594 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/01(火) 15:06:53
…………何だっけ?
えっと、思い出さないといけない筈なんだけど……うーん、全然出てこないな。
「シロ~、早く行きましょうって。いつまでも女を立たせたまま待たせるなんて、ちょっと無粋じゃなくて?」
バタコの催促の声が固まろうと努めていた思考を急速に瓦解させていく。途端、さっきまで意味のない危機感に慄いていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「ま、別にいいか。どうせ大したことじゃないだろうさ」
そう自らに言い聞かせ、前を歩くバタコに追いつこうと小走りに駆ける。
とりあえず街に入ったらコーネリアさんやグンパ、シドに会いに行こう。ここの門からは商業区と繋がっているから、まずはコーネリアさんから訪ねてみるか。
バタコに先導され門を潜った先には、果たしてかつて見知った街の風景が広がっていた。
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クォン大陸南のグスタベルグ山脈にその拠点を置く工業国家、
バストゥーク共和国。
伝統ある騎士団を持つサンドリア、
魔法大国ウィンダスなどに比べると、
その歴史は浅い新興国である。
しかしその高い技術力と豊富な鉱山資源が、
バストゥークの勢力を前記二国に比肩するまでに拡大させた。
バストゥークの人口の約半数は技術力に長けた種族、ヒュームが占める。
商業、工業、政治の実権は彼らが握っており、
彼らのその産業に対する嗅覚が発展をもたらしたと言える。
また、人口の約3割は、600年前、南西のゼプウェル島から移住してきた種族、ガルカである。
彼らの強い力は、
バストゥークの数々の鉱山開発に大いに貢献することとなった……。
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……整然と並べられたタイルに、中世ヨーロッパ風の建築物の群れ。せいぜい一ヶ月にも満たない期間だったが、ここは俺の暮らしていたバストゥークに間違いなかった。加えて、ある一人の少女と暮らした思い出も。
「懐かしいなぁ。ここも何だかんだで半年ぶりなんだよな」
「えっ? アンタ、バストゥークに来たことがあるの? ……そういえば、よくよく考えれば私とアンタが最初に出会ったのって、この近辺の港町だったわね」
「うん。短い期間だったけど住んでいたこともあったんだぞ。いやあ、いい所だった! また魚でも釣りながら住みたいって思えてくるね」
意気揚々と、ここの素晴らしさを伝えたい一心で彼女に語りかける…………が、当の彼女は俺の意に反して暗い表情に変化し始め、何故だか怒りの形相すら醸し出していた。あまりに理不尽な展開に、背中から冷や汗が流れ落ちる。
「アンタ……。ば、馬鹿っ!! 私達の任務を忘れたの!? それじゃアンタ顔知れ渡ってるじゃない!? ……ええ、貴方のことですから、ご近所付き合いも欠かさなかったのでしょうよ」
ますますわからない。
いくら考えてもどうして彼女が怒っているのか辿り着けないので、単刀直入に聞いてみることにした。
「えと、バタコさん? 何で貴女がそんなに怒っているのか、俺には皆目見当もつかないのですけれど……。あ、ちなみにご近所付き合いは盛んだったぞー。ここで俺の名前知らない人なんていないんじゃないかな? 何たって俺はれっきとしたバストゥーク国民だからな!」
――その言葉を皮切りに、いよいよ彼女の堪忍袋の緒が切れた。青ざめていた顔は一気に赤く染まり、狂犬の如くこちらに噛み付くように食いかかってくる。
「バカッ! バカッ! バカッ! この鈍感! どうしてわからないのよ!? 顔知れ渡っているとか国民とかマズイでしょうが! いいっ!? 私達に課せられた仕事、そのにぶちんの頭でもう一回よく考えてみなさい! もし私が指摘しなけりゃ、私達牢屋に入っているとこだったのよ!」
「え、と?」
仕方ないのでもう一度整理してみよう。
えーと、任務の内容が、身元不明、もしくは国籍不明である俺達が二国の市井調査を行うこと、で間違いはないよな? それでまず初めに各国のウィンダス領事館へ赴き、その旨を報告。そしてそこでも仕事を手伝わされる可能性があり、その時は速やかにそれを達成すること、であるから……?
「えーと、うーんと……あっ、そっか。国民が自分の国をスパイしてちゃ世話ないよな? ははは、ゴメンゴメン。忘れてたよ」
「アンタって人は……。もう、ホントに頼むわよ」
肩を落とすバタコを慰めようと身を屈むが、ふと辺りを見れば自分達が奇異の視線を集めていることに気付く。そりゃ門の前でこれだけの言い合いをしていたら嫌でも注目されるか。
「とりあえず早くも怪しまれてるっぽいし、移動しようか。今回に関して俺は無理みたいだから、悪いけどバタコに任せる。という訳で申し訳ないんだけど、俺は世話になった知人の所を訪ねることにするから。巻菜の件はこっちに任せといてくれ」
「馬鹿……。言われなくてもそうする以外道はないでしょうが。これは貸しだから覚悟しときなさいよね!」
そう言い、小柄な体をぷりぷり怒らせてバタコは去っていった。多分、領事館とやらに行く気だろう。我ながら間抜けな失敗をしたものである。
「貸しは大きいかなぁ。返せないくらい大きかったら困るなぁ……。ま、いっか」
記憶にある彼女はいつも広場にいのでその辺を歩き回ってみるが、中々捕まらない。やむを得ず適当な通行人に尋ね、ようやく彼女の家の道順を聞きだすことができた。早速向かってみることにしよう。
「シロウ君、お久しぶりねえ。冒険にでも出かけていたのかい?」
「いやあ、ちょっと野暮用で」
道を歩けば表を掃除しているおばさんに声を掛けられる始末。やはりバタコの言った通りに、迂闊に調査なんてすれば拙かったかもしれない。
そうしてとうとう教えられた道順をクリアし、コーネリアさんの家へ到着することができた。予想だにしなかった豪勢さに一瞬たじろぐも、口内の唾を飲み込み、覚悟を決めて呼び鈴を鳴らした。だが……。
「どちら様でしょう?」
出て来た人物は俺の知る若い女性ではなく、僅かに歳を重ねた、ぷっくらとしたおばさんだった。その細めの目がジロリと胡散臭げにこちらを一瞥した。
「えと、コーネリアさんはいらっしゃいますか? エミヤシロウと申しますが……」
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最終更新:2008年01月19日 23:03