488 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/01(火) 02:09:28
皆さん、あけましておめでとうございますo( _ _ )o
今年もよろしくお願いいたします!
――――俺達がチョコボの世話を始めて一週間の時が過ぎた。
「クェ~ッ」
「うわ、ちょっとちょっと。困りましたねえ」
柵に遮られた胴体から限界まで首が伸び、巻菜に頬擦りをせがむ。標的となった彼女の頬は羽毛と獣臭と涎に塗れ、滅茶苦茶な有様だ。口では困った風な印象を受けるが、その実満更でもない様子であったりする。何とも微笑ましい光景ではないか。うん。
「よし、やったな! これでお前さんらは一人前のチョコボ乗りだ。今まで一週間、本当によく頑張ってくれた!」
「それじゃあ……」
「ああ。約束のチョコボ乗り免許証だ。これさえあれば各国にある厩舎でチョコボに乗れるようになる。死ぬまで有効な一生モンだぞ!」
差し出されたオヤジのゴツイ手に、3枚の手形が収められていた。もちろん俺達3人の数に合わせて3枚。文句なしの大成功の証である。
「やった、遂に……。ありがとう、おじさん」
「あんた達の努力の賜物さ。少し前までボロボロの毛並みだったコイツも今では立派な色艶を取り戻してきている。人間への恐怖心も大方取り除かれた。まったく、キスしてやりたいよ」
キスは丁寧にご遠慮願ったものの、その代わりに俺、バタコ、巻菜と順々に握手を交わしていく。肉厚な手は温かく、握られた奴は俺も含めて温かい自信が胸の内に広がっていっただろう。
ずっと付きっ切りだったチョコボを見つめる。一週間前までは怯えの色に支配されていた瞳も今では確かな気力が宿されていた。
「シロウ、早速チョコボに乗ってみましょう。この子達の足の速さは評判だから、これまでの遅れを取り戻せるかもしれない」
「そうだな……。よし、行こう。一応聞くけど、2人とも準備はできているよな?」
「もちろん。早く行きましょう」
「んっ、私も大丈夫です。それにこうまで長く一緒に居たのに背に乗れないだなんて、拷問を受けているようでしたから」
ベタついた頬を袖で拭う巻菜をおかしく思いながら、オヤジに騎乗代を払う。解放された柵から3匹のチョコボが前へと進み、俺達を乗せるべく地面に屈んだ。様々な想いを込め、その背に取り付けられた鞍に遠慮なく跨る。すると主の騎乗を確認したチョコボは、大きな身体を上へと伸ばした。長らく滞在していた厩舎とも、これでお別れである。
「これで動物の心を読めるようになれば、獣使いにまでなれるだろう。だがそいつは、俺が教えてやれるものじゃない。訓練だけでは、どうにもならんからな。あとはお前さんの経験次第だ。チョコボに乗る以上、初志を忘れるんじゃあないぞ」
エールには手を振って応える。
新たな旅立ちである。開け放たれた扉から、白い閃光が放たれた。
そして――加速。
「おおおっ!?」
ガクンガクンと上下する振動に合わせ、洒落にならないGが体中に満遍なく加重されていく。それに比例して凄まじい勢いで移り変わっていく景色。風圧がモロに顔面に叩き込まれ、うっすらと涙がこぼれてきた。馬の騎乗経験がないせいかもしれないが、それにしたってこれは予想の斜め上をぶっちぎっている。まさかあの愛らしい鳥にここまでの馬力が備わっているとは!
「おおおあ! バ、ババ、バタコ! そっちの調子はどうだ!?」
「く、う……な、何とか繰り切れてる。私のことより、マキナを見てやって……」
言われてふと巻菜の方へ首を巡らせれば……あろうことか騎乗のキモである手綱を地に放りだし、片方しかない手でチョコボの毛を鷲掴む形で張り付いていた。どこからどう見ても一杯一杯な上に危うい。
――忘れていた。普段の飄々とした振る舞いから意識せずにいたが、彼女は隻腕だったのだ。この荒っぽさには鍛えられた俺でも苦戦しているというのに、腕力のない彼女ではさながら地獄であろう。
とにかくいてもたってもいられず、手綱に横へ力を加えて何とか巻菜の方へと駆け寄った。
「巻菜! 大丈夫か? もちそうにないか?」
「く……何とか持ちこたえているけど……。でも、これはさすがにきついかな……」
どうしたものか。やはり俺のチョコボの後ろに乗せるのがベストなのだろうが、果たして当のチョコボは2人分の体重に耐えられるのだろうか。馬のようにガッチリした体格ではなく、鳥の頼りない骨格のせいか、どうも判断に困る。
そうこう考えている内に突如として巻菜が乗っているチョコボの走りが減速していった。慌てて俺のチョコボもその速さに合わせていくが、最後には歩く程度の歩調にまで落ちていった。これは一体、何が起こったというのか。
「……? えと、これは……もしかして……?」
「巻菜?」
「あたしを心配して止まってくれた……? えっ? でも、動物なのに……?」
反射的に巻菜を乗せたチョコボの様子を観察する。ぱっと見て怪我などの異常は見られない。それどころか澄んだ瞳の煌きには仮の主に対する誠実さすら感じられるではないか。やはり巻菜の言うとおりに主の意図を汲んでいるというのか。途端、何故だか無性に胸にグッときた。
