681 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/01/17(木) 22:10:52


作戦は?
→遠坂、セイバーが足を止め、アーチャーが遠距離から狙撃を行う

「アーチャー、行ける?」
街灯の上の赤い影は、遠坂の言葉に軽くうなずくと、手にしていた矢を一射で撃ちつくし、霞みが揺らぐようにして姿を消した。
「遠坂?」
「アーチャーに大技を使わせるわ。セイバーにはバーサーカーの足止めをお願い」
「分かりました」
届いた声は、セイバーのものだった。
驚いたことに、彼女はバーサーカーと剣を交えながら、俺と遠坂の会話にも耳を傾けていたらしい。
一方、遠坂は、その間にもポケットからキラキラと光る何かを取り出していた。
「それは?」
「爆弾みたいなものね。……こんな小粒で、アレをどうにかできるとは思わないけど」
俺と会話を交わしながら、遠坂はその爆弾を二本の指で挟むようにして持ち直した。
爆弾は、宝石の姿をしている。
「《セット!》」
呪文とともに、遠坂は手にした宝石をバーサーカーに向けて投げ放った。
「《解放! 貫通!》」
宝石が指を離れるとほぼ同時に、遠坂は呪文の二節目と三節目を連続して発動した。
二節目の呪文に反応した宝石は中空で四つに砕け、三節目の呪文によって貫通の属性を与えられ、光の矢となってバーサーカーへ向かって飛翔する。
遠坂は大した威力の無いように言っていたが、宝石が姿を変えた光弾はその一発一発が大人一人を軽々と粉砕するだけの威力を持っている。

「■■■■!」

バーサーカーが咆哮した。
セイバーとの白兵戦を行っていた巨人は、遠坂の魔術にわき腹を突かれる形となり、四発の光弾は狙い違わずその体へと突き刺さる。
「ッ……。こうなるとは予想してたけど、やっぱり悔しいわね」
遠坂が切歯するように言った。
俺の視界には、遠坂の魔術の直撃を受けてなお、一片の傷すらついていないバーサーカーの巨躯が存在している。
「ハァァァッ!」
しかしわずか一瞬、一秒にも満たないようなものであっても、遠坂の攻撃によってバーサーカーに生じた隙を、セイバーが見逃すはずはなかった。
セイバーの金糸の髪が揺れ、彼女の手にした黒い刃が風を切り裂いて、バーサーカーの体に大木をも両断しそうな斬撃が叩き込まれる。

ギンッ!

しかし、そんな音をたてて、セイバーの剣はバーサーカーの肉体によって弾かれた。
「■■■■■■■■!!」
バーサーカーが、再び剣を旋回させる。
セイバーは、自らの剣でその巨大な岩塊を迎え撃った。二本の剣が激突するたびに、そこに生まれた風が俺の頬を撫でる気がする。
あの小柄な体のどこに、これほどの力があるのだろうか、セイバーは、バーサーカーを相手に一歩も引かない戦いを続けていた。
「セイバーの剣もダメなんて……ああ、もう! どんな体してるのよ!?」
「遠坂の宝石も、セイバーの剣も、バーサーカーの直前で止まってる感じがするな」
俺がそんなことを言うと、遠坂は、なぜか心底意外そうな表情で俺を見ていた。
「分かるの? 衛宮くん」
「え? あ、ああ、そりゃあ原理を説明しろとか、弱点は? とか言われるとこまるけど、なんとなくは分かる」
おそらくはバーサーカーの体の表面には、膜のようなものがあって、それが攻撃を防いでいるのだろう。
そのことを告げると、遠坂は結構本格的に驚いた。
「衛宮くん、ひょっとしてそっちの方に適正あるんじゃない?」
「む……でもなあ、あまり役に立たないぞ、これ」
遠坂に使い方が悪いのよ、と怒られる。
しかし、どうせなら一目で弱点を看破できるくらいだと便利なのだが。
「それは置いといて、その膜とやらはアーチャーに任せましょう」
遠坂は、わずかに背後、アーチャーの消えたであろう方向を気にしながら、再びポケットに手を入れた。……

一方その頃/

赤い外套の弓兵は、建ち並ぶコンクリートの塔の屋上で静かに弓を構えていた。
「I am the bone of my sword.」
弓兵の唇から、一節の呪文が紡がれる。呪文は魔力を織り上げ、織り紡がれた魔力は、一本の矢へと姿を変えた。
矢。
そう、それが弓をもって撃ち出されるものである以上、それはやはり矢と呼ばれるべきなのだろう。

