488 :はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU:2008/01/09(水) 22:09:14


うっかりバット:蒔寺来襲!! 「我番永遠《ずっと私のターン》!」





 ~interlude out~

 ~interlude in~

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 優雅に廊下を歩いていると、後方からズドドドド、という擬音がぴったりの、豪快な足音が聞こえた。
 振り向くより先に、左へ一歩ずれた。

「とーおっさ、かあああああぁぁぁぁぁ!??!」

 刹那、今まで私がいた空間を凪ぎ払うように、黒っぽいカタマリが通り過ぎた。その黒っぽいカタマリは、突っ込んできた勢いをそのままに、廊下の端へと消えていった。
 なので、自分の教室に入り、先客であるクラスメイト数人に挨拶をし、席にカバンを置いた。
 このまま優雅に窓の外でも眺めようか、それとも優雅に予習でもしてようか決めかねていると、

「ちょっ、待てよ遠坂!!」

 ズパーン! と、優雅さの欠片もない仕草で、先程の黒っぽいカタマリが教室に入ってきた。
 優雅に予習でもしましょうか。

「ちょちょちょ待て待て待て待て待てってばウェイトウェイトWAIT! 何おもむろに教科書を開いてんのさ?」
「予習でもしようかと」
「そうじゃなくて! その前に私が話し掛けてるじゃんかよー。無視するなよー」

 ダンダン、と地団駄を踏む黒っぽ……ええいメンド臭い、蒔寺 楓《まきでら かえで》。
 陸上部の短距離走者で、別名『穂群原の黒豹と呼ばれたい』。不条理なことにクラスメイトである。

「おはようございます、蒔寺さん」
「おっす! それでさ――って教科書開くな視線戻すな!」
「――蒔寺さん? 私に一体どうしろと言うんですか?」
「は・な・し・が・し・た・い・のーッ!!」

 いつにも増して暴走気味の蒔寺さん。
 ……あれ? いつもならこの辺で制止の声が上がるはずなんだけど。
 きょろきょろと、教室内を見回して、目当ての人物がいないことに気付く。

「三枝さんと氷室さんはどうしたんですか?」
「今正にその話をしようとしたのー! でも遠坂が聞いてくれないのー!」

 さらに地団駄を踏む蒔寺さん。……その仕草が誰かに似てると思ったら、藤村先生に似てるんだ。虎と豹だし。

「二人っとも入院してるんだよー。だから張り合いがなくてつまんないんだよー」
「入院?」
「ああ。街歩いてたら急に意識が遠くなったんだと。医者が言うには急性の貧血だってよ」

 街中で突然貧血を? しかも二人揃って?

「しかもそれを助けたのは『穂群原のブランデー』の衛宮! いやー、さすがだよなー。学校外でも生徒を見守る! みたいな?」

 洋酒か。

「つーかさー、私ら三人で買い物してたのに、ちょっと目を離した隙に由紀っちと鐘っちが消えたんだよー。何これイジメ? とか思ったわけよ。
 でもその二人が街中で倒れたじゃん? きっとあれだな、『親友を見捨てるな』っていう仏の神罰だな!」
「蒔寺さん、その病院の名前って分かります?」

 もう心の中でも突っ込むのに飽きたので、話を強引に進めさせてもらう。

「うぇ!? いやあのえっとー、あそこだよ――」

 その病院名には聞き覚えがある。魔術協会の息がかかった病院である。
 と言うことは、十中八九魔術絡みだろう。やはり今は、聖杯■■中であるから……。

(聖■■■? ■■■■って何だっけ?)

 おかしい。まるで霧がかかったかのように、言葉が霞んでしまう。その言葉を知っているはずなのに、口に出そうと--否、考えようとする度に、空気が漏れるかのように頭から抜け落ちてしまう。

「どうなってるのよ一体……!」

 苛立ち紛れに呟く。

「いや、それは私じゃなくて医者に聞くべきじゃないか? って言うか遠坂がイラついてる!?」
「い、いえ。そんなことはありえません」

 危ない。優雅さが剥がれてしまうところだった。

「つーかさー、そんなに心配だったらお見舞いにでも行けば良いじゃんかよー」
「お見舞い……」
「ん? 我ながらナイスアイディア?
 ……よっしゃ遠坂、お見舞い行くぞお見舞い! 今日! 放課後!!」

 私が……お見舞い? 馬鹿な。そんなことはできない。してはならない。私は非日常《魔術師》であり、三枝さん達は日常《一般人》である。無闇に関わってしまえば、彼女等を危険に晒すばかりか、私の弱さの露呈になりかねない。
 魔術師とは、優雅で高潔で、孤高でなければならないのだ。

「私は――」
「じゃあ今日の放課後病院でな! お見舞い品忘れるなよ? 後、時間は7時までだから!」
「――お見舞いにはっていないし!?」

 正に電光石火。蒔寺さんは私の返事も聞かず、いつの間にか廊下に佇んでいた。きょろきょろと辺りを見回していたが、やがて「見っけーーーッ!!!!」と叫んで、走り去っていった。
 軽い頭痛を覚えて、目を覆うように手の平を押しつけた。細く長いため息を吐き、これで頭痛まで空気中に出ていってくれないかと本気で思った。
 結局逃げていったのは、酸素と二酸化炭素、窒素に水素。それから、幸せだけだった。

 私はお見舞いに――。

 ~interlude out~





   【選択肢】

ブラウニーに会いに:「我行蟲野郎!! 《行くぜ蟲野郎!!》」
ブランデーって胸キュン?:「我引! 罠札!! 《ドロー! トラップカード!!》」


投票結果


ブラウニーに会いに:0
ブランデーって胸キュン?:5

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最終更新:2008年01月27日 21:52