182 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2007/12/26(水) 03:56:08


教会にて
→B:外のセイバーが気になる


「分かった。セイバーも気になるし、外で待ってるよ」
「ええ。私も、こんな場所に長居はしたくないし早めに済ませるわ」
そう言った遠坂と、彼女の肩の向こうで自嘲するように唇をゆがめた言峰に背を向けて、俺は教会の扉を押し開けた。
冷たい風が肌を刺す。……

一方その頃/

扉が音をたてて閉ざされ、衛宮士郎の姿が見えなくなると、遠坂凛は黒装の神父に目を向けた。
「それで、どうだった? 綺礼」
「お前の持ち込んだ人形に付いていた《糸》をたどってみたが、途切れていた」
相変わらず感情の読み難い兄弟子の言葉を聞いて、凛は小さくうなずいた。
言峰の言う《糸》とは、魔術をかけられた物品と術者を結ぶ魔力の線を指している。すなわち神父の言葉は、白い少女の追跡に失敗したことを示していた。
「手は抜かなかったつもりだが、徒労に終わった。お前の宝石をレジストしたことを差し引いても、その女の技量は侮れまい」
「ええ。悪かったわね綺礼、管轄外のことまで頼んで」
かまわんと首を振る言峰をよそに、凛はあの少女の姿を思い出していた。畏怖を覚えるほどに美しい女の顔を。
脳裏に映る女の顔が微笑んだ。

ゾクリ。

微笑みと同時に背後からの視線を感じて、凛の背筋が一斉に粟立つ。即座に気のせいだと分かり、凛は緊張を解いた。
どうにも、相手を意識しすぎているようだと、凛は自分を戒める。彼女の敵は白い少女だけではない。
「それで、教会はどう動くつもりなの?」
気を取り直すつもりで、凛は言峰に質問をぶつけた。そしてある意味では、この質問こそが凛にとってもっとも重要な問題であると言えるだろう。
日本有数の霊場・冬木市。
この地における影響力の拡大を狙い、今回の件を口実に聖堂教会がその兵力を動かす可能性があった。まさか執行機関である埋葬機関を総動員するようなことは無いであろうが、文字通りの一騎当千、あるいは一騎当百くらいの人間が送り込まれてくることは予想できる。
そうなれば、凛は聖杯戦争に加えて事件の捜査を行い、なおかつ魔術協会側の人間として教会の介入に対する対策までを行わなければならない。まったく、愉快なことではない。
「そのことだが、さきほど神霊庁からの要請があった。外交的な配慮によって、教会はしばらく傍観を続けるだろう」
言峰の口からもたらされたそれは、凛の予想を完全に裏切る返答であった。
「神霊庁? あそこ、まだ在ったの?」
凛は、怪訝な顔で言峰に問い返した。
神霊庁。表向きは宮内庁の一部門となっている公設の対魔術機関である。もっとも、その活動は明治から戦中、すなわち日本において聖堂教会や魔術協会の影響力が希薄であった時期に限定され、戦後の部門縮小にともなって現在では活動らしい活動を行っていないはずだ。
凛の疑問はそこにある。
「そうだ。神霊庁の要請にしたがってミブヤが動く」
「ミブヤ?」
「ミブヤ、壬生谷と書く。古くから魔術的な手段で日本の守護を担ってきた集団であると、師からは聞いている」
凛は言峰の言葉に含まれていた、《師》という一語に対して敏感に反応した。
「父さんが?」
「そうだ。遠坂の祖はかの宝石翁に関わるまで、壬生谷と無関係ではなかったそうだが。 ……聞いていないか」
凛は知らないわよ、とそっぽを向く。
「では不要と判断したのだろう。師によれば、壬生谷が最後に動いたのは二百年以前のことらしいからな」
「ふーん」
凛は。言峰に気の無い返事を返し、それから教会の介入に比べればくみしやすし、と見た。
遠坂家の遠祖に関わりがあるとして、ミブヤの歴史は短く見積もっても三百年は超えるだろう。血統の積み重ねがものを言う魔術師としては、これを侮ることができない。
しかし、最後に大きな行動を起こしたのが二百年前であるとすれば、話は別であった。その二百年、遠坂は聖杯戦争の渦中に身を置き続けた。おそらくは技術・経験の蓄積に格段の差があるだろう。
「骨董品ね」
それが、言峰の情報を受け、凛が導き出した壬生谷の評価であった。
「骨董品か。……なるほどな」
「なによ、文句ある?」
クツクツと笑う兄弟子を、凛は鋭くにらみつけた。
「言っておくけど、侮るつもりは毛頭ないわ。血筋に限っては遠坂以上だろうし」
「なるほど。それで、どうする凛。事件の解決は骨董品に任せるか」
「冗談。調査は続けるし、あの女は見つけて倒す。ミブヤとやらは邪魔をするようなら退場してもらう。そして当然、聖杯戦争にも勝ち残るわ」
言峰は、なるほどとうなずき唇をゆがめた。楽しそうに。
「綺礼。文句があるならはっきり言いなさい」
「いや、実にお前らしいと、な。ところで、邪魔になればセイバーのマスターも排除するのかな」
凛は、言峰綺礼を冷ややかに見つめた。それが聖杯戦争の監督者の言葉か、とでも言うように。

