885 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/23(水) 22:29:13


「ほほう。では、真紅は雛苺の姉にあたるのですか」

「うん! 真紅はねえ、薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第五ドールなのよ!
 ヒナの1つ上なの!」

「へえー。水銀燈ちゃんは確か、第一ドールって言ってたわね。
 じゃあ一番お姉さんなんだー」

「……薔薇乙女《ローゼンメイデン》って、同じ人が作ったのに、色んな子がいるんですね」

「ま、その辺は作った人のこだわりなんじゃない?
 よっぽど腕のいい職人だったんでしょ」

「当然だわ。お父様は人形師として至高の業を持ったお方だったもの」

 居間にいたのは藤ねえ、セイバー、遠坂、桜、ライダーといういつものメンバー、それと真紅と雛苺だ。
 全員が食卓を囲んで、いたって和やかな空気を形成している。
 ……さすが遠坂、自分が魔術師であることをうまく隠しながら会話している。
 桜のほうは、元々魔術に関する話をするつもりはないみたいだ。
 これなら、藤ねえの前で魔術がらみのぼろが出ることはないだろう。

「なんだ、皆揃ってたのか」

「あ、シェロゥ!」

 俺が声をかけると、まず真っ先に雛苺が振り向いた。
 真紅は横目で俺を……いや、俺が抱えている水銀燈を一瞥した。

「あら、水銀燈。
 てっきり引きこもって出てこないと思っていたのだわ」

「なぁに、真紅……貴女まだ居たの?
 とっくに帰ったと思ってたのに」

 真紅の言葉に、むっとした水銀燈が言い返す。
 しまった、そういやさっき、喧嘩別れしたばかりだったっけ。

「失礼ね水銀燈。
 客人として訪ねてきたのなら、挨拶もしないで帰れるわけがないでしょう?」

「誰も呼んでないわよ、お馬鹿さぁん」

 売り言葉に買い言葉で、ますます険悪になっていく二人。
 それに待ったをかけたのは、この場でもっともカリスマを持つセイバーだった。

「……待ちなさい、二人とも。
 なにやら因縁がある様子ですが、会うなり口論を始めるのはよくありません」

「そうよそうよ、セイバーちゃんの言うとおり。
 せっかく姉妹が会えたのに、ケンカなんかしちゃいけません!」

「そ、そうですね……姉妹は仲良く、ですよね」

「なんでそこで私を見るの、桜」

「…………」

 あれ?
 どうしたんだろう、なぜかライダーだけ、会話に参加してない。
 ちらちらと真紅のほうに視線を向けながら、やけに居心地が悪そうにそわそわしている。

「ライダー、どうしたんだ?」

「いえ……別に、どうしたということはないのですが」

「それがさ、真紅を見てから、ライダーったらずっと様子がおかしいのよね。
 やけに緊張しているって言うか」

「……私を見てから?
 なにか私が気になるようなことでも? ライダー」

「っ!!」

 なんだなんだ?
 真紅に尋ねられた途端、電気ショックを受けたみたいに硬直したぞ、ライダー。

「なぜそんなに緊張しているの?
 まるで私を怖がっているように見えるのだわ」

「そっ、そんなことはありません!
 後ろめたいことなど、ひとつも!!」

「……後ろめたいかどうか、なんて、聞いてはいないのだけど」

「ああああいえ、何でもありません!
 ……はっ、紅茶が切れていますね!?
 私が淹れてきます、しばしお待ちを!」

 何か言う暇もあればこそ。
 ライダーは唐突に立ち上がると、まだ湯気の出ているティーポット……どうみてもまだ中身が入ってるんだが……を引っつかみ、逃げるように台所へ消えていった。
 あまりのことに、俺はもとより、居間の誰もが呆然としてしまった。

「……一体どうしたって言うんだ?」

「さ、さあ……私、あんなライダーを初めて見ました」

 桜の言うとおり、あんなライダーを見るのは初めてだ……ん、初めて?

