135 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/02/03(日) 12:22:39


「……よし、こんなもんだろ」

 よっ、と掛け声と共にフライパンを傾ける。
 フライパンから皿に盛り付けられたのは、熱い湯気を立てたハンバーグだ。
 おっと、ハンバーグと言っても、ただのハンバーグじゃないぞ。

「今日のハンバーグはいつもより手間をかけましたもんね」

 そう、桜の言うとおり。
 せっかく水銀燈が戻ってきて、一緒に食事をすることになったのだ。
 多少なりとも豪勢なものを作ってやろう、という気になるのも当然だろう。

「ああ、今日のおろしソースはなかなかの出来栄えだな」

「先輩の和風ハンバーグ、私、大好きです。
 食べ過ぎちゃうのが難点ですけど……」

 桜も太鼓判を押してくれているし、これならいけるだろう。
 は? 花丸? なんのことでしょうか?
 我が家ではハンバーグの上位互換といったら和風おろしハンバーグなのだ!

「おーい、出来たぞー……って、なにやってるんだ?」

 食器を並べるのを手伝わせようと、居間に顔を出すと。
 そこでは、座布団に座った水銀燈を中心に、なにやら妙な沈黙が下りていた。
 一番早く俺に気がついたのは、藤ねえだった。

「あ、士郎。
 ご飯、もう出来たの?」

「出来たぞ。
 それで呼びに来たんだけど……なんかあったのか?」

「いや、水銀燈ちゃんの怪我のことでね……」

 ああ……その話か。
 さっきまでは俺が腕に抱えていたから目立たなかったけど、今ははっきりと判ってしまうから。
 水銀燈の翼と、右腕が無いことに。

「水銀燈ちゃんには悪いんだけど、さ。
 こうして見ると、水銀燈ちゃんって本当にお人形なんだなーって思って」

「ん……早いとこ、服装だけでもなんとかしようって、考えてる」

「そうね、そのほうがいいわね。
 よし、この件は士郎に一任した!
 次の案件はこの空腹を如何に打開するかという問題だ!」

 しゅたっと、シングルアクションで直立体勢に移行する藤ねえ。
 座った姿勢のまま飛び上がったように見えたぞ、いま。
 うちの虎はいつの間にか波紋でもマスターしていたのか。

「だから、もう作ってあるっての。
 食器並べるくらいは手伝えよ」

「さーいえっさー!
 ちなみに今日のお昼ご飯は何かにゃー?」

「今日は少し奮発したぞ。
 和風おろしハンバーグだ」

「うわぁ、そりゃまた豪勢ね!
 水銀燈ちゃんのために張り切っちゃったの、士郎ったら?」

「む……いや、まあ、確かにそうだけどさ」

 こういうときはやたらと鋭い藤ねえが、俺の今の心境を的確につついてくる。
 なんだか恥ずかしくなって思わず視線を逸らすと、逸らした先で水銀燈がなにやら難しい顔で待っていた。

「……士郎」

「ん、どうした水銀燈?」

「私、左手しか使えないんだけど。
 どうやってハンバーグなんか食べればいいわけ?」

「………………あ……」

 そういえば。
 水銀燈、右腕がないから、箸を持つにしてもフォークを持つにしても難儀するんだ。
 少し考えればわかりそうなものを、作ってる最中はちっとも思い至らなかった。

「大丈夫よ、士郎のことだから、水銀燈ちゃん用に食べやすいものを作ってあるんでしょ?」

「いや……ついハンバーグ作るのに夢中になってて、全員分……」

 気まずい空気が居間を占拠する。
 それを破ったのは、裂ぱくの気合と俺の顔面に迫る握り拳だった。

「このばかにぶちんーっ!!」

「ごめんなへぶっ!?」

 藤ねえの放った右ストレートが俺の眉間(人体急所)にヒット。
 思わず後方に倒れこむ俺、そして宙を舞う皿&ハンバーグ。
 あわや惨事、というところで、皿は藤ねえの手の上に軟着陸していた。
 ナイスキャッチ……どうでもいいけど皿と血って字が似てるよね。

「士郎!
 料理は食べる人のことを考えて作らなきゃだめでしょうが!
 そりゃお姉ちゃんもハンバーグは大好きだけど!
 ああなんか凄くいい匂い……じゃなくて!」

 藤ねえの言葉に、返す言葉も無い。
 藤ねえは皿を持ってないほうの手で、びし、と水銀燈のほうを指差す。

「とにかくまずは水銀燈ちゃんに謝りなさい!」

 さっき謝ろうとしたら誰かさんにインターセプトされたんですが。
 でも反論するよりも、藤ねえの言うとおり、水銀燈に謝るほうが先決だろう。

「済まない、水銀燈。
 今すぐに片手で食べられるようなものを用意するから……」

 俺が水銀燈に向かって頭を下げようとした、そのとき。


α:「……いいわよ。ハンバーグくらい、片手でどうにかできるわぁ」と、水銀燈が言った。
β:「ふん。早くしなさぁい、あまり私を待たせないことね」と、水銀燈が言った。
γ:「じゃあ、士郎が私に食べさせてくれる?」と、水銀燈が、ってえええええ!?


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最終更新:2008年03月06日 22:15