たとえ、その矢が剣の姿をしていたとしても。

―――I am the bone of my sword《我が骨子は、大地を屠る》。
この呪文によって生み出されたモノは、矢を名乗るにはあまりにも大きく、そして剣でありすぎた。
2mを超える、長大で無骨な鋼の大剣。
それが、弓兵の手にした矢の姿であった。

「《改》」

弓兵は、言葉とともに手にした剣を弓の弦につがえ、キリキリと音をたてて引き絞った。

「《破山剣》」

矢は、放たれた。

/一方その頃 了


宝石が炸裂して、光の矢が雨のように降りそそいだ。光にうたれた路面が破壊され、アスファルトが飛散する。
しかし、バーサーカーは動ずることもなく、光の矢の中で剣を振るっていた。
「きれいな花火ね、リン」
「煩いわよ!」
イリヤスフィールの挑発に乗るように、遠坂はさらに幾つかの宝石を投げ放った。
幾度目かの閃光が奔る。
宝石が闇を吹き飛ばし、それに乗じてセイバーが切り込みをかける。黒い刃が、虚しくバーサーカーの体を叩いた。
「■■■■!」
咆哮とともに岩塊が旋回し、黒い刃がそれを受け止め、バーサーカーの巨躯ごと圧し戻す。
「セッ……」
そして、再び宝石を投擲しようとした遠坂が、言葉を紡ごうとしたその瞬間、《それ》は出現した。

ズンッ!

周辺の大気を粉砕し、大地を揺らすような音とともに飛来した巨大な剣が、あれほどまでに強固な防御を誇っていた狂戦士の胸板を、あっさりと貫通していた。
バーサーカーは、胸を巨大な剣に貫かれ、その体を地面に縫い付けられ、そして、動かなくなった。
「―――バーサーカー」
イリヤスフィールが、驚愕の驚愕の相を浮かべていた。
主に名前を呼ばれても、バーサーカーは動かなかった。
空から降ってきた鉄塊のような剣は、間違いなく心臓を貫通している。たとえ、あの巨人がいかなる英雄でも、即死は逃れられないことだろう。
しかし……
「やった、の?」
「分からない」
遠坂の安堵するような、あるいは疑うような声に、俺はそう答えた。
もちろん、アレほどまでに強固であったバーサーカーが、一撃で胸を射抜かれたことの現実感の無さ、それもある。
しかし、それとはもっと違う部分で、拭い去ることのできない不安感が、俺に分からないと言わせていた。
「一回、減っちゃった」
そして、それを裏付けるように、イリヤスフィールはポツリと、そんなことを呟いた。

「■■■■■■■■■■!!!!!」

咆哮。
バーサーカーは胸に剣を生やしたまま、その体を持ち上げた。
「再生したっていうの? 冗談……」
「一回でも殺されるなんて思ってもなかったわ。私のヘラクレスを殺したんだもの、誇っていいのよ? リン」
あ、と遠坂が息を呑む音が聞こえた。
ヘラクレス。
この大英雄の名を知らないものは稀だろう。
ギリシアの主神ゼウスの子であり、神々の与えた贖罪の試練を乗り越え、その死後には神の座についたとも言われる英雄の中の英雄。
「でもね、バーサーカーを倒したいのなら、あと十一回殺さないとダメよ?」
クスクスと笑うイリヤスフィール。
鋼色の巨人は、胸に突き刺さった剣を、自らの手で引き抜き始める。

『壊れた《ブロークン》』

どこかで聞いた声が、聞こえた。
それは、誰の声だっただろうか? どうしようもないほどに嫌悪感を引きたて、不安感を掻き立てる声だ。
背筋が冷えていた。寒さと、いまだ消え得ぬ不安感で歯が震えて、カチカチと音をたてる。

『幻想《ファンタズム》』

バーサーカーの胸から今まさに引き抜かれようとしている剣が、ドクンと鼓動を打つように震えた。

俺は……
Γ:セイバーへと向かって駆け出していた。
Ζ:遠坂をかばうように身を躍らせていた。
Ν:全力で駆け出した。
Ξ:金縛りにあったように動けなくなっていた。


投票結果


Γ:5
Ζ:3
Ν:1
Ξ:1

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年01月27日 21:58