「変だな、どこかで見たような気がするぞ、あのリアクション」

 見たような気はするのだが……だめだ、思い出せない。
 俺が忘れている記憶のどこかで、ライダーがああいう様子だったことがあったのだろうか。

「ところで、紅茶の場所とか知ってるのかしら、ライダー」

「それ以前に、ライダーが紅茶を淹れられるのでしょうか……」

 遠坂とセイバーが、ライダーの消えた台所を見ながら言い合っている。
 ああー、確かに、ライダーは知らなさそうだな、紅茶のありかとか。

「ちょっと教えてくる。
 ああそうだ、ついでに昼飯の準備も始めちまうから、桜、手伝ってくれ」

「あ、はい、わかりました!」

「あー、もうこんな時間かー。
 士郎ー、私お昼はラーメンがいいなー」

「あいにくラーメンの買い置きはないぞ、藤ねえ」

 あと、ぺちぺちと卓を叩くな。
 なにを作るかは、冷蔵庫の中身と相談しなくては……と、そうだ。
 俺は、さも当然といった風に平然と座っている真紅に尋ねた。

「せっかくだし、真紅も一緒に食べていくか?」

「そうね……せっかくだから頂くのだわ」

「よし。それじゃ、ちょっと待っててくれ。
 水銀燈も、ここに座って」

「ちょ、ちょっと士郎……」

 水銀燈を座布団の上に下ろすと、なにやら文句を言いたげにこちらを見上げてくる。
 なぜなら、俺が座らせた席は、真紅の隣。
 喧嘩するほどなんとやら、どうせなら近い席で一緒の飯を食べてもらおう、という魂胆である。
 若干不安がないではないが、まあ、さっきの様子を見る限り、セイバーがいれば大丈夫だろう。
 俺はそのまま、桜を連れて台所に入った。

「…………」

「ライダー?」

 台所では、ライダーが所在無さそうに立ち尽くしていた。
 勢い込んで逃げてきたのはいいが、どうすればいいのかわからない……ってところか。
 遠坂とセイバーの不安は当たっていたらしい。

「ライダー、紅茶なら私が淹れようか?」

「……すみません、お願いします、桜」

 桜がヘルプを申し出ると、意外とあっさりと明け渡すライダー。

「ううん、いいの。
 でも、さっきはいったいどうしたの?」

「それが……」

 ライダーは非常に言いにくそうにしていたが、やがて観念したように口を開いた。

「正直に言えば、私は、真紅に苦手意識をもっています」

「な、なんでさ?
 初対面でそこまで嫌う理由、ないだろ?」

 そりゃ、生理的に受け付けないってのはあるかもしれないけど。
 でも、真紅には気分悪くなるような要素はひとつも無いと思うぞ?

「いえ、真紅が嫌い、というわけではないのです。
 むしろ、あの可愛らしい姿はとても好ましい」

 ライダーは俺の疑問を打ち消すように、首を振って否定する。
 そうだよな、ライダーって可愛いものに憧れみたいなもの持ってるし。
 現に水銀燈や雛苺のことはかなり気に入ってたもんな。

「ですが……あの小さな身体や、上品な口調が……どうも、かつての記憶を髣髴とさせてしまいまして」

 かつての記憶?
 ギリシャの女神に、真紅に似た性格の奴でもいたんだろうか。

「それがトラウマで、真紅にも普通に接することが出来ないのか」

「……恥ずかしながら」

 赤面しながら肯定するライダー。
 どうやらライダーのトラウマはかなり根が深いらしい。
 ……ホントに、一体昔のライダーに何があったんだろう?

「ライダー、これ……」

 桜が、ティーポットを載せたお盆をライダーに手渡す。
 手早く淹れた割にはいい香りが漂っている。
 さすが桜、というべきか。

「ありがとうございます、桜。
 ……私もいつまでもこのままではいけない、とわかっています。
 いい機会です、ここで苦手意識を克服してみせます!」

 おお、ライダーの顔つきが真剣になった。
 お盆を支える手にも力がこもっている。
 思わず俺もエールを送る。

「そうだな。むかし苦手だったからって、真紅とも仲良く出来ないって道理はないんだし。
 ひとつ、頑張ってみるのもいいんじゃないか?」

「ええ。では、行ってきます!」

 颯爽と台所を去っていくライダー。
 その後姿は戦地へ赴く騎士のようだ。

「ライダー、真紅ちゃんと仲良くできるでしょうか?」

「どうだろうなぁ……ん」

 ライダーの向かっていった居間から、真紅の声が聞こえてくる。


――ライダー、紅茶の注ぎ方がなってないわね。

――ひ、ひぃぃっ! す、すみません姉さま!!


「…………あー」

「み、道のりは遠そうですね……」

 まあ、そう簡単に克服できないからトラウマって言うんだけどね。
 ライダーの健闘を祈りながら、俺と桜は昼飯の準備にとりかかったのだった。
 さて、水銀燈をつれてきたことだし、今日の昼飯は……。


α:ひとつ豪勢にハンバーグだ。
β:手軽に食べられるサンドウィッチだ。
γ:子供に人気のオムライスだ。


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最終更新:2008年01月27日 21:36