石にここからの挽回はちょっと。
あと、さっきのキャットファイトのせいで、髪の毛がまだ乱れたままです。
しかし、そこを深く突っ込んだらいけないような気がするので、俺も空気を読んで話をあわせる。
「あ、ありがとう。
っていうか、どこから入ってきたんだ?」
「もちろんnのフィールドからよ。
貴方たちが鏡を用意してくれていたおかげね」
「あ、そっか」
考えてみれば、薔薇乙女《ローゼンメイデン》にとっては、nのフィールドを使うのが一番手っ取り早い移動方法なんだ。
昨日みたいに外を歩いて移動するほうが珍しいんだろうな、きっと。
さっき、死角から飛び掛ってきたのも、姿見から出てきたからこその芸当だったわけか。
「この鏡、造りは質素だけれど、人の思いがこもっているのだわ。
……いいものを用意したのね、士郎も」
「む」
士郎『も』、ということは、アーチャーもこういうのを用意したって事だろうか。
しかも、おそらくはもっと豪華な代物を。
でも、それだってどうせお前の持ち物じゃなくて、遠坂の家の調度品だろうが。
この場に居ない相手へ向かって、俺が一人で憤慨していると、真紅が更に言葉を継いできた。
「それで、士郎。
どうやら水銀燈を見つけることは出来たみたいだけど……」
最終更新:2008年01月17日 20:59