495 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/09(水) 23:48:53
「いや、今までだって完全じゃなかっただろ、お前」
俺が咄嗟に口にしたのは、そんな言葉だった。
ぴくり、と水銀燈の肩が動く。
「なん、ですってぇ……?」
「だってほら、水銀燈って俺のことを平気で足蹴にしたりするし」
アレはあやうく俺の頭が摩擦熱で薄くなるところだったな。
少なくとも、究極の少女がやっていい所業じゃない。
「あとくんくんを見るためにテレビに噛り付いてたり、ぬいぐるみに必死になったり。
結構足りないところ、多いと思うんだけ……っ!?」
ひゅん、さこっ、と軽い音。
水銀燈の翼から飛んだ一枚の羽根が、俺の額に刺さった。
……って、刺さった!?
「ぎゃああぁっ!?」
自覚した途端、額からだらだらと血が流れてくる。
うわぁい真っ赤だ、オレ矢鴨ナラヌ羽根士郎今後トモヨロシク……じゃない!
慌てて羽根を引っこ抜いて、傷口を手で塞ぐ。
きゅ、救急箱はどこやったっけ!?
「……冗談を許してあげる気分じゃないのよ。
私が、元々ジャンクだったって言いたいの?」
七転八倒する俺とは対称的に、氷点下の声。
水銀燈は肩越しに羽根を投じた姿勢のまま、俺のことを睨み付けていた。
うう、スミマセン、あまりにも重い空気だったから、つい軽い話をしてしまいました。
ここからは真面目な話で行こう、俺の身の安全のためにも。
「そ、そういうことを言いたいわけじゃなくて!
つまり、最初から完全な奴なんているわけないってことをだな!!」
うわわ、羽根を抜いたら血が余計に出てきた気がする。
こんな状況で真面目な話しなきゃならんのか?
いや、こんな状況を招いたのは俺自身なんだけどさ。
「それは人間の話でしょう?
私たちドールは、最初から全てが定められたように作られてるの。
もし私が不完全だとしたら……それは、私が最初から、お父様にとっての失敗作だったと認めることになる」
「そ、そうなるのか……?」
つまり、人間は不完全な姿で生まれて、成長していくもの。
ドールは最初に作られたときから、成長しないってことか。
あ、救急箱みっけ。
「そんなのは絶対にイヤ。
私が……無価値だなんて……捨てられたなんて……!」
「ううん……」
救急箱の中を漁りながら、俺は水銀燈の言葉に首をひねる。
ローゼンが目指したのは、究極の少女アリスなんだよな。
それなのに、作り上げた薔薇乙女《ローゼンメイデン》を残して消えてしまった、と。
普通に考えれば、見切りをつけたってことなんだろうけど……そうすると、アリスゲームをするように命じた理由がわからない。
そもそも……。
「ローゼンの考えは、俺にはわからないからなぁ。
それに、俺は水銀燈が完全な奴じゃなくて良かったって思ってるし」
「……またふざけた理由だったら、今度こそ見損なうわよ、士郎」
ううん、水銀燈の眼はやると言ったらやる『凄み』があるなぁ。
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最終更新:2008年01月27日 21:31