791 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2007/11/26(月) 20:39:52
一触即発、まさにギリギリの状況。サラが完全にぶち切れて僕をヌッ殺そうとする時が
確実に近づいてきている。
死の予感による飢餓感が止まらない、僕はいつ死んでも後悔が残らない様に
スプリンクラーから流れ出す水を口で受け止めて飲んでは下から出す無限コンボを
続けていた。ズボンはスプリンクラーの水のおかげでとっくにびしょ濡れだが、
開きっぱなしのチャックからナニが飛び出したままのせいで漏らしているのがサラに
完璧にばれていた。
でもそんなの関係ねえー、喉が渇いたまま死ぬよりは水を満足するまで飲んでオシッコを
出せるだけ出してスッキリして死んだほうがましなんだよ。
そりゃあ僕だって抵抗したいさ。華麗に戦いこの場を切り抜けたい、トイレの出入口から
すぐにでも逃げ出したい、口先でこの危機を脱したい、でも足が竦んで一歩も動けないし
歯が噛み合わず何も喋れない。
そんな時だった、
「あ、ワン、ツー、スリー、フォー」
サラのものでももちろん僕のでもない声がトイレの奥、一番奥の個室から聞こえてきた。
さっきまで誰もいなかったのにトイレに誰かがいる、この事実はサラの展開した人払いの
結界が破られた事を意味する、当然僕よりも早くサラはその事に気付き、捨てゼリフも
残さず出入り口から脱兎のごとく出て行った。よかった、助かったんだ。
「京都にこれて良かった~、西へ東へウエスト&イースト~」
トイレの奥から軽快な歌声が聞こえてくる。僕は少年漫画チックにこの窮地を助けて
くれた人にお礼を言う為に奥の扉に向かったのだが―、
「みんなに会えて良かった~うれしはずかしオーマイコーンブ」
個室には誰もいなかった。歌は聞こえど姿は見えない。そして洋式便器が歌声に合わせて
カタカタと動いていた。まさかこの中に声の主が!?
「みんなに会えてェ嬉しい私のォ」
サビに近づくにつれ声のテンションが上がっていく、同時に便器の揺れも激しくなり
便器の表面には細かいヒビが入り始めていた。
「両手の先からカットカット!」
刹那―ゴシカァン。
内からの圧力に耐えられなくなった便器が粉々に砕け散り中から赤い服を着た金髪の男が
登場。
「カットカット!カットカット!カットカット!カットカット!」
男に礼を言いたいという思いは瞬時にぶっ飛び、僕の心を再び恐怖が支配する。
それは男の体から下水の臭いがプンプンしていたからじゃあない。
男の特徴がある存在と酷似していたからだ。
二十七祖の一人ワラキアの夜、死徒については専門外の僕でもある程度の事は知って
いるぐらい協会と縁の深い吸血鬼。自らの意思で現れる事は出来ないが、条件しだいで
世界中の色んな場所に現れる可能性のある台風の様な存在。そしてその外見は赤い服に
金髪、カットカットと叫びながら夜の街をねり歩くと言われている。そして彼が現れた
街は例外なく全滅する!!
「カットカット!カットカット!カットカット!カットカット!」
「あ、わわわ、あっわわあわわわわわわわわ~」
個室内で叫び続けるワラキアに背を向け僕はスプリンクラーの水を口に入れる作業に戻る。
「カットカット!カットカット!カットカット!カットカット!」
そっか、サラが逃げ出したのは結界が破られて一般人がここに入ってくるからじゃなくて
歌のイントロで声の主の正体が分かったからか。
「カットカット!カットカット!カットカット!カットカット!」
まだ僕は生きている。殺すなら一気にして欲しい、無理やり正面を向かされて内臓
ドッパーとかされるよりかはこのまま背中を一突きにして欲しい。でも選択権は相手に
あるんだよな。
「カットカット!カットカット!カットカット!カットカット・・・」
声がぴたりと止む、そして僕の肩にワラキアの手がポンとおかれた。
「ひっ!!」
「君、ツッコミはまだかね?ボケ殺しはよくないよ」
「あっわわわわわ、わわわわ、わっワラキっ、ワラキアー!!」
「ちょっと落ち着きたまえ、私は人間だ。そうか、私のモノマネはここまで真に迫って
いたか。それとも君がヘタレなだけかな?」
「ぽえ?」
人間?モノマネ?恐る恐る振り返って男の全身をじっと見てみる。あ、全体のイメージ
はクリソツだけどよーく見ると資料で見たワラキアとは服装が違う。
それに今は始発の電車で空港に来たんだからまだ早朝だ。こんな時間にワラキアは存在
しない。たぶん。
「私の名はコルネリウス・アルバ。最近のマイブームはワラキアの夜のモノマネ、
時計搭入学時からハタチを自称するナイスガイなのさヘタレくん」
最終更新:2008年01月18日 01:02