650 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/01/16(水) 05:08:52


「手伝ってくれ」
短く言い、正面に意識を集中させる。
こうして真正面に立てば理解できる。
あれは衛宮士郎が周囲に気を配りながら戦える相手ではない。
誰かと共にいて、それでも尚分の悪い相手だ。
敗北も逃亡も許されぬ相手だと言う事実は重くのし掛かりながらも、心はどこかで弾んでいる。
『桜の味方』としての戦いである故だろうか、それとも何故か普段よりもこの身に充足している魔力による物か。
理由は分からず、ただひたすらに敵を見据えていた。

走らせた設計図に魔力を巡らせる。
何らかの切っ掛けがあれば即座に終えられる臨戦態勢。
意識とは別の場所にそれを携え、敵を観察する。
挑発的にカポーテを振りながらも小刻みにステップを踏むその姿は、隙だらけに見えて機を窺わせない。
そして囁くように僅かに動く口元は、歌劇『カルメン』の闘牛士の歌を薄く歌い上げる。

僅かに離れた場所で名城が戦っているのを感じながら、奇妙な膠着が僅かに訪れ、数秒で終わりが告げられた。
背後で息を飲む音が聞こえたのとほぼ同時、魔力が放たれ、轟音が上がった。
音の方向に目を僅かに向ければ、先の鉄球が焦げ上がって転がっている。
「命拾いをしたようだな……後ろの女性に感謝したまえ」
その態度を崩さぬままに言葉が吐き出される。
『あれは……礼装?』
一気に理解する。
何故気付かなかったのか、本来聖杯戦争とは魔術師とサーヴァントによって行われる。
魔術師ならば切り札たる礼装は持っていて必然であると言う事実に、漸く思い至ったのだ。
思い至ると同時に戦慄した。
生身をしてこちらを圧倒する相手が更なる武器を手にしているという事実に、である。
「桜……」
「大丈夫です、絶対に」
いざとなったら桜だけでもと思うその言葉は、桜自身によって掻き消される。
「あの鉄球は、全部私がなんとかしますから」
背中に感じた『熱さ』は桜の体温だけではない。
空間を満たす魔力が熱を帯びて空間を侵食してさえいた。
それは途方もなく頼もしく、途方もなく安らかだ。

喜悦が抑えきれぬのか、カポーテで口元を隠した男の目は笑っていた。
「嬉しい事だ、貴女達は様々な意味で『満ちて』いる、こうでなくては……」
その剣を振るう。
落とされた鉄球が再び空中へと舞い戻る。
「我が『死招きの鉄球』への新たな贄となりはしない」
男の背後より現れた鉄球は10を超えている。
無数に浮かぶオブジェを間近に見れば、神秘性ではなく不気味さが先に立つ。
「その身に問おうではないか、私と貴君ら、どちらが生き残るに相応しき強者か」
剣の先端が鉄球の一つに触れ、鉄球は感情を持つかのように震える。
「我が剣、そしてこのカポーテに名誉を賭け、今宵もまた勝利を誓おう」
鉄球と共に、一気に間合いを詰めてくる。
「いざ、いざ! 参られい! 我が魂に触れられるならば! 貫けるならば!」

言われるまでもない。
既に設計図は『幻実に』形を為そうとしている。
ただ一つの切っ掛けで、その手に形を為す。
「投影――」
刹那に一度目を閉じ、開く。
「――開始」
ただそれだけの間に、形は為されていた。

手にしたのは干将莫耶。
未来において最も使い慣れる事が確定した一対の双剣。
それを手に――


間合:距離を開き、距離を取る
迎撃:その場に留まり、迎撃する
攻勢:こちらからも間合いを詰め、攻勢に出る


投票結果


間合:0
迎撃:1
攻勢:5

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最終更新:2008年01月27日 21:42