「賢いんだね、おまえ……。ありがとう。どうにかしておまえを乗りこなしてみせるから。……士郎、悪いんだけどバタコと一緒に先に行っててくれない? あたしは今日中に追いついてみせるから」
「いや、危ないだろ。1人なのに獣人に襲われたらひとたまりもない」
「大丈夫、この子と一緒なら襲われることはないって聞いたことがある。この大陸の地形は全部覚えているからさ、行ってよ」
明確な意思を持った瞳。それは迷惑をかけたくない、微かな意地を込めた眼差し。
このまま置いていくのはやはり気が引けたが、しかしそれ以上に巻菜の意思を尊重したかった。
「……俺達はまずバストゥークに向かうことにする。お前が着くまで出発はしないから。……それとあんまり遅いとさすがに迎えに行くからな。気をつけて来るんだぞ」
「ありがと。すぐ行くから」
僅かに後ろ髪を引かれる思いだったが、思い切って前方を走るバタコへ合流することにする。軽くスピードを上げれば、彼女も異変に気付いて速度を落としていたらしく、すぐに追いつくことができた。
「シロウ! マキナは?」
「すぐ追いつくって。大丈夫だって言ってた」
「ちょっと。それでいいの?」
「いいよ。時に最初の目的地はバストゥーク共和国で構わないだろ? 巻菜にもそう言ってあるけど」
「バス? 私はどっちでもいいわよ。ていうか巻菜にそう言ってあるのなら変える訳にもいかないでしょ! 拒否権なんて最初からないじゃない!」
指摘されてはじめて気付く。続けて自分の身勝手さに思わず苦笑した。
「どうしてバストゥークなのよ? どちらかといえばサンドリア王国の方が近いんじゃないの?」
「いや。以前に世話になった人達がいてさ。色々あってまともにお礼を言わずに出て行っちゃって。前々からきちんとお礼を言いたいなって思ってたんだ」
「何よソレ。お礼なら手紙とか色々方法があるでしょうに」
「げ。手紙って、この世界にも手紙があったんだ。迂闊だったなぁ」
「? よくわからない人」
そうこう言っている間にチョコボは風を引き裂き、周囲の風景があっという間に切り替わっていく。最初は何か果物を栽培している果樹園。次に雨で地面がドロドロになった沼地。木々豊かな草原地帯には、バタコや巻菜と野宿したあの『メアの岩』と同じ外観をした建物があった。そして半年前に罪狩り達とちょっとした逃亡劇を演じた荒野。長い荒野をずっと東へ進んでいくと、見慣れたゲートが目に入ってきた。
「は、速い。まだ出発してから日が暮れてないってのに」
「さすがチョコボと言ったとこかしら。人間の足とは比較にもならないわ。しかも追いつける獣人がいないから無駄な戦闘も起こらないですし」
そう。
この世界では旅をしていれば襲ってくる連中がいるのが必定で、したがって途中で俺達を襲おうと躍起になる獣人の姿も目に入った。とはいえチョコボの足の速さに敵う筈もなく、いずれもまともな競争が成立することなく消え去っていったのだが。
しかしその中には冗談でないくらいに巨大な化け物もいて、チョコボがいなければと思えば内心ヒヤッとすることもあった。
「沼地で見たあのやけに息の臭い多足生物って何? 正直あんな怪物がいるなんて聞いてないぞ」
「それを言うなら私は頭に木が生えた巨大ウーパールーパーの方が印象に残ってるわね。多分、アンタが10人いても勝てないわよ、アレ」
む、言ってくれる。
チョコボの世話をしている時も鍛錬は欠かさず行っていたのだが、強くなれない自分に歯噛みしているのは何より俺自身なのだ。ああっ、早く一人前になりたいっ!
「そういや目的地に着けばチョコボってどうすりゃいいんだ? こっちの厩舎で預かるモンなのか?」
「いえ、そのまま放っておいて。勝手に自分の厩舎に帰っていくから」
言われたとおりに鞍から下りて様子を確かめてみる。そうすれば、なるほど、先程歩んできた道をそのまま辿って帰っていったではないか。本当に頭がいい動物だ。世話をしていた頃から愛着はあったものの、おかげで更なる好意を抱くことができた。
「じゃ、マキナが来るのを待つついでにちゃっちゃと済ませちゃいましょうか。順調にいけば一日で終わるかもよ」
俺達の本来の任務を思い出す。身元不明、もしくは国籍不明の俺達がウィンダス以外の二大強国の市井調査を行うこと。まずは各国のウィンダス領事館へ赴き、その旨を報告。そしてそこでも仕事を手伝わされる可能性があり、その時は速やかにそれを達成すること、か。
「……ん? でもここはバストゥーク共和国で……。待てよ、何か引っかかるな……」
何だろう。改めて条件を振り返ってみると、何か重要なことを忘れているような気がしてきた。国籍不明? 領事館? 仕事??
「何よ急に立ち止まって。早く行くわよ」
いや、待て待て待て。
第六感が告げている。これは思い出さないとマズイことになる。大分昔のことだというのはわかるのだが、この違和感の正体は一体何なのだ。この喉に引っかかる不安感の正体は、何だというのか――――。
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最終更新:2008年01月19日 23:01