「セイバーを召喚した時点で、衛宮くんは私の敵よ」

/一方その頃 了


教会の扉を閉ざすと、俺は周囲を見回して外で待っているはずのセイバーの姿を探した。言峰に説明を受けるために教会の扉を叩こうとした時、セイバーはなぜかこの場に残ると言ったのである。
そして探す、と言うほどの苦労もなく、俺はセイバーを視界の中に捉えた。
「セイ―――」
声をかけようとその背中に近づいて、俺は戸惑い、彼女の名前を呼ぶことが出来なかった。
冷たい風の中でセイバーの髪が揺れている。編み上げた髪の、そこから零れ落ちた幾条かの金糸の髪が、夜の闇の中できらめいていた。
見れば、セイバーの体を覆っていた漆黒の甲冑は何処かへと消え去っていて、俺の目の前には黒衣に包まれたセイバーの肩があらわになっている。
神聖な、声をかけることもはばかられるような何かが、その背中にはあるのだろう。闇の中、わずかに届く人の創った灯と、幽かな星の光に照らされた彼女の後ろ姿は、それを納得させるだけのものがある。
だけど、何故だろうか? そう、黒衣に包まれた彼女の肩が、俺の思っていたよりもずっとか細いからだろう。
俺には、彼女が泣いているように見えた。
「シロウ?」
「ッ?!」
声をかけられて我に返ると、金の瞳が俺を見つめていた。その瞳は、当然ぬれてなどいない。
そしてよく考えれば、教会の扉を閉める音にセイバーが気付かないはずは無いのだ。つまり、セイバーはかなり前から俺が退出したことを知っているはずであった。
「あ、ああ、お待たせ、セイバー」
急に恥ずかしくなって、俺はそんなことを口走っていた。まったく的外れというわけでもないだろうが、どことなく間の抜けたセリフである。
「はい。ところで、リンはどうしましたか?」
「うん。そのことなんだけど」
俺は一度うなずくと、遠坂が別件で遅れることを話し、そして俺自身が聖杯戦争に身を投じることをセイバーに告げた。
「すまない、セイバー。君は聖杯なんて求めていないはずなのに、戦いに巻き込んでしまった。もし―――」
「かまわない」
もしセイバーが望まないのであればと続ける前に、俺の言葉はセイバーによってさえぎられていた。
「私がここにいる理由、それが分かるまでは、シロウ、貴方の戦いに付き合うことにしよう」
金の瞳が、変わらず俺を見つめていた。セイバーは綺麗だと、下心ではなくそう思う。本当なら、彼女を戦いに巻き込むことは間違っているはずだ。
だけど、間違っていたとしても、俺は俺に付き合うと言ってくれたセイバーの言葉を、心から嬉しいと感じられた。
「本当にすまない」
「私はかまわないと言ったはずです。頭を上げなさい、シロウ。私のマスターは、いついかなる時でも胸を張っていてもらわなくては困る」
そう言ったセイバーの表情は自信に満ちていて、とても眩しく見えた。だから、俺は顔を上げて胸を張る。
「分かった。いつでも胸を張れるように努力する」
「それでいい。さすがはシロウだ」
「それから―――」
セイバーが小首を傾げる。俺は顔を上げて、セイバーの顔をまっすぐに見つめた。

「ありがとう、セイバー」

「ッ」
セイバーの顔が驚きに満ちた。あ、あれ? 俺、何かへんなこと言ったか?
「その、セイバー。俺、なにかおかしなこといったかな?」
「い、いや、そんなことはない、です?」
なぜかセイバーが目をそらした。その頬は心なしか上気して、伏しがちである瞳もあいまって、そこはかとない色気が漂っている。
俺はとんでもなく恥ずかしくなった。
見なくても分かる。俺の顔色は、遠坂のコートかさもなくばアーチャーの外套の色と張り合える。多分。
「セイ」
「シロ」
沈黙。
「シロウ、なにか?」
「い、いや、セイバーこそ」
沈黙再び。静寂が、この上なく痛かった。
なお、これよりわずか後に教会から姿を現した遠坂が「なにやってるの? あなたたち」と声をかけるまで、俺とセイバーはお見合いよろしく見つめ合っていたことを追記しておく。まる。


それで、これからどうするの? 衛宮くん」
教会から自宅へと帰る道すがら、声をかけてきたのは遠坂だった。
「どうするって?」
「聖杯戦争よ! 聖杯戦争! どうせ何も考えてないんでしょうけど」
酷い言われようである。
「む。と、とりあえず非道なことをしているヤツを探してだな」
「どうやって」
「「……」」
じとー。
遠坂の視線が痛い。
「ふう。それで、ものは相談なんだけど、衛宮くん。私と手を組まない?」
「手を組むって……なんでさ」
俺は首をかしげた。遠坂のサーヴァント・アーチャーは健在であるし、遠坂が俺と手を組むことのメリットが現在は無いように思える。
「背後の安全を確保したいの。もちろん、私も衛宮くんに手を貸す。この条件じゃ不満?」
俺がたずねると、遠坂はチラリと考えるそぶりを見せてからそう言った。
「ううん……」


俺は……

同盟を結ぶ:「分かった。俺の方は反対する理由が無い」
同盟を結ばない:「悪いけど、この話は聞かなかったことにするよ」
どうしよう:「セイバー、どうしようか?」

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最終更新:2008年01月17日 23:47